終末でも学校は忙しい<Ⅱ>
後ろに迫る『あれ』と『それ』をマラソン大会で後ろに追いすがる人達を背にして、ゴールテープを切るように長生は校門を抜けて高校の中に滑り込みました。
真っ直ぐ続く道の途中で今度は空襲警報ではなく、何の前触れもなくテレビの画面を切り替えるように『夜闇』は消え何時もと変わらない、安堵すべきなのか疑問に思ってしまいますが何時もの狂った茜色の空へと戻り、すると後ろから『あれ』と『それ』が大挙して押し寄せて来ました。
道の途中のわき道からワラワラという擬音が聞こえて来そうになる程に『あれ』と『それ』が飛び出し、時にはずうっと昔に住まう人が消えこの終末の世界では『あれ』の依拠となった空き家からからも『あれ』が飛び出して来て。
真っ直ぐな一本道はあっと言う間に『あれ』と『それ』の大行列が生まれ、長生が校門の前に辿り着く頃には腕を伸ばせはリュックを掴まれてしまうまで距離を詰められていました。
なので本当に文字通り間一髪の所で『あれ』と『それ』の入って来れない『高校』へ逃げ込む事が出来ました。
後は目の前の校舎を通り抜け、その先のグランドにある陸上部がかつて用具倉庫として使っていた貨物列車の貨車に設けられている、学生達が教師に見つからずに学校外へ出る為の秘密の抜け道を通れば『あれ』や『それ』のいない通りに出る事が出来ます。
では何故、長生は『高校』に逃げ込む事を躊躇っていたのか?
答えは目の前の愉快な光景が原因でした。
これはきっとあの時にまであった光景の一遍なのでしょう。
長生もかつてはこの光景に一人だったので良く分かります。
ただ置き換えているだけなのでしょう。
無数に輪郭だけの顔の無い学生服を着込んだマネキン人形が『高校』のいたるところに置かれていました。
今さっきまで動いていたと思わせる程に綺麗に違和感なく置かれたマネキン人形の姿からきっと、学校が終わり帰宅する風景なのだろうと言う事は容易に想像が出来て不気味さを増長させています。
生き生きとしたマネキン人形の間をすり抜け掻き分けながら長生は進んで行くのですが、時折視線を感じて上を見上げると、窓からこっちを見ている様な錯覚を覚えさせる配置のマネキン人形が所狭しと置かれていました。
渡り廊下から身を乗り出しているマネキン人形はきっと、友人に声を掛けているのでしょう。
教師を思わせるマネキン人形は生徒を追い立てていたり、気を付けて帰るように言っている様であったり様々で、本当に生き生きとしたマネキン人形が『高校』に溢れています。
早く、速く、と心臓は脈打ちこの恐怖しか抱けない景観からの解脱を長生の身体に急がせ、長生自身も拳銃を片手に周囲を見渡しながら後ろを追って来るマネキン人形がいないか警戒します。
理由は過去に『高校』に何か物資が無いか入った折、言い知れぬ存在に後ろをつけ回されている感覚に襲われた事があり、その恐怖から長生は必要に迫られても『高校』に入る事を避けていました。
ですから今すぐにでも取って返して逃げ出したいというのが掛け値なしの本音です。
それでもグランドに入り野球の練習中のマネキン人形の前を通り過ぎ、陸上部が用具入れとしていた貨車まで辿り着いた時には、長生は安堵の気持ちで大きく息を吐きます。
後は貨車の隙間に何時頃からか取り付けられた取っ手を伝って壁とフェンスを越えれば、ここから脱出が出来るそう思った時、ふと、後から急に気配が消えました。
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