賭けに負けて全裸で校庭を一周することになったら そのまま異世界に召喚されて 最強装備を手に入れてイージーモード

 私は玄関前にバスタオル一枚で突っ立っていた。

 タオルの中身は白い素肌。

 出るところも引っ込んでいるところもない、惨めな体。

 減るものではないけれど、堂々と見せつけられるほど立派なものでもない。

 肌寒いし、恥ずかしい。

 ああ、やっぱりあんな賭けしなければよかった……。

 後悔がよぎる。


 きっかけは高校の教室。

「できるもん。これくらい楽勝だもん」

「だったらテストで100点取ってみなよ」

「できなかったら全裸で、校庭を一周しな」

 周りでケラケラと笑う女子生徒。

 私はカッとなって言ってやった。

「分かったわ。絶対にとってやるんだから」


 なお結果はこの有様。

 返ってきたのは九五点のテスト。

 微妙に惜しいのが腹が立つ。

 しかもケアレスミスとかではなく、ガチの九五点。


 とりあえず賭けに負けた私である。

 これって本当に行かなきゃいけない系?

 まさか本気で辱めを受けなきゃいけないわけじゃないよね。どうせ誰も見ていないんだし。

 でも、言ってしまったのだから逆らえないよね。

 震えながら、右往左往。

 それでも意を決して玄関に近づく。

 一歩踏みしめたところ、唐突に床が発光する。


「え……?」


 困惑を表に出したのもつかの間、床に陣が刻まれ、光の柱が反り立つ。

 私は光の渦に飲み込まれ、気がついたら真っ暗な空間にいた。


「やあ。私の名はソルナハトマハヤト」

「きゃああああ!」


 長ったるい自己紹介を遮るように、声を上げる。

 絶叫マシンのごとく悲鳴だった。


 目の前には若い男性。

 よりにもよって男に見られた。

 自分の裸を。

 それだけで顔は紅葉を散らした

 体が熱くなる。

 頭はもうなにも考えられなかった。


「落ち着いて、これあげるから」


 そのとき放り出されたなにか。

 正確には光だ。

 それが身にまとわりついたかと思うと、なんと服と鎧に一瞬で着替えが完了。


「じゃあ、僕の役割はこれで終わり。後は自分の仕事をしてね」


 そう言うと彼は手を振り、歩き去る。

 そのシルエットは闇の向こうへと消えた。

 扉を開け、その奥に入ったかのように。


 なんだか分からない。

 頭は混乱している。

 キョロキョロとあたりを見渡す。

 ただ知らない空間に留まっていると、急に地面が開く。


「きゃっ」


 短い悲鳴を上げた。

 と、足が着く。

 視界が一気に開けた。

 だけどあたりは依然として暗いままだ。

 湿った地面の上に大量の木々が生えている。

 近くにはかぼちゃ畑。


 夜に活動をするのも難なので、とりあえず横になる。

 野宿でもなんでも寝られるだけマシだろう。

 そのように考えたのだけど、おかしい。

 いつまで経っても朝がこない。

 これはもしや。

 ガバッと起き上がる。


「ここって闇に覆われた世界?」


 これじゃあ駄目だ。

 さっさと光を取り戻さなければならない。

 別にそんなことをしてやる義理はないのだけど、そうしないと元の世界に帰れないのなら、仕方がない。


 決意を固め直したところ、不意に赤い灯りが周囲を漂う。

 それは火の精霊だった。

 相手はかぼちゃ畑のほうへ向かう。

 釣られてそちらへ行って、とりあえず収穫してみる。


 持ち上げて、どうしようと固まっていると、様々な色をした精霊が姿を見せた。

 水の精霊がかぼちゃを洗い、風の精霊がカットをする。

 火の精霊が火を通し、焼きかぼちゃの完成だ。

 ほっこりほくほく美味しい。


 間食して、くり抜いた中身をきれいにしていると、そこに火の精霊がすっぽりと収まる。

 ランタンの出来上がり。

 私はそれを持って、前に進む。


 それから道中、様々な敵と出くわした。

 ドラキュラだったり、魔女だったり。

 彼らとの戦闘は楽だった。

 防具の効果でありとあらゆる攻撃を弾き、聖なる剣で切り裂けば、相手を一刀両断。


 道案内はランタンがしてくれている。 

 旅は順調に進み、ついに魔王城へ到達した。


「よく来たな」

「はい。いざ尋常に勝負!」


 戦いを挑む。

 最初に動いたのは魔王のほうだった。

 魔王の物理攻撃。

 効かぬ。

 魔王の魔法攻撃。

 効かぬ。


「なにいいい!」


 オーバーなりアクションを取る魔王。

 私はありとあらゆる攻撃を使い切った。

 魔王はなおも攻撃を続けるも、そろそろ手札がない。

 ゼーゼーと息を吐き、肩を激しく上下に動かしている。

 そこを突くように私は動く。


「やああああ!」


 刃の切っ先を向ける。

 一撃。

 貫く。


「ぎゃああああ!」


 魔王が体を傾け、崩れる。

 勢い余って玉座まで。

 そして魔王は倒れた。


 瞬間、闇は消え、あたりは明るくなる。

 空が白み始めたところで、私の冒険もここで終わり。


 気がつくと私は部屋の中にいた。

 あいも変わらず小綺麗なだけの場所。

 本棚がぎっしりと小説で埋まっていること以外は、大して特徴がない。

 変わったことといえば。


「いやああああ!」


 朝、近所迷惑な絶叫が響き渡る。

 一一月一日。

 肌寒いこの季節に全裸の女がベッドで誕生。

 異世界で着た服は没収され、初期アバターに戻っていた。

 だが時はめぐり、ハロウィンは終わった。

 また新たな一日が始まる。

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