1000字前後

恋心

 最初は弱小チームと呼ばれ、本人も足手まといでしかない少年がいました。

 彼は修練を詰み、チームとしても力をつけ、ついには全国大会で優勝を勝ち取ったのです。

 めでたしめでたし。


 とはいっても、こんなドラマを覚えているのは私くらいでしょう。


 発言にヒヤヒヤしたり、好かれていてほしい・かっこいいと思ってしまうのは、きっと私が彼に好意を寄せているから。

 だけど、その実、私は彼に近寄りたくないと思っている。ずっと遠くから見つめているだけでいいとも感じる。

 彼の汚いところなんて見たくない。いつか変わってしまうのではないかと恐れてもいる。


 本当は信じたい。だけど、今は違うような気がした。

 どんどん泥臭さが抜けて、調子に乗った部分が出てきているような気がする。甘々なファンに囲まれて、自分の悪いところをごまかした気になってるんじゃないかって。


 不安に思う。きっと変わらないとも思う。そう人は簡単には変わらない。

 私は彼のことを、裏表がない人だと思っている。だから唯一信用できる相手だった。

 だけど、彼の深いところに足を踏み入れると、また裏切りを食らうんじゃないか。そう思うと、前に進めなくなる。


 彼が好きだ。かすかなときめきを胸に感じる。頬がピンク色を帯びることが分かる。

 でも、昇華するには足りない。この思いが本物に変わるには、私がもっと成長しなきゃいけない。彼の悪いところまで受け止められるくらいに。


 だけど、不安なんだ。

 善のままに悪に近い振る舞いをする人だからこそ、惹かれた。彼の本当の優しさに気づいて、好きになった。

 だけど、違うような気がする。彼を見ずに空想の世界で彼を想うだけじゃ、きっとダメなのだろう。

 だからこそこの気持ちは封印したつもりだった。

 彼の短所を受け入れられない私は、ファンでしかない。

 彼に恋人ができてもいいと感じるから、私の思いは恋ではない。


 なんとなく、この気持ちが恋であってほしいと願っていた自分がいる。

 だけど、その自分の恋に酔うところが偽物である証明だったりするのでしょう。

 だとしたら、私もまだまだ初心のままだ。本物の恋を知らないなんて。


 私は誰かを信じることができない。どのような人にも裏がある。だからこそ、疑ってしまう。

 きっと表ではいい人ぶっていても裏では汚いことをしているのだろう。本音は違うのだろうか。


 なぜ言葉って重ねれば重ねるほど、胡散臭く思えてくるのだろう。

 念を押すように積み重ねるのなら、有言実行すればいいのに。

 そうすれば、もっと安心して見ていられるのに。

 理由なんて要らない。述べれば述べるほど、怪しくなるだけだから。


 それでも私は、彼が好きなんだ。ラブじゃない。愛じゃない。それでも、好意だけは寄せている。

 この思いが偽物であったとしても、私は彼には輝いたままでいてほしいと願う。どうか、その輝きを失わないでほしい。


 彼のためなら、なにかをしてもいいとすら想う。

 それでも直接貢ぐことなんてできない。直接、相手に話しかけるなんてできない。とてもじゃないけど、ムリだ。


 それでも、好きだった。ストイックに練習を続けるところが。たとえ嫌われてばかりいても、堂々と胸を張り続けるところが。批判を許す器の大きさが。なんでも受け入れる強さが。

 でも、今の彼ではない。それは昔の、嫌われ続けていた者だからこそ出せた輝きだ。

 皮肉だと思う。認められた後よりも、嫌われていたころのほうが輝いて見えるなんて。


 ときおり、懐かしく感じる。今ではきちんと人気を集めてしまったけれど、昔は嫌われ者だったのだと。

 喜ばしいと思う。もちろん不安はある。それでも、好かれていてよかった。好かれるようになって、よかった。


 過去はやり直せない。その積み重ねはなかったことにはならない。それは確かに楔として残るでしょう。

 今となってはあのころの彼には、小学生のころの放課後に駄菓子屋を皆で買いにいったことのような、郷愁を感じる。もう二度と戻ることはないもののように思えてならない。


 私はきっと過去の彼に恋をしている。



 ***


 再構築


・彼に対して想いを寄せているが、以前と比べて冷めた気がする。

・バスケの試合を観戦中。彼は活躍している。それなのに盛り上がらない。

・結果はこちらのチームの勝利。泣いている相手側の選手を見て、心が動く。

・相手の選手が昔の彼(嫌われていたころの)と被る。自分は過去の彼にだけ恋をしていたのだと気づいた。

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