ポイントがゼロになったら死にます【5分で読書収録作品】【書籍化】
響ぴあの
ねがいの代償は命
ねがいをかなえるという「ねがいの館」をご存じですか?
インターネット上に存在するという架空のお店で、扱う品物は「ねがい」です。
金額について心配には及びません。無料ですから、お金がなくても大丈夫です。
どなた様も、年齢性別関係なく、お店に出会うことができたのなら、利用することが可能です。
ねがいの館は、SNSで困っている人を見つけ出し、助けるという事業を主に行っております。
誰も館主の本当の正体はわかりません。年齢不詳、本名も不明です。
いつからこのお店をやっていたのかどうかも、誰も知りません。
神か悪魔かそれとも魔法使いなのか、敵か味方かその正体は一切わからないのです。
さて、今宵のお客様は、気の弱そうな高校生の男子です。SNSの片隅でSOSを発していました。
誰かに話を聞いてもらいたい、そんな夜もあるでしょう。どうやら自殺願望があるようなのです。
***
俺は、高校3年生。もう死んでもいい。いや、死ぬしかないのだ。人生に絶望した俺は、死を求めていた。
どうやって死ぬか? そればかり考えていた。
おかしなことかもしれないが、それまでにどうやって生きてきたとか、誰かとの楽しい思い出はどうしても浮かばなかった。
それほど俺の人生は暗く寂しいものだったのかもしれない。俺の存在が誰かの役に立ったこともないし、今後も役に立つとは思えない。
要するに、希望がないのだ。絶望のみなのだ。
『あなたのねがいかなえます』という風変わりな書き込みがある。
人生の不平等さと生きづらさに疲れていた。人より秀でたものはないし、がんばってもいつも底辺に位置している俺は落ち込んでいた。
母親も亡くなり、孤独と絶望で押しつぶされそうになった俺は、ねがいの館という人のもとに『死にたい』と書き込みをしてみた。
冗談ではなく、本気だった。
『あなたは死にたいと書き込んでいましたよね? どのような死に方をお望みですか?』
こうなったらネット上で、人生最後の会話をしてみよう。どこかで人間というものは救いを求める。
まるで少年漫画の危機一髪のシーンのように、ヒーローが目の前に現れるかもしれない期待をみんな持っているのではないだろうか。
死ぬ前に誰かに声を掛けられたい、誰かと言葉を交わしたい。俺はどこかでそんな淡い希望を持っていた。
俺はやはり何かを成し遂げてから死ぬべきなのではないかという葛藤にも気づいていた。
ただ消えたいと言葉に出すだけで、自己満足の極みだったのかもしれない。
勇者に会ってみたいと幼い頃に思っていた。絶対に折れない正義の心を持った最強の勇者にだ。
大人になりつつある俺は勇者でも悪者でもなく、何もかもが普通以下の弱い人間となっていた。
俺にとっての勇者になるかもしれない、正体がわからない誰かと文字で会話をはじめてみた。
『おまえは殺し屋か? 俺は、死にたいけれど、殺されたいわけではない』
俺は断った。
『死ぬ前に何をしたいのですか? あなたのねがいをかなえるだけで、殺すわけではありません。もちろん、料金は無料です』
『死ぬ前に無料でやりたいことをかなえてくれるっていうのか? でも、それで死ぬことができるのか?』
『ねがいがかなえられるとポイントが減少しますので、ポイントがゼロになるとあなたの心臓は止まってしまいます』
『ポイント? ポイントはどのくらいあって、ひとつのねがいでどれくらいなくなるんだ?』
なんだか命をポイントで語られると妙に腹が立った。
捨ててもいい命だと思っていても、やはり自分を愛する気持ちはどこかにあるのかもしれない。
『今、あなたは1000ポイントほどありますが、ねがいの大きさによって消費されるポイントは違うので、使いたいときに聞いていただくと、ねがいをかなえる前におおよそのポイントは教えます』
『じゃあ、ねがいをかなえてくれよ』
俺は、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
俺の心の内側の煮えたぎるような苦しみとか葛藤とか、そういったものを吐き出して、楽になりたかったのかもしれない。
そうしたら、浄化された状態であの世に行けるような気がした。
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