06話 雷の闇魔法!新しい出会い

 開始直後、すぐにキィン!と魔法が当たったであろう音がした。


「よし⋯⋯あと2回ですわ」


 セリアが最初の1発目で、サンダーを球体に当てたのだ。


「おお! セリア凄いナ!!」


「バニラちゃん! こっちを見てないで貴女も当てるの! 時間以内に3回当てないと駄目なの! 教えたでしょ? サンダーよ!?」


「わっわかっタ!! 一緒に入学しようって約束したもんナ!」


 バニラは前を向き、目の前の球体に向かってサンダーを放ったが、外れてしまう。


が、すぐに2発目を撃つべく、失意によって下ろされた手をかまえ直す。


 ライはまだ撃っていない。目を閉じ、集中していた。


━━何をやっている? このテストは制度と速度が大事だ。それを考えればやはり、最も扱うのが簡単なサンダーが━━


「ダァァク⋯⋯⋯⋯」


 目を開け覚悟を決める。


 無数の漆黒の雷の刃が突如現れ、緋色の球体を取り囲んだ。


━━な!?


「プリッ⋯⋯ズゥゥン!!!!!!!」


 叫びながら掌を握りしめると、刃は一斉に球体に向かっていき、恐ろしい轟音と共に、ノエルが作り出した球体を跡形もなく消し去った。


━━な、何だ⋯⋯今の魔法は⋯⋯。雷の魔法を専門とする私が、見た事もない魔法だ。しかも私が作った魔法抵抗を持つ球体が、一瞬で塵1つ残らず破壊されてしまった⋯⋯


「えっ消えた。ちょ⋯⋯先生! 撃ったのは1発ですけど、3発以上は同時にですが当たったんですから合格ですよね!? 1回としかカウントされないんでしたら、はっ早く次の丸いのを出して下さい!!」


 セリアとバニラは、驚きで固まっている。


「⋯⋯今のは雷魔法なのか? ⋯⋯いやいい、何であろうと充分だろう⋯⋯合格だ」


「やった⋯⋯!! 2人は!?」


 ライに顔を向けられた2人は、思い出したかのように、目の前の球体に集中し直す。


━━こいつ⋯⋯何者なんだ。あの魔法、いったいどれほどの凄まじい威力をもっているのだろうか? 私の防護魔法を一瞬で⋯⋯あ、いかん。時間を見るのを忘れていた━━


「のっ残り20秒だ!!」


「あ! 当たりました! あと⋯⋯あと1回⋯⋯!」


「⋯⋯バニラも!! もう2回当ててるから、あと1回だゾ!!」


「そ、そうか⋯⋯両方あと1回だな⋯⋯?」


━━正直、少年の魔法に目と耳を奪われ、途中からこの2人の事は見ていなかった。しかし試験監である私が、すまん見ていなかった。などとはとても言えない⋯⋯あってはならない


「当たった!! やりましたわ! これで3回! バニラちゃん頑張って!!」


 セリアも合格を決め、すぐにバニラを応援し始めた。


「残り10秒!! 9、8⋯⋯」


「バニラ!! とにかく撃て! 何でもいいから当てろ!!」


「5⋯⋯4⋯⋯」


「バニラちゃん⋯⋯!!」


「あわわわわ⋯⋯当たレ! 当たレ!!」


「2⋯⋯」


━━くそっ駄目か⋯⋯!!


      "キィーーン"!!


 もう駄目だと、この場にいる誰もが思ったその時、弾けるような音が全員の耳に入ってきた。


「当たっタ⋯⋯。やったゾ! やっと当たっタ!!!!」


「ふふ。おめでとう⋯⋯。3人共合格だ」


「「「やったああああああア!!」」」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ほう⋯⋯君が見た事もない魔法をか。

それはいい⋯⋯必ずウチで卒業させなさい」


「分かりました。彼に、"ヴァルキア学園出身"という肩書きを必ずつけさせます」


「うむ。全教員にも伝えておいてくれたまえ。彼女の⋯⋯ルーイの様子はどうだ?」


「変わりありません。あの様子では、まだ見つかっていないようですね」


「そうか。引き続き、彼女の動向にも注意してくれたまえ。これ以上、この学園を落ちぶらせる訳にはいかない」


「もちろんです。では、私はこれで失礼します」


「やれやれ⋯⋯面倒な役目を押し付けられたものだ⋯⋯」


 うんざりとした顔でぼやく学園長を横目で見ながら、ノエルは部屋を出た。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ふーむ、部屋も広いし最高だな⋯⋯」


 授業に参加するのは明日かららしく、俺達はまず、寮の自分の部屋に案内された。 


 本来であれば2人で1部屋なのだが、学園に男は俺しかいないので、この広い部屋に1人だけだ。ちなみにセリアとバニラは、同部屋で俺の部屋の隣だった。


 椅子と机とベッドが2つずつあり、洗面台、個室トイレにシャワールーム付きで綺麗な部屋だ。


「そういや、寮内も見ておけって言われてたな」


 迎えに行くか⋯⋯。と、部屋を出るとちょうど


2人もこちらに向かって来ている所だった。


「あはははハ! ご主人ー!!」


「うおう!!」


 走って飛びついてきたバニラを、何とかキャッチする。


━━こいつは自分の体がでかくなった事を、絶対に分かっていない⋯⋯


「素敵なお部屋でしたわね。さっそく、他の場所も見て回りましょう!!」


 セリアは、新しい生活にワクワクしているようだ。俺達の部屋は最上階の5階な為、エレベーターか階段で下りる事になる。


「あれ? あなた達誰?」


 不意に、赤茶のポニーテールをした、活発そうな少女に声をかけられた。


「あ、えっと、俺達今日からここに入学したんだ。君は⋯⋯?」


「あたしはナナカ。ってか、あなた男よね!? 入学したって事は魔法使えるの!? 腕は!?」


「ちょちょちょっ! 俺はライだ、魔法は⋯⋯一応使える」


 急に肩を捕まれての、怒涛の質問責めにうろたえる。


「ご主人の魔法は凄いゾ! おかしな叫び声の後な? ずががががぁぁーん!!ダ。 バニラなんか"1回しか"当てれなかったのにナー」


━━おかしな言うな! あれ? 今こいつとんでもない事を⋯⋯


「ライさん⋯⋯。聞かなかった事にしましょう⋯⋯」


 ええ。そうしましょう。


「よく分かんないけど、ちゃんと使えるんだね⋯⋯。驚いたわ。魔法が使える男なんて、ほんとにいたんだ。ねぇ、部屋はこの階?」


「え? あ、ああ。そこだよ。これからよろしくな?」


 バニラのずる賢さに驚いてぼーっとしていた俺は、すぐ後ろの扉を指差して気の抜けた返事をする。


「あの、私はセリアと申します」


「バニラはバニラだゾ! 友達になろウ!」


「ええ、よろしくね。この階には、アタシともう1人しかいなくって寂しかったの。歓迎するわ」


 もう1人いるのか。って事は、そいつがナナカと同部屋なんだろうか?


「そうだ! ちょうど授業も終わって暇だし、寮の中を案内したげる!」


「あら、それは助かりますわ! 私達もちょうど、見て回ろうとしていた所でしたの」


「決まりね! それじゃ行きましょー」


「ご主人! バニラまた友達増えタ!」


「よかったなー」


 嬉しそうなバニラの頭を撫でて、ナナカとセリアの後ろを歩き始めた。

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