第8話 天知る地知る人ぞ知る

「いっそ八百屋を焼いたなら いとし恋しの吉さんに また会うこともできようと 一把いちわのワラに火をつけて ポンと投げたが火事の元 だれ知るまいと思うたに 天知る地知る人ぞ知る ・・・」 


 ○ 人を見る・人に見られるということ

 相撲観戦でも、枡席から双眼鏡を使用して楽しむのは世の常・人の常。

 とはいえ、試合で戦う姿を見られるのはよしとしても、観客席での(応援する)姿を見られるのは、(特に女性の場合)少しは気にかかるかもしれません。

 しかし、倍率8倍という、オペラグラス(オペラなどの観劇用)程度の双眼鏡ですから、毛穴まで見えるわけではない。

 カメラやビデオで撮影しているのでもない。

 

 まあ卒業して会社に入れば、ワンフロア何百人という中で仕事、なんてこともあるでしょう。

 上役・同僚・先輩・後輩、 他部門の人や掃除のおばちゃんにまで、朝から晩まで自分の一挙手一投足を「見られて」いるわけです。

  神に見まもられているのか、監視されているのか、といった受け身の姿勢よりも、むしろ、積極的に自分というものの存在をどう表現して見せるか。

 大きな大会で場数を踏んでいる選手とは、そんな「自分の姿を自然に表現できる力」を持っているのでしょうか。まるで、見られることを意識しているかのように、その姿は特異(際立っている、輝いている)でありながら、自然の風味を持っています。

 大勢の人間、様々な存在(物)のなかで、「和して同ぜず」「天上天下唯我独尊」の境地で、自分というものの存在感を示すことができるというのは、素晴らしいことではありませんか。


 今大会、それを見るために行き、実際に見た数々の試合を必然(の出来事)とすれば、全くの偶然・行き当たりばったりで目にした事にも、人の存在感と運命の面白さを味わいました。


 ○ 大会終了後の表彰式、たまたま双眼鏡でとらえた、ある女性選手の憮然とした表情。

(しかし、翌日の彼女のブログによってその理由がわかり、誤解が理解となる。)


 ○ 私が観客席に座っていた8時間のうち、ほんの5分間、たまたま通りがかった通路ですれ違った、巴御前の如く凜とした立ち居振る舞いの元女戦士。


 ○ やはり、偶然通りかかった通路で、防具を着けていた女性選手は、普段のブログで見せる優しい笑顔とは打ってかわった厳しい表情。戦いに征かんとする「馬上の美少年」の如く毅然としていた。


 ○ (あとで誰かが撮影したビデオをネットで見ればいいと)男子決勝戦の代表戦、敢えて双眼鏡を関係者観覧席で見守る3人の女戦士たちの方へ向けていたところ、たまたま捉えた日本女性の感動の仕方(日本的な奥ゆかしさ)。

(優勝が決まった瞬間、彼女たちはその喜びを内に向け、しみじみと味わっていたのです。その姿を見て、こういう感動の仕方というのは日本人だけだなぁーと、私もまた、しみじみとこの感動を味わうことができました。)


 ○ 大学4年間、黙々と「日本拳法部掲示板」で事実のみを発信してきた女性が、引退となるこの大会を前にして初めて自分の意見を綴ったブログには、誰も気がつかなかった「日本拳法の(素晴らしさを伝える)真実」がありました。


「どうしても伝えたい二つのお話」

 https://ameblo.jp/meiji -kempo/entry-12419777618.html


 閉会式で、大学名が書かれたプラカードを手に立つこの女性が、表彰される選手たちを(日本人らしく)涙を堪えて見守る目は真っ赤でした。

 この大学と何の関係もない私にとって、この時、双眼鏡を下ろし手が痛くなるほど叩いた拍手とはその姿に対してでした。


 ○ 姿と内面、表と裏、形而下と形而上の一致

 易でいう「器と道」が一致したところに生ずる一体感・安心感と、こうした数々の感動こそ、今大会の観戦において得ることができた、もう一つの大きな思い出です。

 試合の結果だけでなく、こういうアナログ的な楽しみ方もあるということを、多くの(日本)人に知ってもらいたいと思います。


 2018年12月8日

 平栗雅人

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