11話 予兆?そして危険な双子

~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~


 1日の始まりを告げる、さわやかな音楽が鳴り響く。


「んん? もう起床時間か⋯⋯。レネ朝だぞー起きろー」


 目覚めた俺は身体を起こすと、まだ寝ているレネに声をかけた。


「⋯⋯うう。何? この音⋯⋯」


 レネはゆっくり起き上がると、目をうっすらと開けて、眠そうな目をしながら呟いた。


「起床時間の合図だよ。すげー眠そうだな? あんまり寝れなかったのか?」


「誰のせいだと⋯⋯」


「え?」


━━もしや俺、いびきかいてた?


「何でもないよーだ」


 不満げにそう言うと、ベッドから降りて、洗面所で顔を洗いだした。


 また何か怒らせてしまったのだろうかと思い、顔を洗い終えたレネに、声をかけてみる事にした。


「レネおはよう」


「あ⋯⋯うん。おはよ?」


 少し照れた感じで、髪を整えながら挨拶が返ってきた。どうやら、怒っていると感じたのは気のせいだったみたいだ。


「よし、着替えて食堂行こうぜ」


「あ⋯⋯えーと僕は、先に朝ご飯食べてからにするよ」


「行ってまた戻るのか? 二度手間だと思うぞ?」


「ほら僕って、ご飯食べてから支度する派だからさ」


━━また新しい派閥が出て来た。でもそういえば昨日、寝間着で食堂にいるやつも何人かいたな⋯⋯


「そうか。じゃ、俺も━━」


「いやいや! ライは、支度してからご飯食べる派の人間なんだから、先に着替えたりして! 僕、廊下で待ってるから!」


 レネは早口で言うと、こちらの返事も聞かずに、部屋から出て行ってしまった。


「俺⋯⋯そんなこだわり無いんだけど」


 呆気にとられながら、部屋で1人空しく呟いた。



 準備を終えて廊下に出ると、レネとバニラとセリアが話していた。


「おはよ。これは紹介する手間が省けたかな?」


「あ、ライさん。おはようございます」


「ご主人! 最近のバニラは凄イ⋯⋯。また友達ができてしまったゾ⋯⋯」


「ああ。お前は天才だ」


「やはりそうなのカ⋯⋯」


 バニラの頭を撫でて、自慢の家族を褒めていると、レネが驚いたように口を開けたまま、こちらを見ている事に気づいた。


「ご主人って⋯⋯。じゃあバニラちゃんが着けてる首輪は、やっぱりそういう⋯⋯」


━━またか!?


「レネ、誤解だ。バニラは昔、俺のメイドだったんだ。ご主人ってのはその名残で、首輪も変な意味などは全く無く、ただのそいつのファッションだ。何年も一緒に暮らしてたから、俺達は家族みたいな関係だ」


「あら? そうでしたの? でも確か、以前は獣人だからどうとか━━」


「いえ、実はそうだったんです」


━━今思いついたからな


「メイドって⋯⋯。ライって貴族か何かなの?」


「貴族ではないが、何かそんな感じのものだ」


━━本当はただの一般市民だけど


「あ、曖昧だな。ちぇー⋯⋯お金持ちなのに免除されてるのかぁ」


 レネは何やら、ぶつぶつと言っている。


「ご主人、ご飯まだカ?」


「ああ、そうだったな。行くか」


 食堂に入ると、やはりと言うべきか⋯⋯レネを見た他の生徒が、驚いたり小声で話したりしていた。


⋯⋯『嘘!? また男の子の転入生?』『またイケメンだ! 今度は可愛い系だね』『ね、ねえお姉ちゃん⋯⋯やっぱライ君と同室なのかな!?』『ええ。"事後"と考えて、間違い無さそうね⋯⋯』


 俺は、何も聞こえ無かった事にした。


「あ、ナナカさんがお1人で食べてますわ。あそこで皆で食べましょう?」


 セリアがそう言って、ナナカの方に向かったので俺達もついて行く。


「おはよ。ルーイはどうしたんだ?」


「ああ、おはよ。あの子は、何かやらなきゃいけない事があるから休むってさ」


━━やらなきゃいけない事? 何だろう⋯⋯? というか、そんな簡単に授業って休めるのか。ほんと緩い学校だなぁ


「あれ? また男の子の転入生!?」


 レネを見たナナカが、驚きの声をあげる。


「は、初めまして。レネです」


 緊張した様子で自己紹介した。やはり、レネは少しシャイみたいだ。


 その後は、おおむね昨日と同じ流れだった。バニラは朝飯に夢中になり、俺達は他愛もない話をしながら食べる。そして、何人かの女子生徒がこちらをチラチラと見てくる。


「あ、じゃあ僕、部屋に戻って支度してくるね」


 食べ終えたレネが、席を立って言った。


「おう。ここで待ってるな」


 俺とナナカとバニラは既に食べ終わっていたので、あとはセリアが食べるのと、レネが戻ってくるのを待つだけだ。


「セリア食べきれないのカ? バニラが手伝ってやろうカ?」


「ふふっ。じゃあ、このハンバーグを半分こにしましょう?」


 セリアは皆より少し食べるのが遅いだけで、バニラはただ自分が食べたいだけなのだろうが、彼女は残っていたハンバーグを半分にして、バニラに食べさせた。


━━セリアは面倒見がいいな。こっちに来たバニラを見つけたのが、セリアで本当によかった⋯⋯


 しばらくして戻って来たレネは、俺と同じ男の学生服で現れた。


「変じゃないかな⋯⋯?」


 うつむいて恥ずかしそうに聞くレネを皆が褒めている中、俺は自分と同じ格好の少年を見て、男は俺だけじゃないんだと再認識して嬉しくなった。


「いい感じ。いい感じ」


「なっ━━!?!?!?」


 唯一の男仲間であるレネの肩を組むと、そのまま寮を出て校舎に向かった。



 退屈な午前の授業が終わり、楽しい午後の授業⋯⋯のはずなのだが、何やら校内の様子がおかしかった。教師達が慌ただしく走り回っている。


【全校生徒へのお知らせです。午後の授業は中止となります。そして、街の外へは絶対に出ないで下さい。繰り返しお伝えします。午後の授業は━━】


 昼休みを終えて、午後の授業の為にグラウンドに向かおうとしていると、ノルエの声であろう校内放送が流れた。


「何だ⋯⋯? 中止?」

「何かあったのかな⋯⋯? 明らかに様子もおかしいし⋯⋯」

「街の外に出るなという事は、街の外は危険⋯⋯という事ですわよね?」

「理由も説明無しなんて、どうなってんのよ」

「?」


 俺達は訳が分からないまま、授業が中止になったので、寮に戻る事にした。


「ねえ。暇になっちゃったし、娯楽室にでも行かない?」


 寮の入口で、ナナカが提案して来た。


「娯楽室? そんなのもあるんだ」


「そっか。レネはまだ、寮内の事知らないんだったな。といっても、俺も中には入った事ないんだよ」


「行きましょう! わたくし行きたいですわ」


「楽しいのカ?」


「あーと、そんな大したもんは無いんだけどね? ちょっとしたボードゲームと、皆で話せる場所があるだけ」


 ナナカはセリアの反応を見て、ばつが悪そうに答えた。


「でも他にやる事も無いし、行ってみようぜ」


「じゃあ先に行ってて。あたし1回部屋に戻って、ルーイいないか見てくるから。場所は覚えてる? 2階の左奥だからね」


 ナナカの言葉を聞いて、俺達は先に娯楽室へと向かった。


 娯楽室に着き中に入ると、右側に見た事も無いボードゲームが縦一列に並び、左側にソファーとテーブルが、3箇所に別れて置いてあった。


「お? 誰かいるゾ?」


 左奥のソファーに、薄い緑色の綺麗な髪をした2人組が向かい合って座り、何かを書いている。


「あ、確かあの方達は、双子の姉妹の方ですわ。わたくしお話した事があるんです」


 すると、奥にいる髪の短い方の女の子がこちらに気づき、驚いた様子を見せた後、もう片方の髪の長い女の子に、何か話し始めた。


━━何だ⋯⋯?


 そして、髪の長い女の子が振り向いてこちらを見ると、手招きしてきた。


「バニラ呼ばれてル。何ダー?」


 バニラは、走って2人の元へ行ってしまった。


「何か呼ばれてるみたいだし、僕達も行こ?」


 レネの言葉に俺達も向かうと、横に座るよう促されたので、不思議に思いながらも座った。


「初めまして。私は、妹のフーリです」


 髪の短い女の子が自己紹介する。


「私は、姉のフィオル」


 髪の長い、フーリにそっくりな女の子も続けて名乗る。


 そして⋯⋯


「「私達と王様ゲームで遊びましょう」」


 謎の2人は声ぴったりで、謎の提案を突然してきた。

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