終末でも日常はありました<Ⅱ>
終末には人は何をするべきなのでしょう?
それは生存を諦めない限り道筋の先を見据えて日々を懸命に送る事です。
ですので長生は今日も屋上に上り、街の地図が記された観光パンフレットとボールペンを持ち、双眼鏡の瞳から眼下の街並みを見つめて『あれ』が行き交う様子を観察してパンフレットに書き込んで行きます。
『あれ』が何なのか長生自身も観察していると言うのに分かっていることは大まかな事だけでした。
何故なら『あれ』は。
形はバラバラ、姿もバラバラ、靄のように見えたり霧のように見えたり霞のように見えたり、はっきりとした輪郭を感じる時もあればのっぺらぼうに見えたり時にはお面を付けている様に見えたりする。
不気味と言うには少し滑稽で、不思議と言うにはあまりにも悪辣で、でも遠目から見ているとどこか哀れに思える。
『あれ』を観察してどういった存在なのかを分かりませんでしたが、長生は幾つかの共通点があることに長年の観察で理解はしていました。
『あれ』は決まった場所を徘徊する。
『あれ』は生き物を執念深く追い掛ける。
『あれ』は死肉しか食べない。
『あれ』は人が住んでいた建物には入って来ない。
『あれ』は神社仏閣のあるこの住処の近辺には近付けない。
以前住んでいた家は長生の記憶する限りでは突如として隣近所の家を囲い込み、このままでは自分達も外へ出れなくなると危惧した父の発案で家を捨てて、今住んでいるこの木造の大正建築のような寮、つまりこの住処へと移り住みました。。
「配置が変わった……とすると今までのルートは使えない」
長生は抑揚のない声でそう言うと一から『あれ』の観察をし直します。
以前から使っている安全なルートを徘徊する『あれ』を見つけたからでした。
『あれ』は仲間を呼ぶ習性があります。
熟知している長生は別のルートは使えるか?
屋上から目的地までのルートを何度も確認しました。
すると以前まで『あれ』が徘徊していた線路まで直通の道が使える事が分かったのですが、以前にもそれは幸いと行ったが最後で『あれ』よりも質の悪い『それ』と出くわして、大変な思いをした事があったので長生は油断せず周囲の入念に周囲の確認をします。
徘徊する『あれ』は見えません。
徘徊する『それ』も見えません。
「最短距離…いや迂回しよう」
露骨に過ぎると思えたので魅力的に見える最短ルートを使わず多少の危険を承知で長生は別のルートを探します。
普段使っているルートは目に見えて『あれ』の数が増えていました。
以前使っていたルートは変わらず頻繁に『あれ』が徘徊しています。
他のルートも軒並み多少では済ませれない危険が散見していました。
なら食料の調達は来週に回した方が良いのか?
長生は自問してすぐにそれは駄目だという結論に至ります。
世界が終末と至ってから『肉』は定期的に補充されいるのですが、それ以外の調味料や食料品はまったく補充されません。
使ってしまったのならもう元には戻らない。
ですので長生はまだ容易に手に入るそれらを可能な限り使い続ける為に、不本意ながらも『肉』を食べ続けています。
と同時に何故人のいなくなったこの世界で今も電気が通い、明かりが暗闇を照らし蛇口をひねれば水が出るのか?
もう長い間、この終末の世界を生きているのにも関わらず今も腐らず食べられる物が残っているのか?
異常は連綿と続く日々になると日常になるように、この世界での都合のいい不都合に長生は慣れ、最早意識なければ当たり前と受けれているにも関わらず長生は今も、自らに投げかけ続けます。
終末の世界を生み出した『何か』とは何だったのか?
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