ポイントがゼロになったら死にます

響ぴあの

ねがいの代償は命。命はポイント制で減少する

 ねがいををかなえるという「ねがいの館」をご存知ですか?

 インターネット上に存在するという架空のお店で扱う品物は、「ねがい」です。


 金額について心配には及びません。無料ですから、お金がなくても大丈夫です。どなた様も、年齢性別関係なく、お店に出会うことができたのなら、利用することが可能なのです。


 特に利益は求めていないのです。営利を目的としない慈善事業なのですから。こちらは、そのようなお客様の人生に彩を添えたいと思っているだけですので、プライバシーは守ります。


 ねがいの館は、SNSで困っている人を見つけ出し、助けるという事業を主に行っております。


 誰も館主の本当の正体はわからないのです。年齢不詳、本名もわからないのです。いつからこのお店をやっていたのかどうかも、誰も知らないのですから。神か悪魔かそれとも魔法使いなのか、敵か味方かその正体は一切わからないのです。


 今宵のお客様は、気の弱そうな高校生の男子です。

 SNSの片隅でSOSを発していました。きっと誰かに聞いてもらいたい、そんな夜もあるでしょう。どうやら自殺願望があるようなのです。


 ××××××× 


 俺は、高校3年生。もう死んでもいい。いや、死ぬしかないのだ。人生に絶望した俺は、死を求めていた。どうやって死ぬか? そればかり考えていた。おかしなことかもしれないが、それまでに、どうやって生きてきたとか、誰かとの楽しい思い出は、どうしてもうかばなかった。それほど俺の人生は暗く寂しいものだったのかもしれない。俺が誰かの役に立ったこともないし、今後も役に立つとは思えない。要するに、希望がないのだ。絶望のみなのだ。


『あなたのねがいかなえます』と書いてある風変わりなつぶやきがある。ねがいの館という人のもとに、『死にたい』と書いた言葉に書き込みをしてみた。これは、冗談ではなく、本気だった。


『ねがいの館の館主です』という返信だった。なんとも、風変わりな書き込みだった。もしかしたら、詐欺サイトからのメッセージだろうか。


 こうなったらインターネット上で、人生最後の会話をしてみよう。この暗くて長い先の見えない未来を。俺という一人の人間として。どこかで人間というものは救いを求める。まるで少年漫画の危機一髪のシーンのように、ヒーローが目の前に現れるかもしれない期待をみんな持っているのではないだろうか。死ぬ前に誰かに声を掛けられたい、誰かと言葉を交わしたい。俺はどこかで望んでいた。

 

 俺はやっぱり何かを成し遂げてから死ぬべき人間なのではないかという葛藤があったことに気づいていた。ただ、消えたいと言葉に出すだけで、自己満足の極みだったのかもしれない。勇者に会ってみたいと俺は幼いころに思っていた。それはゲームに出てくる正義の味方だ。

 

 大人になりつつある俺は正義の味方でも悪者でもない、何でもない人間となっていた。誰かもわからない誰かと、文字で会話をはじめてみた。


『あなた、死にたいと書きこんでいましたよね? どのような死に方をお望みですか?』


『おまえは殺し屋か? 俺は、死にたいけれど、殺されたいわけではない』

 俺は断った。


『死ぬ前に何をしたいのですか? あなたのねがいをかなえるだけで、殺すわけではありません。もちろん、料金は無料です』


『死ぬ前にやりたいことをかなえてくれるっていうのか? しかも無料で。でも、それで死ぬことができるのか?』


『ねがいがかなえられるとポイントが減少しますので、ポイントがゼロになるとあなたの心臓は止まってしまいます』


『ポイント? ポイントはどのくらいあって、ひとつの願いでどれくらいなくなるんだ?』 

 なんだか命をポイントで語られると妙に腹が立った。捨ててもいい命だと思っていても、やっぱり自分を愛する気持ちはどこかにあるのかもしれない。


『今、あなたは800ポイントほどありますが、ねがいの大きさによってポイントは違うので、使いたいときに言っていただくと、ねがいをかなえる前に、おおよそのポイントは教えます』


『じゃあ、願いをかなえてくれよ』


 俺は、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。俺の心の内側の煮えたぎるような苦しみとか葛藤とか、そういったものを吐き出して、楽になりたかったのかもしれない。そうしたら、浄化された状態であの世に行けるような気がした。


 

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