08話 初授業!新しい魔法

~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~


「うう。何の音だ⋯⋯?」


 軽快な音楽が鳴り響き、強制的に目覚めさせられた。片目を開けて、部屋の時計を見てみる。


       7:00


「そういや、起床は7時だってナナカが言ってたっけ⋯⋯。おいバニラ、起き━━」


 隣のベッドにいるはずのバニラを見るも、そこには誰もいない。⋯⋯掛け布団が、不自然な形で膨らんでいた。


「起きろバニラ。朝だぞー」


 掛け布団を捲り、少し丸くなっているバニラを揺すって起こす。


「んンー⋯⋯? ご主人おはよウーご飯カ⋯⋯?」


「そうだぞ。ほら、自分の部屋に戻って支度しておいで」


「ご飯カ!! すっすぐ準備すル!」


 バニラは両手を上げて、走って部屋を出て行った。起きたばかりだというのに、その元気はどこから出るのだろう⋯⋯。


「と、俺も支度しないと」


 顔を洗って歯を磨き、昨日支給された制服に着替えて部屋を出た。


「おーい。準備できたかー?」


 自分の部屋の隣にある、バニラとセリアの部屋のドアをノックして、声をかける。


「入って下さい」


 中からセリアの返事が聞こえ、男の自分が入っていいものか⋯⋯と、少し悩んだが、まぁこれくらいはいいだろうと中に入る。


「あらあらあら。ライさん、昨日はお楽しみでしたね?」


 顔を合わせるなり、制服を着たセリアに笑顔で言われた。


「え⋯⋯」


「わたくしが寝ている間にお2人で⋯⋯。やはり"ご主人"というのは、そういう意味だったのですねえ」


「ちっ違います! 俺は何もしていない!」


 笑っていない気がする⋯⋯。怖い。


「バニラ! セリアに何て言ったんだ!?」


 後ろで、制服のリボンの結びにてこずっている最中のバニラに、声をかける。


「ン? ご主人と"寝タ"って。手紙にも書いたゾ? ご主人に"可愛がってもらってくル"ってナ」


━━何故そんな言い方をする!?


「いや違うんです! 本当に"ただ"寝た、だけなんです! それに、とてもじゃないですけど疲れてて、そんな事する元気も残ってなかったっていうか⋯⋯」


「ふぅ~ん⋯⋯。では、元気があればしたのですねえ」


「しっしませんよ! 前にも言いましたけど、バニラは妹みたいなものなんです!」


━━そりゃ、ちょっとはドキドキしたけどさ⋯⋯


「ふふ。では信じます!」


「あれ⋯⋯意外とあっさり」


 すんなり俺の言葉を信じてくれたセリアに、ホッと胸を撫で下ろす。


「もし、嘘だったら⋯⋯」


 ⋯⋯ボソッと呟いたその言葉は、もの凄く怖かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 食堂に着き中を見ると、当たり前だが見事に女しかいなかった。俺達のように制服に着替えている者もいれば、まだ寝間着のままの者もいた。


 この学園に1人だけの男である俺が、この中に入るのはなかなか勇気がいる。


━━これからもずっとそうなんだ。校舎に行ってからもそうだし、腹をくくるしかないな⋯⋯


「ご主人どうしタ? バニラお腹すいたゾ」


「あ、ああ。入ろうか」


 覚悟を決め、なるべく目立たないように、静かに中に入る。


⋯⋯『え? 誰?』『男の子?』『転入生らしいよ!』『嘘!? 魔法使えるの?』『獣人の女の子だー。可愛いー』『な、何あのでかさ⋯⋯』


 俺達は、とっても目立っていた。


「あっ!! ライー!」


 朝食を受け取り、何処に座ろう⋯⋯などと考えていると、既にテーブルに座って食事中のナナカが、手を振って呼んできた。横にはルーイもいる。


━━助かった


 俺達は2人の元に行き、彼女達の向かいに座った。


「おはよ。助かったよ」


「ま、最初は仕方ないわよ。皆も日が経てば、そのうち慣れてくれると思うわ」


「おはようございます」


「ナナカ! ルーイ! おはよーダ!」


「おはよ。2人も、ライとは違う理由で注目あびてたわね」


 ルーイはまた、じっと俺を見てくる。


「ルーイ? 朝会ったら、おはよーって言うんだゾ?」


「あ⋯⋯おっおはよ」


 ぶっきらぼうだが少し照れた感じで、ルーイはバニラに答える。


「そして、いただきます! ダ!!」


 バニラは返事を聞くと、凄い速さで食べ始めた。もう、目の前のご飯にしか興味無いらしい。


 俺とセリアも食べ始め、ナナカと他愛ない話をしながら食事した。その間、ルーイは一言も喋らなかったが、時折目が合っては逸らされた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 朝食を終え、ナナカ達と校舎に行き、午前の授業を受けた。


 クラス等は無く、授業の全てが学年別で行われる。


 午前中は座学で、歴史や魔法の知識を学び、午後は、それらを踏まえての実技授業となる。


 午後、ようやく楽しみにしていた実技授業だ。3つしか魔法を使えない俺は、早く新しい魔法を覚えたかった。


 校舎の外のグラウンドに出ると、赤い髪の凛々しい女性が、時計を見ながら立っていた。


「⋯⋯時間だな。よし、今回も前回に引き続き、火の中級魔法"ネオファイア"の訓練をする。編入生がいるようなので、軽く自己紹介と魔法の説明をしよう」


 それはありがたい。


「私の名はフェイ。火の初級、中級魔法を教えている。編入生には悪いが、初級魔法の授業は既に終わっている為、一緒に中級魔法の訓練をしてもらう」


 いきなり中級か⋯⋯。編入だし仕方ないのかな。初級は、今度ナナカにでも教えてもらおう。


「知っているとは思うが、上級や中級だからといって、初級魔法より全てが優れている訳ではない。単に、難度を表しているだけだ。例えば中級魔法のネオファイアは、ファイアより威力は大幅に増すが、射程距離は極端に短い。要は、近距離用と遠距離用であり、用途自体がまるで違うという事だ。」


 なるほど。状況によって使い分ける為、中級魔法を覚えたからといって、初級魔法がいらなくなる訳ではないんだな。


「魔法を発動させる上で大事な事は、集中力とイメージだ。そして、その魔法に必要なだけの魔力量とセンスだ。出来るやつはすぐにでも出来るが、出来んやつは一生出来ん場合もある。しかし、一生出来んかどうかは、一生努力してみんと分からん」


 フェイは説明を終えると、手を前にかざし真剣な顔つきになった。すると、フェイの掌から、ボッという音と共に、大きな赤い炎が現れ、すぐに消えた。


「これが、ネオファイアだ。まずはやってみろ」


 やってみろって言われても⋯⋯。うーん、今見たものをイメージしろって事なのか。編入組の俺達にはきつくないか? まだ1回しか見てないぞ?


 とはいえ、とりあえずやってみようと、手を前にかざし、自分の目の前に大きな炎が現れるイメージをしながら、集中する。


 そして⋯⋯掌に魔力を込めると、目の前に、先ほどフェイが出した炎と同じくらいの大きさの炎が現れ、そして消えた。


「なっ━━!?」


 編入組を見ていたフェイが、驚きの声をあげる。


 無理もないだろう。俺も驚いていた。1発でできたのももちろんあるが、そんな事よりも⋯⋯


━━俺から出たネオファイアは"黒かった"

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る