07話 寮!謎のストーカー少女
俺達は、エレベーターを使い1階まで下り、ナナカの案内で寮内を見て回った。
1階に食堂、医務室、洗濯室、温泉浴場。
2階に修練室、娯楽室、事務室。
「こんな所かしらね。で、3階から私達の部屋の5階までは、全て生徒の部屋があるだけよ」
2階の修練室まで来た所で、ナナカの説明は終わった。
「部屋にシャワールームがあるのに、温泉浴場があるって凄いな⋯⋯。修練室まであるし、豪華すぎないか?」
「この学校、とにかく見栄っ張りだから」
ナナカは笑って答えた。
「楽しくなりそうですわ。これぞ私が憧れていた、お父様とお母様の目がない生活⋯⋯!」
どうやら、セリアの家は厳しいらしい。よくバニラの世話を、2年も受け入れてくれたな⋯⋯。
「? セリアのお父さんもお母さんも、バニラに凄く優しかったゾ?」
「自分の子には⋯⋯ってやつか」
それでもすぐに入学せず、バニラと一緒に編入で来た。バニラが言葉と魔法を覚えるまで待っててくれたのだろうか⋯⋯。優しいやつだ。
「あ、そうそう。起床は7時で、消灯は24時だから気をつけてね。あーあと温泉浴場を使う時間も、私達とライで分けないとね 。ま、それはこっちで話し合って決めておくわ。それまでは部屋のシャワー室使って!」
「あ、うん。分かったよ」
新参者で唯一の男に、当然決定権などはない。
「さてと、私はこれから修練でも⋯⋯あ、ルーイ。ルーイも修練してたの?」
修練室から、アヒルの絵が描いた可愛らしい髪留めをして、片方の耳を出した短い銀髪の少女が出てきた。
「あ⋯⋯ナナカ」
「ちょうどよかったわ。この3人今日編入して来て、私達と同じ5階の部屋だから」
「!!!!」
ルーイと呼ばれた少女は、俺達の方を見た瞬間、先ほどまでの気だるそうな目をカッと見開かせた。
「可愛い⋯⋯」
ぽつりと呟いたその言葉に驚きながらも、釘付けとなっている彼女の視線を追うと、その先には不思議そうな顔をしたバニラがいた。
「なんダ? 友達なるカ?」
「えっ!? うん⋯⋯なる」
出会って数秒で友達である。こいつのこういう所は、ほんとに羨ましい。
「耳⋯⋯さわっても⋯⋯いい?」
「いいゾ? 優しくナ?」
「ル、ルーイ⋯⋯? こんなルーイ初めて見たわ⋯⋯」
うちのバニラの可愛さは、半端じゃないからなぁ。うん、仕方ない。
「表情にはあんまり出てないですけど、ルーイさん心なしか嬉しそうですね」
「ルーイ。こっちの2人の事も覚えてね?」
「⋯⋯」
━━うわぁ。滅茶苦茶どうでもよさそうな顔しやがった
「男で魔法を使えるのよ? 珍しくない?」
ナナカの言葉に、ルーイのバニラの耳をさわる手がピタッと止まった。
「魔法を⋯⋯? どんな魔法?」
「えーと。まぁ、よく分からん魔法だ」
どんな? と、聞かれて困った俺は適当に答えた。
「でも実際、試験の時のあの魔法は何ですの? あんな魔法、見た事も聞いた事もありませんし、それに凄い威力でしたわ」
「見た事も⋯⋯聞いた事も⋯⋯ない魔法⋯⋯?」
ルーイは、俺の方をじっと見ながら何かを考え込んでいる。
「へー。凄いじゃない! あたしも見てみたかったなー」
「凄いゾご主人」
バニラが頭を撫でてくる。まぁ、褒められて悪い気はしない。
「あはは。そんな大したものじゃ━━」
「見せて」
「え?」
俺の言葉を遮り、ルーイは真っ直ぐに俺を見て言った。
「え? 今? ここじゃ無理だろ⋯⋯」
「なら外で」
「今度でいいだろ⋯⋯。疲れてるし、わざわざ外に出て見せるもんでもないよ」
正直面倒だった。それに、何故か嫌な予感がしたから⋯⋯
「⋯⋯」
「あっ! ルーイ!?」
さっきまでの和やかな雰囲気とは対照的に、ルーイは真剣な顔をして去っていった。
「何だったんだ⋯⋯?」
「ナナカさん。ルーイさんってどういう人なんですの?」
「うーん⋯⋯見た通り無口なやつよ? それ以外は⋯⋯正直よく分からないわ。さっきみたいに、何かに強い関心を示している所は初めて見たわ。ルーイもあんた達と同じで編入して来たのよ。半月くらい前にね」
「ナナカとルーイは同室なのか?」
「そうよ。あたし、元々は他の子と同室だったんだけど、あの子が入学したら何故かあたしが同室に移動させられたの。友達もいないみたいだし、あたし以外と喋ってる所もほとんど見た事ないから、何か心配なのよね」
「ルーイ友達いるゾ? バニラと友達ダ」
「アハハそうだったわね。うん、あたしもあの子の事友達だと思ってる」
「でも⋯⋯さっきは、明らかに様子がおかしかったよな?」
「そうね。まぁ、でも本人は聞かれたくない事かもしれないし⋯⋯そっとしときましょ。それじゃ、あたしは修練室でトレーニングするから。また明日ね」
「案内して頂き、有り難うございました」
修練室へと入っていくナナカに手を振り、疲れていた俺達は、部屋に戻る事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふ~。濃い1日だったな⋯⋯。」
シャワーを浴びて、以前師匠に貰った、いつも使っている寝間着に着替えると、部屋のベッドに寝転がった。
眠気に襲われながらも、今日1日の出来事を振り替えってみる。
━━2年間を共にした師匠と別れ、獣人に転生した愛犬に再会し、おしとやかなお嬢様と友達になり、試験に合格して寮に入り、活発な女の子と無口な謎の女の子と知り合う⋯⋯。1日でほんとにいろんな事があった。前いた世界での、代わり映えしない日常とは大違いだ。明日は、どんな出来事が俺を待っているのだろう━━
「師匠⋯⋯元気にしてるかな⋯⋯?」
俺がいなくなったから、話す相手がいなくて、また寂しい思いしてるんじゃないだろうか⋯⋯。ここの生活に落ち着いたら、報告も兼ねて会いに行ってみるか。
「ご主人!!」
突然ドアが開き、バニラが部屋へと入ってきた。
「うおい! 何だいきなり。ってか鍵閉め忘れてたな」
「そうカ、鍵閉めるナ。ご主人、バニラ今日ここで寝ル」
「いやだからな? 部屋割りの時も言ったけど、それは駄目なんだって」
「なんでダ! やっとまた会えたんダ⋯⋯。ご主人が見えてないと、バニラ不安で眠れなイ」
「うぐ⋯⋯。止めろバニラ、その言葉は俺に効く」
「⋯⋯」
「⋯⋯セリアは何て?」
「セリア寝てル。疲れたからっテ。だから置き手紙してきタ」
「お前字も書けるのか⋯⋯。魔法と言葉と字を2年間で⋯⋯。頑張ったんだな」
「人を探すのに、言葉と字が役に立つってセリアに言われたんダ」
「⋯⋯」
俺を探す為に。俺にもう1度会う為に⋯⋯
「分かった。でも、今日だけだぞ? 見つかって、入学早々退学なんて洒落にならんからな」
「うン!! ご主人大好きダ!」
「⋯⋯ほんとにお前は、いつもストレートだな。ベッドはそっち使えな?」
少し、冷たい言い方になってしまっただろうか⋯⋯?
バニラは、自分の姿が変わった事を気にもしていない感じだが、俺はこういう状況になって、困惑していた。
頭では、間違いなくずっと一緒にいたあのバニラだと分かっている。でも、目の前の姿は獣耳をした見慣れぬ美少女だ。
「一緒に寝ないのカー。じゃあご主人? バニラの方向いて寝てくレ」
「こうか?」
俺は、身体を横にしてバニラの方を向いた。バニラもこっちを向いていて、目が合った。
「これで安心ダ⋯⋯。ご主人おやすみなさイ」
「⋯⋯電気消すぞ。おやすみバニラ」
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