第6話「ヤンキーが雨に濡れた子犬を拾っていてもいい人ではない。きっと木(気)のせいだ」

(吹き荒れろ風!! ……なんつって~)

 その日、俺は何時ものように周りの奴らの要望に応えて風を吹かせていた。


(さぁ、巻き起これ、嵐! そして種子たちよ。遠くまでいってらっさ~い。ついでに花粉症も、巻き起こしてこいよ~!! ……くくくく、もはや花粉症とは無縁の身。他人事とは斯くも素晴らしいことだったとは……。さよなら……、花粉症対策グッズ!)

 楽しかった。

 木になって些細な出来事が楽しい。

 木として感じる新鮮な感覚がまた素晴らしい。

 しかし、手足が動かない……。

 いや嘘を言った。

 手足ではないが枝と根っこが少し動く!

 ここ数年の努力の成果である。


 あと、魔法が楽しい。

 先日風を起こそうと気圧を操ってみた。

 ……熱エネルギーって純粋に魔力消費激しかったの。

 結果、俺は謎の全身激痛に見舞われた。

 いわゆる魔力痛というやつだ。


(誰が言った?だと?分からんが一般用語っぽくいってみた! 一般って言葉にあこがれる! ……寂しいんだよ……)

 それだけ頑張ったのだ嵐の一つでも巻き起こるかと思ったが、大自然は甘くはなかった。地球(?)は偉大なり! そよ風も起こらんかったわ(笑)。


 そんなことで今日は影響力を限定させて空気を圧縮して目指す方向へ、花粉放射なぅ! である。


(一仕事完了! またレジェンド材木に一歩前進だぜ!)

 満足感に満たされる若木な俺。

 今日はあと仕事しないで栄養チューチューして寝てしまおう、と、まったりしていた昼下がりであった。


 奴と目が合った。

 白い流線形ボディーの奴だ。


 息を飲む。

 本能的な恐怖に震える。


(しっ、シロアリ先輩!!)

 木が主食♪シロアリ先輩である。

 やばい奴と目があった。

 ……だが奴のターゲットはもっと老齢の樹木のはず!

 若くて青々している俺には興味がないはず!

 そもそも、自然の中では調整者としての役割も……。


『おう、お前。うまそーな匂いだしとるやんけ。ちいとかじらせてくれや?』

 ヤンキーⅰsカミング!!!!!


(や、僕、おいしくないんで。水分過多だからお口に合わないと思いますよ~)

『あ゛?じゃあ、ちょっと確認したる。揺れてみろや?』

 おお、これはあれだな。伝統的な【KA☆TSU☆A☆GE】手法の一つ、『飛んでみろ』だ!!

 って、アリが何でそんなこと知ってんだ!! 


(すみません。僕、木なんで動けないです)

『やっぱ、齧るしかなさそうだな』

 近寄るヤンキー(シロアリ先輩)。

 やばいこれ「やっぱ、うめーじゃねーか!」って、思い切りキレられるパターンだ!

 何とかせねば!

 ここ10年以上草食獣や小型の動物にボリボリされなかったから油断していた。

 このままではシロアリ先輩が後で呼ぶであろう、舎弟軍団withシロアリ先輩に美味しく頂かれてしまう!

 いやだ!!!!!!!

 もっと生きて、大樹になって、人々(若いお姉さま)の生活を覗くまで死ねない!


(そうだ。魔法で攻撃しよう! てことで、ウィンドウカッター!)

『……おう、今攻撃とかぬかしやがったか?いい度胸してるじゃねーか』

 ウィンドウカッター(そよ風)が巻き起こりシロアリ先輩はキレた。

 近寄る速度1.5倍です。

 ピ――――――ンチ!

 マジ、齧られるよ!

 痛いのやだ!

 せめてエルフ(胸の豊かな平成版)の水浴びを覗くまでは、死んでも死にきれない!


 ……そうだ俺。

 何のために異世界転生を果たしたんだ?

 少なくともシロアリ先輩のご飯になる為じゃないだろ?

 やるしかねぇ!

 ここが根性の見せ所だ!!


(冴えわたれ俺の想像力! きっと英語だったから駄目だったんだ! 今度は日本語! それも強めのイメージで行ってやる!!!)

『てか、てめー魔法使えんのか?』

(ぎく――――――!)


『おけ~おけ~。美味いの確定な、笑笑』


 魔力あり=栄養豊富♪


 なんだよ、そのファンタジー理論!

 ももももも、もう失敗できない。唸れ俺の灰色の脳細胞!!


(……必殺! カマイタチ!!)

『……なっ!』

 キターーーーーー! 主人公の技を喰らっての驚愕の『なっ!』。

 ……ふぅ。さすが俺、略してサス俺! またも、勝利してしまったかな?

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