終末には過去が去来する<Ⅱ>

 一人になったからと言って何もせずにいることは出来ない。

 俺はただひたすらに生き続ける為に色んな事をした。


 『夜闇』が来る前兆を知り『夜闇』の中で安全を確保する為の手段を見つけた。

 屋上から徘徊する『あれ』や『それ』を観察して安全な食料を調達するルートを見つけて、時には危険を犯して隣町まで行き食料を持ち運ぶための大きなリュックを手に入れ、立ち寄った交番で拳銃を手に入れ、生きる為に必要な物を片っ端から集めて本当に使えるか試した。


 拳銃を手に入れた直後は万能感に支配された。

 だけどあれは駄目だった。

 『あれ』にも『それ』にも威嚇程度には使えはしたが音で周囲の『あれ』や『それ』が集まって来て、命からがら住処に逃げ帰った。


 ポリ袋は本当に万能で『ぎゅー肉』や『ブた肉』を臭いを漏らさずに持ち運べる。

 LEDランタンは必需品だ。

 『夜闇』の中で数少ない自衛手段だからだ。


 『トリ肉』については考えないようにしている。

 鶏肉のような味はするだけで明確に舌がこれは鶏肉じゃないと言って来て、違和感が不快感に変わり慣れるまで何度も吐いた。


 『ぎゅー肉』を始めた食べた時は幼い頃の記憶を思い出した。

 意味もなく子供と言うのは口の中に物を入れてしまう、俺も幼い頃に粘土を口に入れた事があってあの時の味に似て、思わず吐いた。

 『ブた肉』は食べる以前の問題だ。

 食べる筈もなく口に入れる訳もない。


 世界が終末に至ってから『ナマモノ』は毎日欠かさず補充されている。

 誰が?と最初は疑問に思って町中を徘徊する『あれ』や『それ』だと思っていた。

 観察し続けて違うと確信した。

 

 たぶん今もどこかにいるであろう『何か』が補充しているのだ。

 律儀に……。

 電気も水道もガスもまだ通っているのだからきっと、本当に随分と律儀に『何か』が何かをしているのだろう。


 そう言えば『あれ』や『それ』以外にも面倒なのがいる。

 気を付ければ基本的に出くわさない。

 

 どうやら世界が終末に至ってから発生した『あれ』や『それ』のような存在は明確に自分達の場所を決めていて、そこに行かなければ出くわす事は基本的に無い。

 『あれ』も『それ』も狂った茜色の空の下、街中を徘徊している。

 だから街に行けなければ出くわさない。

 絶対ではないけれど……。


 本当に、何故俺は生き続けているのか分からない。

 大切な人を失った。

 家族を失った。

 知人を失った。

 失った人の達との思い出も失った。

 何を失ったのかも思い出せない時もある。


 それでも俺は今日もこの終末の世界で生きて行く。

 生き続けて行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る