第2話 ─ 「ワシの名は」




「将軍さまぁ~。 今日も当店自慢のタピオカシェイク、大入り大繁盛ダイハンジョウですねぇ!!!!」


 開店を待ちかねる様に、若い御客さん達が長蛇の列で迎える。


「そうじゃのう…ありがたいことじゃなぁ」


 しみじみと少年が答える。

 と同時に、御客さん達の、美味しそうな笑顔を見つめながら、


筒兎ツツウサギ…。

 今、フッと思った事なんじゃがぁ…」


「何ですか?将軍さまぁ…?」


 メイド娘が、不思議そうに聞き返す。


「いや、そのじゃよ!」


「えっ?将軍様は、将軍様じゃないですかぁ?」


「ウム!そうなんじゃがな…

 最弱悪魔に成り果ててしまった、今のワシにでも、以前と変わらずシタって ″ 将軍様 ″ と呼んでくれる、オヌシの真心マゴコロは、本当にありがたい。

 しかしじゃなぁ…昨今の日本の事情からしてみれば、の将軍様と間違われても困るし、人混みの中では、名前を呼びにくいじゃろうてぇ…」


「まぁ…確かにそうですねぇ…将軍さまぁ。

 私も、その事は気付きませんでした!!」


「じゃろう?

 『メフィスト様』でも、良いと言えば、良いのじゃが…

 他の魔物達に正体がばれてしまう危険性が有るわい。

 そこで、改めて提案なんじゃが、何かワシに良い名前を付けてはくれぬかのう。

 筒兎ツツウサギ!!」


「ああそんな事でしたら、お安いご用ですよ!!」


 娘がポンと一つ胸を叩く。


「私の特技は名前や、あだ名を付ける事なんですよ!将軍様!!」


「ウム…。魔物たるオヌシの特技が、まさか名付けだとは…

 ムシろ、色々な意味で不安に成って来たわい…」




「あっ!!早速サッソク、4つ整いました!!」


 娘が得意気に手を挙げる。


「おお!!ここは、筒兎ツツウサギに、

 御披露ゴヒロウ、頂こう!!」


「え~。それでは、行きますようっ!!

 4つ!!

 チビ太、チビ吉、チビ助、チビ蔵。

 どうです?」


「……。


 筒兎ツツウサギ…。

 センスの欠片カケラを全く感じさせない、ネーミングのラインナップじゃないかぁ…」


「えぇぇ…。どこが悪いんですかぁ!?

 将軍さまぁ…?」


「きっと、今、ワシの少年姿を見て、と、イメージしておるのじゃろうが、だいたい親が、自分の子に、チビなんて名前を付けるワケないじゃろ!!」


「名は体を表す!!と言いますからねぇ。

 私は良い名前だと思うのですがぁ…。

 じゃぁ…将軍様が自身に対するイメージはどの様な物ですかぁ?」


「そうじゃな!強くて…格好よくて…

 ウム…やはり、ヨーロッパ出身なだけに、カタカナ表記が理想じゃな!!」


「何ですかぁ将軍さまぁ!!早く言って下されば良かったのにぃ!そう言う事なら、分かりました!直ぐ御用意、出来ます!!」


「おお!筒兎ツツウサギ!ここは再び頼むぞっ!!」


「整いました!!将軍様!!

 4つ!!

 ガン〇ム、マク〇ス、エヴァ〇ゲリオン、宇宙戦艦ヤ〇ト!!

 なかなか、強そうで、格好いいでございましょう!?」


「……。


 筒兎ツツウサギ

 これ…ロボットアニメの名前ではないかぁ…

 最後の一つにイタっては、もはやって言っちゃってるじゃろう…

 強くて、格好よさそうじゃが、スデに、人の名前では無いじゃろうてっ!!

 メカの名前を付けてどうするんじゃ!!」


「ダメですかねぇ…

 宇宙でも戦えそうな、ネーミングだと思うのですが…」


「イヤイヤ…

 筒兎ツツウサギ

 何でワシが、チーズ片手に、宇宙まで出て行って、戦ってこんといかんのじゃあ…」


「人の名前、限定ですねぇ…!?」


「そうじゃ!! 出来れば、イギリス紳士風の上品な名前が良いなぁ…。」


「イギリス人ですかぁ…。少々、お待ちを将軍様…イギリス、イギリス、イギリス……

 整いました!!将軍様!!4つ!!」


「ウム!!言うてみい!!」


「ベッカム、シェークスピア、ニュートン、エリザベス!!どうです?

 素敵なイギリス紳士風でしょう。」


「……。


 筒兎ツツウサギ

 イギリス紳士風と言うか、オヌシが、知っている範囲内ハンイナイのイギリス人名じゃろうて…

 始めの ″ ベッカム ″ からアヤしいと思ったんじゃ。それに、最後は、女王じゃろ!!」


「ダメですかねぇ… けっこうメジャーなイングリッシュネーミングのはずですがぁ…」


「イヤ…そう言う問題じゃないじゃろ…

 ベタに、世界的偉人の名前過ぎて、逆に恥ずかしいわい…。

 よし、よし!分かった!!筒兎ツツウサギ。ワシミズカら名乗るとしよう!!」


「では、将軍様。いかがしましょう…」


「ウム…そうじゃのう…」


 少年はウインドウ越しに、外の工事中の三角ポールに目をやる。


「三角ポール…。三角…ポール…おお!!筒兎ツツウサギ!!ポールじゃ!!ポールとしようぞ!!愛らしい、金髪の少年にピッタリじゃし、世界的なイギリスロックバンドに、そんな名前の人がおったゾ! またどことなく、フェミニンな響きが良いではないか!?」

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