第4話 ミカゲ班員、不満を溢す

 ミカゲの元に通信兵から通信が入る少し前のこと。

 こちらも市街地周辺区域を目指し、箒を飛ばしているのはウォルター、トバイアス、クレイグの組である。

 ウォルターが不満そうにこぼす声が他二人の耳に届いた。

「結局俺が言った通りに分けるなら、文句を言う必要ねえんだよあのおすまし野郎」

 誰のことを言っているかは容易に察せられる。クレイグがすぐさま非難の声を上げる。

「ミカゲ少尉を悪く言うなよ。コン軍曹の特性を把握してからじゃなきゃ判断できないのは当然だろ。たまたま結論がウォルターと一緒だっただけで」

「お前喋る言葉がミカゲ少尉殿と似てきてんじゃねえのか、胸糞悪い。ああ似てきてるんじゃねえな、似せてんのか。憧れだもんなあ、パートナーになったはいいものの、能力不足でお役御免になったクレイグちゃんにはよぉ」

「何だと! お前こそ独断専行でミカゲ少尉に迷惑ばかり掛けているくせに!」

 ウォルターの悪意に満ちた揶揄にいきり立つクレイグ。それまで黙っていたが堪り兼ねてトバイアスが口を挟む。

「いい加減にしろ二人とも! 任務中だぞ」

 至極もっともな叱責を受け二人は黙り込む。トバイアスは溜息をついて言葉を継いだ。

「ミカゲ少尉がパートナーを変えるのは今に始まったことじゃないだろ。誰が悪いわけじゃない、相性が悪かっただけだ」

 はんっと息を吐きながらウォルターが失笑する。

「普通多少相性が悪かろうが相手に合わせようと努力するもんじゃないのかねぇ。あんなんじゃ一生掛かってもパートナーなんか決まりやしないぜ、寂しい独り身だ」

「ウォルター! お前ミカゲ少尉をそれ以上侮辱すると…!」

「侮辱すると、何だ? お前みてえなチキン野郎が俺に何か出来るってのか?」

「二人とも止めろ‼ まとめて箒から弾き落としてやろうか‼」

 トバイアスがキレた。


 同時刻、少し早く市街地周辺に到着し巡回区域をゆっくりと飛ぶのはネイト、ヘザー組である。

 ヘザーは先程から虫の居所が悪い。明らかに苛々した様子で、普段なら可愛い系と評されるその丸顔を剣のある表情に曇らせていた。

 ネイトが意を決して声を掛ける。

「どうせミカゲ班長のことだろうけど、何か機嫌でも悪いの?」

「どうせって何⁉」

 ぎんっとネイトを振り向きざまに睨み付けヘザーは高い声で言う。肩を震わせ怯えるネイト。ヘザーはきんきんした声で続ける。

「何なのあの糸目女! ミカゲ班長に馴れ馴れしいと思わない⁉ 班長も班長よ! 結局二人で行っちゃうし! 元々知り合いみたいだけど何なの⁉ どういう関係なわけ⁉ ねえネイト‼」

「俺が知るわけないし怖いよヘザー」

 けたたましくまくし立てるヘザーを片手でどうどうと制しながらネイトは宥めるように返事をする。しかしヘザーは止まらない。

「前に付き合ってたとかかな⁉ あの女の訳知り顔がすっごいムカつく‼ 班長もさ、微妙に気まずい顔してるし! 振ったのかな⁉ 振られたのかな⁉ 振られたんだとしたらマジで班長可哀想! 癒やしてあげたい‼」

「ヘザーさん、推測でしかない事柄がいつの間にか確定的事項にすり替わってる。論理の飛躍だよ」

「アンタみたいな冴えない男がミカゲ班長の物言いを真似しないでよ!」

「真似してないよ、誤解だよ」

 その時二人の視界の端に、市街地から微かに漏れる閃光のようなものが飛び込んだ。二人は顔を見合わせる。ヘザーが呟く。

「出現時発光…」

「自分も確認した、確かに出現時発光だ。しかも街の中心辺りのように見えた。応援要請をしてから急行しよう」

「ダメよ! ちゃんと目標モンスターを視認識別してからの要請でないと、ミカゲ班長に怒られる」

 言うが早いか、ヘザーは箒を市街中心部へ向け速度を増して飛び出した。ネイトは慌ててヘザーを追う。

「ヘザー! 功を急いで逸るなよ!」

「私はそんなウォルターみたいなヘマしない! アンタこそ遅れないでよ!」

 二機の箒が唸りを上げて飛行する。その様を街の住人達が不安げな眼差しで見送った。

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