第14話 籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草履を拾う人

 明治大学日本拳法部の研究 その3


 規格に収まらない人間を吸収し、彼らの持ち場・持ち味を活かしたチーム全体に育てる(道を教えてあげる)ことができる組織力。

  どんな個性を持つ人にも門戸は開放され、違う場に行く機会は均等に与えられている。草履を拾う人が籠に乗ることもできるし、むしろ、それぞれの仕事(役割)に楽しみと誇りを持つ雰囲気があるために、みな自分の居場所でそれぞれの存在感を持ち楽しんでいる。

 それぞれの立場・役割・身分が固定されていない。自分の努力と周囲の育て方によって、誰でも自分の居場所を作ることができる。


 日本拳法をやっていた高校三年間という時間を、初めて大学で日本拳法を始めた者が、大学生らしくどうやって知的に、このギャップをキャッチアップするか。

 この学校は、大学から日本拳法を始めた人を、組み打ちという場で養成するオペレーションをうまく成功させている。 大学から日本拳法を始めた(らしい選手)は、彼らの身体的特徴・機能的特長を活かした拳法をしている。

 組み打ち専門の人にしても、ほとんどプロの領域だ((単に体が大きい、力で押しつぶすのではなく、再現性がある科学に近い技術を持つという意味で)。 まるでグレーシー柔術のように、さっと相手を取り込んで倒してしまう。

 柔道と違い、日本拳法では袖口や奥襟を掴むことができないにもかかわらず、自分の体重の乗せ方で、相手のバランスを崩させる。

 彼らは「組み打ち」で一流派を成すこともできるほど、といえるだろう。


 おもしろいのは、関西の大学には(私が今回の大会で見た範囲では)組み打ち専門という人はいなかった(男子)。

 彼らは高校時代から日本拳法をやってきた人ばかりらしいのだが、どうしても「殴る・蹴る」で一本を取りたい、そういうスタイルで勝ちたいという思いがあるのかもしれない。

 女性で私が好きな同志社大学OBのMさんや4年生のTさんは、特にそういう意識が強いらしく、絶対に自分からは組まない。

 Mさんは華麗な円運動で、Tさんは、組み打ちが弱いというわけではないにもかかわらず、あくまで「面突きと蹴り」で勝負しようとする。

 私自身が面突きの楽しみばかり追求し、「チームのことを考えない自分勝手な奴」と言われていたので、(彼女たちが自分勝手というわけではなく)彼女たちのこだわりが好きですし、私と違い、自分の拳法をしながらもチームのためになんとか勝とうと努力するその姿に敬服するのです。組み打ちの練習をすれば、もっと勝率が上がるということがわかっていながら、面突きと蹴りにこだわる。

  「組み打ちに強くなるために腰が太くなるなんて嫌や」という、自分の美学に徹する(これは私の勝手な想像です)。

 

 ここに私は、自分の心にひたむきで一本気な「大阪の女」を感じるのです。日本映画「悪名シリーズ (藤原礼子(悪名波止場・悪名市場)、嵯峨三智子(悪名市場)、浪花千栄子(悪名)」 「東三千(マムシの兄弟 2人合わせて30犯)」に見る大阪の女性たちですね。


 大きな大会に選手として出場し、勝つことに生きがいを見出すのもいいし、あくまで自分の(拳法)スタイルにこだわり、これを追求することに喜びを見出すのも同じくらい幸せでしょう。

 人は「自分が自分である」証明を求めるものなのですから。

 イエス・キリストは「野の百合を見よ」と言いました(私はキリスト教徒ではありませんが)。

 大きくて美しい宮殿できれいな花壇に植えられた数万本の百合の花も、荒れ果てた野原に一本だけ咲いている百合の花も、どちらも自分の存在感を示していることに変わりはない。できる限りの努力で自分を美しくしようと努力している。人間的な価値観では宮殿の百合が好まれるかもしれないが、神の目線で見れば、宮殿なんて土塊一粒と同じにしか見えないのだから。

 どこに咲こうと、自分が自分であるという自覚を持てればそれが一番の幸せなのでしょう。

 今後この大学から、組み打ちばかりでなく、その人の特性を活かした個性的拳法、存在感のある戦いぶりを見せてくれる人が出てくるのか楽しみです。



 2018年12月26日

 平栗雅人

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