りんご

 林檎を食べた。シャリシャリとして美味しい。まるかじりすると芯が出てくる。そこはちょっと、食べづらい。おかしな食べ方をしているせいで、少し果実の部分がもったいない。こんなんだったら、きちんと調理をして食べればよかった。だけど、それをするのが面倒なのも確かなのであり、なにがいいたいのかというと、私は林檎が好きで、めんどくさがり屋ということだ。

 りんごは赤い。その赤さはほんのりとした赤さで、原色からはやや離れている。その色が私は好きだ。決して、悪目立ちするわけではないけれど、目立つ色だ。その色は柔らかで優しい。かわいらしくすらあった。

 そういえば、昔会ったあの人も、林檎が好きだったな。

 私たちは林檎の木の下で出会った。青空の下、鮮やかは樹木の緑と真っ赤な林檎のコントラストがきれいで、よく印象に残っていたのだ。

 彼は確か、果物ならなんでもいいというわけではなくて、林檎が好きだと話した。その理由は分からない。果物ならすべて同じというわけではないけれど、林檎にはない特徴というと、なにがあるのだろうか。甘酸っぱい? いや、それはありとあらゆる果物に共通する特徴だ。皮の色だって、ほかにも該当するものがある。シャリシャリとした歯ごたえも梨が存在する。うーん、分からないな。

 顔を上げて、青空を見上げ、その先にある樹木へ目を向ける。

 私たちは昔、よく話した。交流をした。けれども、深く彼を知ることはできなかった。彼の本質・どのような性格をしているのかすら分からない。それでも、彼のことは印象に残っている。あれほどまで短い期間・短い交流だったのにもかかわらず、いまだに時折頭をかすめる存在だ。

 どうして、こんなことになったのか。なぜ、もう二度と会えないと思えてしまうのか。それは……単純に私たちの関係は、決してつながらないと決定づけられたものだからかもしれない。私たちの恋は禁断の恋だ。決して出会ってはならない二人だったから、神様が強引に引き離したのだ。

 今も、時折銃声が聞こえる。どこかで戦いが勃発しているのだろう。女である私は巻き込まれず、平和な日常を過ごしている。反対に、男であった彼は戦場で死んだ。だから、私たちは二度と会えない。

 私、きちんと約束したのにね。もしも、帰ってきたときはとびっきりの林檎をあげる。林檎をふんだんに使ったデザートをプレゼントするって。結局、あげられなかったな。

 おそらく、私たちは出会ってしまったこと自体が罪だったのだろう。だから、このような結末を迎えたのだ。もしも、二人の関係が以降も続いていたとしたら、私は果たしてなにができただろう。

 ああ、そういえば、彼はよく言っていたな。


 林檎は君に似ている。


 そうか、そうだったな……。

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