誰かの休日

まーくん

神社

駅から少し足を伸ばし、住宅街と呼ぶには質素な街並みをかき分けるように歩いていくと、その神社はある。

神社と言っても大層な造りではなく、むしろあまりの小ささに目にした大半の人は驚くはずだろう。

隣が駐車場、道を挟んだ向かいは個人経営の雑貨屋と、本当に街中の何でもないところなのに、そこには確かに赤い鳥居があり、神様がいそうな建物があり、狛犬代わりの狐がいた。


休日だった。私はどこに行くあてもなく、ただ家でだらだらしていたはずが、気がついたら足をそこへ運んでいた。休日と言っても、普段から世間様とはずれた日程で動いているため、平日の休日だ。その午後2時頃なのだから、案の定人はほとんどいなかった。


小さな石段を登る。たった二段でできたその道のりをゆっくりと登る。

元から鳥居も建物も赤いのに、周りを守るように立っている幟も、その頭上を照らすためにいる提灯たちも揃って赤かったため、東京には真っ赤な特異点ができていた。


賽銭箱の前に立つ。低い位置には狐の面が、扉から顔だけを出す霊体のようにこちらを見る。


前に来たのは丁度一月前頃だったか。

その時は確か挨拶もせずに目の前を歩いていっただけであった。せっかくだし挨拶をしようとして財布を取り出す。

「あ」

5円玉がない。どうせ来る予定も無くたまたま来られたようなものとはいえ、タダで神様を呼び出すのは少々気が引ける。それはそれとしてケチな自分もおり、あまり高くするのも気が進まなかった。

結局1円を5枚集めて無理やりご縁を作っておいた。とりあえず健康でいさせてくれてありがとうございました、なんとか暮らしを維持できるよう頑張りますと一通り挨拶を済ませた。


日が出てきた。本日の気温は5月に相応の暖かさだと天気予報で耳にしたのを思い出す。


参拝を終えて、アスファルトへと戻ろうとする。T字路の角に建つ神社は、その中にさらに直角の道を持っていて、鳥居をくぐった後は右へ曲がって道へ戻るのが通例だ。


ふと、猫が目に入った。首輪はしていなかったが、野良にしては随分と綺麗な身なりで、なんだかこの街には少しだけ品位がありすぎる気もした。

参拝をずっと見ていたらしく、目が合ってからもこちらをしばらく覗き込んでいたものの、近寄って声をかけようと思ったときには、そっぽを向いて柵の間を器用に抜けていった。柵も赤かったので、白い猫の体が紅白とよく映えた。


今まで見かけたことはなかったけれど、もしかするとあの猫はここの神様で、こんな時間にわざわざ来る人間を珍しがって見ていたのかもしれない。神様だったら人と触れてはいけないのもうなずける。でも、せっかく呼んで来てくれた神様なら、もう少しお話してくれてもいいのになあ。

そんなことを面白がって考えながら、道へ戻って右手の白い尾を見送った。


色々なものが無くなっていくこの街で、少しだけ自分の世界を作れた気がして、神様と猫にもう一度お礼を言っておいた。


明日は平日だと気づくのが電車に乗った頃だったが、そこまでの私がいたのは間違いなく休日だった。

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誰かの休日 まーくん @maakunn89

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