第3話 ─ 「君の名は」




「将軍様!!流石サスガにございます!!

 ポール!!

 素敵な、お名前だと思います。

 そこで…

 将軍様、大変に恐縮なのですが…

 この勢いで、ワカクシ筒兎ツツウサギにも名前を付けては頂けないでしょうか?」


「おお!!かまわぬゾ!

 与えてつかわす!!

 そうじゃのう…

 フムゥ…

 ヨシ!!

 ではどうじゃ?」


「……。

 将軍様…。お言葉ですがぁ…

 英語でウサギ…

 そのまんまじゃないですかぁ…」


「そうかぁ…

 では…

 !!フランス語で、ウサギ はどうじゃ?」


「イヤイヤ…

 言語の問題じゃなくて、

 1度、ウサギから離れましょうよ!」


「ウム!!

 じゃあ…

』でどうじゃ?」


「じゃあ…って!!

『ガッキー』ってどう言う事ですか!?

 急に話の前後関係無く、ナチュラルに将軍様の趣味、バレバレじゃないですか!!」


「毎日、ガッキーって呼べたら、

 ワシも嬉しいじゃろうが!?」


「それって、将軍様の一人得じゃ、ないですかっ!!

 もう!!分かりましたよう!!

 自分で考えますよう!!」


 フッとショウケースに娘が目をやると、

 濃厚カルボナーラにピッタリのチーズ。

 ペコリーノロマーノが美味しそうに並んでいる。


「ペコリーノロマーノ…ペコリーノ…

 そうだわ!!

 ペコよ!!

 ペコがいいわ!!

 いかがでしょう!!将軍様!!」


「ペコか!!

 ウム!良い名前じゃ!!めてつかわす!!」


 と、かさず少年が店内隅に向けて話しかける。


座敷ザシキわらしや!!そこに、居るのじゃろうて、姿を現わしてくれぬか!?オヌシにも、名前を付けて進ぜよう!!」


「オイ!!何で、あたいが居る事が分かったんだよ!!将軍のオッサン!!」


 キリの様に座敷わらしが、浮かび上がる。


「まぁ…カンじゃよ!勘!!見えていた訳では無いが、こう長くオヌシに接していると、そんな気が働くもんじゃて」


「何だい!勘かねぇ…。オッサンに見つかる様に成っちまったら、あたいの魔力も、とうとうが回ったかねぇ…」


「まぁ…その様に案ずるな!親しみの度合いじゃて!!」


「チッ!!…お互いに、名前を付けるだの、付けてもらうだのしちまうと、自然にが移っちまうもんだぜ!!あたいは、そう言う、人間がする様な、面倒メンドウは、ゴメンだよ…」


 座敷わらしが、プイと顔を横へ向けると、少年がニッコリとサトす。


「座敷わらし。例えばじゃよ!!ワシの目の前に、座敷わらし以外の座敷わらしが後、二人現れたとしよう。そしたら、ワシは、ドラマのエキストラの様にオヌシ達を、座敷わらしA 、B、 Cと呼ばねばならんじゃろう? 」


「まぁ…確かに、その大勢的な、アツカいは、あたいの自尊心ジソンシンを傷付けるわねぇ…」


「じゃろう…?」


「そうよ!!座敷わらし!!この際、将軍様に、素敵な名前を付けてもらいなさいよう!!」


 筒兎ツツウサギも、後押しをする。


「じゃぁ…勝手にしなよ!オッサン!!」


 顔を横に向けたまま、座敷わらしが答える。


「それは、それは…ではこちらで、勝手に名付けさせてもらおうかのう」


 少年が、再びアゴをサスる。


「座敷わらし、オヌシは、鈴蘭スズランの様にアイらしいによって、でどうじゃ?」


「スズちゃん…いいじゃない!!

 座敷わらし!!スッゴく可愛いわよ!!」


 筒兎ツツウサギが自分の事の様に喜ぶ。


「……。

 スズ…

 あぁ悪くは無いな…。

 あたいは、勝手にしろと言ったろ!!」


 恥ずかしそうに、少し顔を赤らめる座敷わらしが、初めて、こちらを向いた。


「では本日より、ポール、ペコ&スズで、タノむぞ!!

 何だか、不思議な感じじゃが、転生した事よりも、名前を変えた事の方が、宿ヤドシした気がするのう!!」


「本当に不思議ですね。将軍様!!

 座敷わらしも、そう思うでしょ…う…???」


 筒兎ツツウサギの問いかけにも、途中で席を立ち上がり、外へ、スイッと出て行ってしまった。


「なんじゃ…?名前が気に入らんかったんかのう…?」


 顔を見合わせる2人を残し、座敷わらしは、チーズ店を足早に離れる。





 秋葉原、中央通りにワラベが一人。



「スズ…


 スズ…。


 スズだってさっ!!


 ふふふ……」


 少女は嬉しそうに、小さな下駄を、カラコロと鳴らしながら、雑踏の中へ溶け込んでいった。






 ─ 陽射しが残る初夏、夕暮れの出来事である。

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