第8話

ひとみチャンは夕方来て、夕食の世話をして帰ります。デモ、たまに朝行くとひとみチャンが長椅子で寝ていることがあります。私が朝行くと、チョットぐつの悪そうな顔をしますが、「Kさんは夕べは幸せやたんや」と素直に私は喜んだのです。

冬の朝、行ってこんなことがありました。ベランダ側の引き戸が開いて、Kさんがベランダの洗濯機のそばで震えているのです。帰りのベランダ側の戸締まりは、私はひとみチャンがするもの、ひとみチャンは私がしてくれているものと思っていたのです。たまに洗濯機を彼女が使うことがあるので、鍵をかけないことにしていたのです。鍵といっても内側からくるっと、回せばいい簡単な奴ですが、Kさんはそれで開くということすら理解できなくなっていました。只、引っ張ったら開いたのです。簡単に云いますが、凍死のリスクもあったのです。冬でしたが極寒でなかったことや、朝方に出たのかもしれません。そんなことで、それから、ひとみチャンとは確認事項を作りました。ベランダ側の鍵は、私はしめないことに決めました。

どちらかに、きちっと決めることがだいじなのです。


連絡ノートも作りました。昼間の様子、食べたモノなんかを書きました。ひとみチャンは最初読んではいたようですが、彼女の書き込みはありませんでした。「食事を作る」はサービスメニューにはなかったのですが、買ってきたものでは限界もあります。お米を買って来て、たまにご飯を炊いて、煮物をすることがありました。

「冷蔵庫に茄子の煮物あり」「炊飯器にご飯残りあり」と書いたら、「ありがとうございました。美味しかったです」と書かれてありました。それからたまに夕べは何を食べたとか簡単な記入が入り、帰った後の様子が書かれていたり、そのうち質問事項も書かれるようになりました。例の長椅子からマットまで移動させて寝かせる困難が書いてありましたので、「相撲手で投げられる、たまに泣くことあり」と書きましたら、「私では泣きませんでしたよ。立ち上がらせて、手引きでマット迄連れて行って投げるのはやはり、非力な女性ではしんどいので、私は考えました。マットを長椅子の前に持ってきて、長椅子から突き落としました。上手く行きました。突き落としたら子供のように笑っていましたよ」と返事が書かれてありました。他にも方法があったのです。


そのうち、ひとみチャンはたまに料理を作っているようでした。「冷蔵庫に材料の残りあり」と書かれてあったりするのを見るようになったのです。ベランダで寝て寒かった日、足浴をして温めました。それからサービスメニューにはありませんが、冬の間は足浴を朝取り入れました。最初からサービスメニューの範囲内で考えてしまうから、何時も手足が冷たいと思いながらこんなことにも気が回らないのです。反省しました。まず、ベストは何なのか?それからサービスメニューと付き合わせ、出来る出来ないを考えるのです。当然いらないサービスメニューも出てきます。


主任介護士が更新のとき、残しておいた点数で最後のサービスを設計しました。答えは、入浴です。風呂場の現状はお判りでしょう。訪問介護で一番大変なのは入浴介助です。家の環境、本人の状態を付き合わせてするのですが、施設はそれなりの環境と広さがあります。個人宅では大変なのです。訪問入浴介助車のサービスがあるじゃないかと思いますが、これは点数を喰うのです。軽介護度の人はこれを入れたらほかのサービスが出来ないということになってしまうのです。

主任介護士は少し点数の空きを作らねばならないので、いらないサービスを聞いてきました。私はそれにはすぐ答えられました。タムラさんの力量も少しはアップしていたのであります。かくて、Kさんは週に1回入浴サービスを受けられることになったのです。それまでの清潔は熱いお湯で絞ったタオルでの清拭でした。やっぱり人間はお湯に使って、泡でゴシゴシが一番です。

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