終末には商店街へ繰り出します<Ⅱ>
この世界で補充されるのは『ナマモノ』に限定されていました。
世界が終末に至ってから自然と補充される様になり最初は唐突に現れた『あれ』が関わっているのだと長生は思っていました、ですが『あれ』を観察している内に『あれ』もただ自分と同じようにこの終末の世界を生きているだけの存在だと気付くと、一つの答えに辿り着きました。
『何か』の仕業だ。
あの日、太陽を飲み込んだ『何か』が気を利かせて補充してくれているのだ。
とはいえそれに気が付いたから変わる事がある筈もなくただ生きる糧には出来ると思って、長生は世界がこうなっても自分の好物であるオムライスが食べられるのだから、世はことも無しの精神で軽く流してしまいまいた。
なので今日の彼の一番の目的は『タマゴ』を手に入れることだったので何時もなら『ナマモノ店』に置かれている筈の、10個入り1パックの『タマゴ』が見当たらない事に戸惑っています。
立ち上がり隅々まで確認しても『タマゴ』は見当たりません。
そうなるとどうするべきなのか?
長生は自問してすぐに今日一番を更新する嫌な顔を浮かべました。
「『ラーメン屋』を突っ切って、スーパーに行かないといけないのか……」
商店街のアーケード通りの先にある随分と昔には一番の老舗と言われて人気のあったラーメン屋は、今では『あれ』や『それ』が行列を作る『ラーメン屋』になっていました。
長い長い行列が出来ている道路を通った先に『ナマモノ』以外の食料品が手に入るスーパーがあるのですが、当然そこに行くまで距離があり何より『あれ』と『それ』の目の前を通るという危険を犯さないといけません。
ですが別の迂回路が幾つかあるので目の前を通らずともスーパーには行けます。
それでも長生が嫌な顔を浮かべているのはスーパーに行った後、必ず『夜闇』が訪れるてしまう事が明白だからでした。
しかし『タマゴ』が手に入るのはこの先のスーパーか、ここ以上に危険極まりない駅前のデパートしかありません。
行くは地獄、行かぬは安全。
諦めるという選択肢が真っ当で正常な選択でしたが長生は少しの躊躇いだけですぐに行くを選んでしまいます。
スーパーに行けば不足している物が全て手に入り何より『タマゴ』が手に入る。
心を決めると長生は周囲を警戒しながら歩み始めました。
時間の制約があるので動く足は先程よりも速く、パンフレットに記載している『あれ』と『それ』の徘徊するルートを綺麗に避けて、一路スーパーに向かいました。
今度は体感と実際の時間の経過に大きな差も無くスーパーの近くに到着します。
路地裏から周囲を警戒して『ラーメン屋』の前で列を作っている『あれ』も『それ』もこちらに気付いていないのを確認すると、長生は走って道路を渡り裏口からスーパーの中に入りました。
中は不思議なことに空調がしっかりとされています。
ただ暑くも寒くもない、春の穏やかな日の夕暮れのような今の世界ではさほど意味をなさず、ごうごうと音を出す冷蔵ケースは逆に煩わしく思え長生は目的を早々に済ませて帰ろうと『ナマモノ』売り場に直行しました。
そこにはカゴ車に所狭しと積まれた『タマゴ』がありリュックを下ろして乱雑に『タマゴ』を投げ入れて行きます。
普通なら割られてしまいますがそれは鶏卵の話、この『タマゴ』は多少乱暴に扱っても
必要な量の『タマゴ』を手に入れ後は真っ直ぐ帰るだけなのですが、人という生き物はよく魔が差したり欲が出てりする性質があり、長生もまた人なのでせっかくここまで危険を犯して来たのだからついでに不足している調味料類や非常食も調達しようと思ってしました。
やめればいいのに、迂回をして予定の時間を大幅に過ぎているのにそれでも欲に駆られて長生は他の売り場に行って、不足している食料を餌に群がる豚のように片っ端からリュックの中に入れて来ました。
極度の緊張を強いられてからの解放は時として、緩めてはいけない物まで緩めてしまいます。
そして大量の食糧を詰め込んだリュックを背負い長生はようやく帰路につく事を決めたのですが、今の長生の心は意気揚々とまるで泥棒がまんまと家主の隙を突いてありったけの金品を盗み出した時と同じような気分になり、そして浸っています。
そう言う時、人は迂闊になります。
例えば普段している行動をし忘れる。
『あれ』や『それ』の徘徊するルートが変わったのだから当然のように、今まで安全だったルートが安全ではなくなるというのは、この終末の世界で長く生きている長生は熟知しています。
なのでまず表と裏で変化ないか確かめてから出る。
これが普段の行動で、しかし今日は何時もこの通りには『あれ』も『それ』もいないから安全だと、気分上々に考えも無しに表から出ました。
大口を開ける『それ』が出た所にいる表から……。
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