愛と呼べない夜を越えたい 全文

「婚約破棄を言い渡します」

 こじんまりとした部屋でテーブル間に挟んで、二人向き合う。

 女はすっと懐から箱を取り出し、蓋を開いた。中にはクッションが入り、その上でプラチナとダイヤモンドの指輪がきらりと光る。

 彼女たちは婚約を約束した。

 付き合いを始めて半年。最初に出会ったのは公園のあたりだったか。ヒールが壊れて困っているところを治してもらったのがきっかけだ。靴なんてすぐに買い治せるけれど、彼にしてもらったことだからと、その靴を大切にしていた。だけど、今となってはなんでもないこと。ただただ、むなしいだけだ。

「ここまで来ておきながら、今さらなんだ? お前は一度交わした約束をあっさりと反故にしてしまうような女だったのか。なんて不誠実な」

「よく言うわ。白々しい」

 ペラペラと口を動かす男に対して、女は凍てつく目を向けた。

「あたし、知っていたのよ」

 口を閉ざす。

 彼女の表情は静かな怒りをたたえていた。

 それは以前、ホテルに泊まったときのことだ。

 その日はベッドに横になって、熱い夜を過ごした。

 夜が明けて、一人起き上がった彼女は早めに準備を済ませて、外で待っていた。

 そのとき、男はむくりと起き上がる。

 アラームの音。目覚まし時計ではなくスマートフォンからの、呼び出し音だ。女の高くリズミカルな音楽がかすかに聞こえる。彼がスマートフォンを手に取ると音が止んで、代わりに明るい声が部屋に広がった。

 男はなにやら話をしている。相手は友人だろうか。親しげで口調には喜色が混じっている。

 女も通話の様子を落ち着いて聞いていた。

 空気が変わったのは、男の口からあるセリフが飛び出したことだ。

「ああ、買ったよ。婚約指輪」

 彼が自分のことを話している。

 それだけで気分が盛り上がるのを感じた。

 けれどもその快感に似た喜びはすぐに打ち砕かれる。

「俺は二十万で一生遊んでいられる金を手に入れたんだ」

 一瞬、なにのことを言っているのか分からなかった。

「あの女、金だけは持っているからな。これで俺も安泰だよ」

 心の底から安堵したような、明るい未来に思いを馳せた、明るい声。

 圧倒的な勝利宣言。

 それがなにを意味するのか。

 つまり彼はなにのために自分に近づいたのか。

 金だけ。

 金を持っていたから。

 ただ、それだけ。

 いままで過ごした中で、一瞬たりとも彼は自分自身を見たことがなかった。

 むなしい真実が理解できた途端に、ぞっとしたものが背中に走った。

 身体が重たく感じる。足元に空いた暗闇の底に吸い込まれたようだった。

 遅れて、怒りが湧いてくる。

 心の底に留まっていた黒い固まりは炎と化して、口まで這い上がってくる。

 身体が震えるのが分かった。

 うつむき、息を吐いた。

 唇を開こうとしたとき、ちょうど扉が開く。

 彼が表に出てきた。

「どうした?」

 なんの気なしに彼が問う。

 女は笑って答えた。

「なんでもないよ」

 心の底に渦巻く黒い感情をごまかすように。


「あたしはあなたを許さない」

 頑なな口調で女は主張する。

 眉と目は釣り上がり、口はへの字を描いていた。

「ちょっと待てよ。俺は本気だ。こう見えても中身は誠実で。絶対にお前を幸せにしてやると思って、応えてやってるんだぞ、お前の愛に」

「愛って、なによ」

 低い声が唇から漏れた。

 怒りが収まらない。

 反省も色はなし。

 なにも、自分が悪いだなんて欠片も思っていないような顔で、首をかしげて。

 だからこそ認められない。

 誠実だなんて口だけだ。

 彼のような軽薄な男の言い訳など、聞いてやるものか。

 女は静かに席を立つ。

「おい、待てよ。なんのために給料をはたいてまで買ってやったと思ってるんだ」

 背中に声がかかる。

 女は足を止めなかった。

 部屋を出て、廊下を通る。

 玄関で靴に履き替えて、ジャラジャラと扉を開けて、外に出た。

 凍てつく外気。

 太陽は雲に隠れて見えず、空は鉛色をしていた。

 女は歩き出す。

 ハイヒールの硬質の音だけがアスファルトを鳴らした。


 考える。

 愛とはなんだ。

 ただ恋をすることか。

 想いを寄せることか。

 違う。

 誰も本当の自分を見てくれない。

 百万円のジュエリーで身を飾っても男の気を惹くだけ。

 魅了するだけ。

 彼らの目に映る自分は自分ではない。

 人の目がとらえられるのは外側だけ。

 だから誰も本当の自分に気づかない。


 ため息が出る。

 理想が高いのは分かっている。

 いままで付き合ってきた男は誰も例外なく嫌いになっていた。

 今回のように金しか興味のな男だったり、自己中心的な男だったり、ヒモになろうとする男だったり。

 自分は彼らの財布ではないし、アクセサリーでもない。

 ただきらびやかなだけの自分ではないのに。


 くだらないことをグチグチと思っても仕方がない。誰にもこの心の内は読めないのだから。

 目を伏せ、淡々と道を歩く。

 昔から顔だけはいいと評判だった。出るところは出ているし、ダイエットにも取り組んでいるため、引き締まってもいる。

 性格は悪いという自覚はある。悪というより冷たいと言うべきか。目の前で人が転んでも、素通りしてしまうくらいだ。今日も間接的に相手を裏切った。こんなことをしていたらいつか――

 眉を寄せた矢先に子どもの高い声が響く。

「壊れちゃった」

「大切に扱わないから。玩具とは愛情を持って丁寧に接しなさい。そうでないと心を奪われちゃうわよ」

 ポキリと折れた人形(フィギュアだろうか)を片手に涙目になる少年。

 母親は腰に両手を当てて怒っている。

 嘆いているのだから叱らなくてもいいだろうに。

 なにを責めているのやら。

 いらない感想を呑み込んで、前を向く。

「近所にもいるって、魔女。冷たい子はお仕置きされるよ。それでもいいの?」

「やだ」

 情けない声を背中に感じる。

 女は無言で歩き続ける。

 足を動かしながら先ほどの思考の続きを始めた。

 そう、見た目さえよければいい。

 美貌を保ってさえいれば、男は勝手に寄ってくる。

 恋愛の教材のような本を読んでいるため、男の扱い方は心得ている。

 男が喜ぶ仕草はなにか。上目遣いで相手を見上げたり、袖で手の甲を隠したり、ぴっちりとした服で胸を強調したり。

 できることがあるのなら、なんでも実行した。

 照れも恥じらいもせずに。

 堂々と男の前で女としての自分を晒すと、男はあっという間に鼻の下を伸ばす。

 肌から漂う甘い香りに釣られるように、魅了されるのだ。

 男をはめるのは容易い。

 甘い声を出して見上げれば、高いアクセサリーを買ってくれる。

 まるで手のひらの上。思いのまま男を操るのは気持ちがよかった。

 それなのになぜかむなしく、物足りない。

 数日前に読んだ恋愛小説のせいだろうか。

 純粋な愛の物語だった。無垢な少年少女が出会って、恋に落ちる。彼らは波乱万丈な試練に手を取り合って立ち向かい、乗り越え、ハッピーエンドにたどり着く。

 小説の登場人物は互いに互いをお思い合っていた。

 上辺だけの愛とは違う。

 自分にはない透明な関係性。

 結局のところ、彼女は本物の愛を知らなかった。

 女がやっているのはただの遊びだ。相手が満足してくれるのならあっさりと体を預けるし、不倫だってやってしまう。清らかだなんて自惚れてでも言えない。相手と深く接すればするほど、嫌なところも見えてしまう。その度に愛情が失せ、嫌いになれば自ら離れる。

 自分は優しくないし、冷たい。相手の駄目なところを許容できない。理想だけは無駄に高くて、他人に押し付けてしまう。期待に応えてくれなければ即、切り捨て。だから彼女は一人になる。

 一人でダークグレーのアスファルトを歩き続けた。


 空は本格的な青に染まり、丸い太陽が天高く昇る。

 日差しはまぶしく、ぽかぽかとしてきた。春らしいよい気候。今日くらいは上着は必要ない。

 ハイヒールを鳴らして歩いていると、なにやら銀色の塊が視界に飛び込んだ。

 近づくと道路の真ん中に人形が転がっていた。人形といってもぬいぐるみのようなものではない。どちらかというとロボットに近かった。銀色のフォルムはなめらかにパーツを繋ぎ、人のようなフォルムを取っている。

「そこの方、どうか助け起こしてはくれないか?」

 人形の口が動く。

 機械音声にしてはなめらかだが、無機質な声をしていた。

 相手は面を上げる。無表情で親しみにくい顔が、彼女を見上げた。

 女は眉間にシワを寄せながらも、嫌々かがみ込む。

 ここいらでよいことをしてポイントを稼がなければ、そろそろ魔女に目をつけられそうだ。

 だから仕方がなく手を貸す。

 相手は差し伸べられた手を取って、身を起こす。

 体勢を整え、こちらを見ると、腰を折った。

「ありがとう。私の名はヴォイド。そう名付けられた」

 こちらとしては相手の正体なんて知ったことではない。

 リアクションは特になく、名前を覚える気はなかった。

「私の製作者は彼方へ。私は一人取り残され、旅をしている」

 聞いてもないのに勝手に口が動く。

 今日日、人の言葉を話す機械は珍しくない。スマートフォンに呼びかければ答えてくれるし、運転をするときはカーナビが案内してくれる。

 例の魔女なんて無関係という可能性はあった。

 目の前で立ち、話しているなにかは、ただの機械だと。

 だが、相手はただのロボットではない。人間のような意思を持っている。

 どうか知ってほしい。

 自分を見てほしい。

 無機質な声の中に熱意が見え隠れしている。

 なによりも確定的なのは孔だ。胸に空いたハート型。その暗黒色が、彼の失ったものを顕しているようで、気味が悪かった。

 今すぐにでも去ってしまえばいいと思った。

 でも、胸騒ぎがする。鼓動は速まる。焦燥に近い感覚が疾風のように肌を撫でていった。

 なんだ、これは。

 唇だけを動かす。言葉は宙に浮き、溶けた。

 代わりにまた口を開く。

 思うよりも早く唇が動いた。

「私と一緒に暮らさない?」

 え? と相手は目を丸くする。

 こちらも遅れてきょとんとした。

 なぜこんなことを言ってしまったのか、分からない。

 たかが人形だ。人間ですらないものにかける情はない。

 それなのに。

 そのはずなのに。

 自分はいったい、どうしてしまったのか。

 なぜ彼を求めてしまったのか。

 分からない。

 ただ、脳裏をかすめたのは一人の青年。彼は顔だけはよかった。ただ、自分と似ていて冷たかった。感謝の気持ちはないし、誕生日プレゼントをしても、無反応。付き合った日も覚えていないし、こちらの誕生日にはなにもしない。祝いもおめでというの一言も。

 言ってほしかった。なんでもいい。嘘でも上辺だけの言葉でも。

 彼は言ってくれなかった。

 思い出して、寂しくなる。

 心を寂れた風が吹き抜けていった。

「いきなりどうした?」

「分からない。分からないけど」

 ぼうぜんと尋ねてくるヴォイド。

 問いかけたいのはこちらのほうだ。

 自分自身に対して、どうして? と尋ねたい。

 女は首を激しく横に振り、髪を乱しながら、また前を向く。

 目をカッと見開くと、ギラリと瞳が光った。

「あたしがわざわざ厚意を見せてあげてるんだから、喜びなさいよ。さあ、さっさと一緒に来るの!」

 ヤケになって勢いよく、相手の腕を掴む。

 冷たい。やはり機械の体だ。人ではない。

 鼻で笑うように相手を見下ろしながら、腕を引っ張った。

「おい、ちょっと待て」

 焦って呼びかけるが、聞かない。

 女はズカズカと歩き進める。

 ハイヒールの硬質な音が寂れた町に響いた。


 見知らぬ人形を家に連れ込み、部屋に入る。

 彼女の部屋は女性らしい雰囲気だった。四方を花柄の壁紙を張られた壁で覆われ、赤い絨毯の上には、ピンクの家具が設置されている。クローゼットには女優の衣装棚のように色鮮やかなワンピースやツーピースなどがぎっしりと詰まり、ドレッサーには高級な化粧品が乗っていた。

 ヴォイドはラブリーな部屋の隅に、ポツンと座り込む。

「製造者のところに帰る気はないの?」

「そこへ帰れば私はただの人形に戻ってしまう」

「それじゃあ駄目なの?」

 首を傾け、怪訝げに尋ねる。

「ああ」

 彼は低く答えた。

「私とて意思はある。人にはなれずとも心はある。それを証明して見せるのだ」

 胸にわざとらしい孔が空いている癖に。

 意思があるといっても所詮は機械。今、話している内容も学習したものをそのまま出力しているだけなのだ。

 現実を教え込めばおとなしくなるだろうか。

 面白そうなことを考えるような目をする女。

 だが、すぐに目を伏せた。

 こんな面白い玩具はそうそうない。少しくらいは余興に付き合ってもいいだろう。

「きっと俺は元、人間だったんだ。ふとしたことで心を奪われ、こんな姿にされてしまった。色々なものを見て色々な経験を積めば、なにかを得られる」

 確信を持ったように大きな声で言う。

 しかし全ては妄想であり、希望に過ぎない。

 話半分に聞き流しながらも、口では柔らかく、朗らかに接する。

「ええ、そうね。私、あなたを応援したいわ」

 てきとうにセリフを吐くと、相手はぱあっと表情を明るくした。

「そうか。あなたなら分かってくれると思っていた。俺を助けてくれた、あなたなら」

 なんて素直な喜び方。まるでただの子どもではないか。

 彼の純粋な姿がほんの少しだけ、哀れに見えた。

 だが、たかが機械である。感情を持たぬものが思っていることは、信用できない。

 ゲームでいうNPC。魂など存在しない。優しく接しようが貶そうが、行動は同じだ。プログラム通りに動くだけ。決められた通りのセリフを吐いて、こちらの心を弄んでいるだけ。

 騙されない。

 相手になってやるものか。

 心の底ではツンとしつつ、表では笑みを作る。

「ええ、だから。一緒に行きましょう。心を探す旅へ」

 また男を誘うような口ぶりで。

 彼女のお人好しにも見える態度に騙されたのか、機械は喜んで立ち上がる。

「ああ、共に」

 手を差し出す。

 その手を取った。





 二人は旅に出た。

 大きなカバンを両手に列車に乗り、各地を巡る。

 カメラを構えて、様々な季節の景色をカメラに収めた。

 春には桜、秋は紅に染まった楓。

 色鮮やかな景色は写真として手元に残る。

 人形を連れて行くとなにも知らない者たちは驚いて瞠目するも、すぐに慣れて自然に接してくるようになった。

 町を歩いていると、時折困っている人を見かける。

 大切なもの――アクセサリーや懸賞で当てたグッズなど――を落としたり、親とはぐれた子どもだったり。

 女としては観光をしたいだけで、赤の他人は放っておいても構わなかった。

 だけど人形はそうではないらしく、勝手に手伝いに行く。

 見ているだけでもよかったのだが、一人で突っ立っているだけでは冷たい人のように見られてしまう。

 仕方がなく手を貸した。

 今回はこわれた玩具を治す手伝い。

 それが終わった途端に、路地のあたりで諍いの声がした。

 近づいてみると二人の若者が殴り合いの喧嘩をしている。拳をぶつけ合えば傷ができ、ひるまずにまた殴りかかり、顔に一撃を食らわせ、鼻血が垂れた。

「こら、やめないか」

 奥のほうから大人たちがぞろぞろと現れ、二人を取り押さえる。

 若者は暴れたりないらしくしばらくはもがいていたが、やがておとなしくなった。

 手当てを受け、彼らは退く。

 仲直りはなし。

 ほどんと逃げるような成敗だった。

 コントのような流れを傍観している内に、太陽は天高く昇り、空は一層鮮やかな青に染まる。

 今日は町の宿に泊まることになっている。

 夕方には時間があるため、戻るのはまだ先だ。

 土産物でも買いに行こうか。

 商店街へと体を向けたとき、目についたのは人の群れ。

 ちょうど先の店でセールをやっているらしい。

 釣られて、そちらへ赴く。

 安物には興味がないが掘り出し物があるのなら買いに行こう。

 喜々として入店するなり、陳列台へ近づく。

 白い台の上には色鮮やかなセーターや、清潔感のあるブラウスが置かれている。オシャレだったので手を伸ばす。ところが彼女の腕は人の波に押し流され、商品には届かなかった。

 もがいている間に人は掃け、台の上は空っぽになっている。

 結局、なにも買えなかった。

 女はトボトボと店を後にした。

「全く、なんなのよ」

 口をすぼめて文句を言う。

 みんな自分のことしか考えていない。

 譲り合いの精神は皆無。自分が徳をすればそれでよし。

 いったいなんなのだというのか。

 気に食わない。

「まあまあ。ああいうのは早いもの勝ちだから」

 ヴォイドがなだめる。

 彼はなにも欲しいものがなさそうで羨ましい。

 睨むような目で彼を見上げる。

 人形は無欲だ。彼は自分からなにかが欲しいと口にしたことがない。「心を探す」という目的を語ったことはあっても、美味しい食べ物が欲しいとか、高級な腕時計が欲しいだとか、そういった欲求を突きつけたことはなかった。

 普通の人間と比べてずいぶんときれいなのだと感じるけれど、冷静に考えるとごく当たり前のことだ。

 所詮は人形。感情を知らないがゆえに無垢でいられる。

 それでもいつかは汚れていくものだ。経験をした分だけ人々の汚れが染み付く。

 雨ざらしになって錆びた鉄のように。

 風にひしゃげた柱のように。

 歪み、醜くなっていく。

 女だってそうだ。いくら若くても齢を重ねれば見放される。老け、見るに絶えない怪物へと成り果てれば、誰も彼女を見てくれない。

 恐ろしげな未来を想像すると、ぞっとした。


 旅は続く。

 都会を抜け、森を越え、列車に乗り、いつの間にか田舎にたどり着いていた。

 そこは寂れた場所だ。人気はなく、民家も少ない。森や山、川といった自然は多く、獣はいても、後はなにもない。全体の空気感も忘れ去られたようにひっそりとしていた。

 あまりにもなにもないため、ただ歩いていると暇になる。

 二人は会話を始めた。

「もし俺が恋人になるとしたら、君はそれを受け入れるか?」

「ありえないわ。あたしが人形になびくわけがないじゃない」

 希望を持って語りかける人形を切り捨てるように、女は冷たく返す。

 人形は人形。相手が生身の人間でないのなら、恋をするわけがない。

 今、彼と一緒に歩いているのも、付き合ってあげているだけだ。

 決して特別な関係には発展しない。

 彼も分かっているだろうに、今さらどうしておかしな質問をするのだろう。

 首をかしげる女を横目に人形は無言になった。

 彼女はゆっくりと視線をそちらへ動かす。見ると彼はさみしげな顔をしていた。人形の癖に表情があるなんて。

 瞳が揺れ、頬を汗が滑り落ちる。

 勘違いだ。

 見間違いだろう。

 木目が人の顔に見えるのと同じように、表情があったように見えただけだ。

 現実から目をそらすように何度も自分に言い聞かせる。

 女は顔をそむける。なにも気づかなかったことにして前を向く。

 二人を歩き続ける。足音は村の沈黙に吸い込まれて消えた。


 季節は流れる。

 紅に染まった葉は茶色に枯れ、地に落ちる。

 肌寒さは加速し、白けた空から細かな雪が降ってきた。

 女は厚いコートに身を包み、首に暖色のマフラーを巻きつけ、ブーツを踏み鳴らすようにして歩く。

 隣にいる人形はいわゆるすっぴんの状態。防寒具は身につけておらず、無防備だ。

 もっとも、人形なのだから、寒さは関係ない。

 平気だろうと決めつけていた。

「おかしいな」

 広げた手のひらに視線を落とし、人形がつぶやく。

 独り言のような言い方で、声には感情がこもっていなかった。

「どうしたの?」

「少しだけ、ぎこちない」

 指を動かすと、ゆっくりと開閉する。

 本当だ。違和感がある。

 タイピングをしすぎて傷めた指のようだった。

「故障かしら。さすがにメンテナンスをしないと錆びるわよね」

 冗談のように軽いノリで口に出す。

 そういえば。

 なぜ彼は意思を持って動いているのだろう。

 電池もないのに勝手に話し、活動を続けている。

 思えば不気味でならないが今の今まで、気にも留めていなかった。

「どこかで見つかるわよ、あんたを作った技師。それかもっと凄い職人」

「いいや、それでは駄目だ」

 気軽に言ってあげたのに、彼は頑なだった。

 まるでなにかを確信したような真剣な顔。

 いささかあっけに取られて、固まった。

「処置を施したところで、いずれ私には最期が訪れる」

 当たり前のことを、深刻そうに語る。

 女は首をかしげた。

 最期が訪れるのは誰だってそうだ。

 電池が切れれば落ちるし、人間にも寿命がある。

 なにより彼はまだ目の前にいるではないか。

 生きている。

 無機質な体を動かしている様を見ていると、まるで実感が湧かなかった。


 二人はまた、各地を巡った。

 移動すれば移動するほど山奥に追い込まれていくような気がする。

 食事処を探して歩いているのだが、店どころか民家一軒、見当たらない。

「うー、寒い寒い」

 凍てつく風が身に沁みる。

 震える体を抱きしめるように進む中、人形は平気な顔をしていた。

「いいわね、あんたは人形で」

 羨ましかったから純粋に心からの思いとして、言葉をこぼした。

 彼はぴくんと反応を示した、ような気がした。

「そうかな?」

「ええ、そうよ」

 なんの気なしに女は続ける。

 強気の態度で。

 紅を塗った唇をつり上げながら。

「だってなにも感じないんでしょう? 骨が折れても腕が取れても、痛くない。お腹は減らないし、一日中歩いていても、なんともない。容姿だってずっと変わらないじゃない」

 それに比べて人間はどうだろう。化粧をし、飾りを着け、美しさを誇示したところで、時間が経てば老いる。生き遅れれば誰の相手もされなくなり、くすんでいく。誰にも相手にされぬまま打ち捨てられるだろう。

 なによりも弱い。人は簡単に死ぬ。ビルの屋上に上がって、足を踏み外せば、地面の上で潰れて血が流れる。首を斬れば真っ青になる。

 先日、交通事故の現場も目撃した。派手な衝突で車体が潰れていた。中にいる人間も互いに無事ではあるまい。きっと死んでいるのだろう。

 そういった現場には負の感情――怨念などがはびこり、心霊スポットと化す。

 人間はお化けを怖がるしお守りを集め、お祓いに行きたがる。

 そう、メンタルが弱いのだ。バカ・クズ・のろまなど、子どものような悪口を浴びせられただけでも、心にグサッと刺さる。死ねだなんて言われた日には顔すら上げられない。

 人の死にも涙する。たとえ他人でも、悲惨な事件に巻き込まれた犠牲者には同情するし、戦争を悼み、平和を願う。一方で女性だけを狙った連続殺人犯には死刑を望み、上司の悪口や個人的な好みなどの失言が露呈しただけでも、皆で指をさし合って、非難する。

 人間とはくだらない、愚かな生き物なのだ。

「私もあなたみたいな体が欲しかったわ」

 もううんざりだった。人の輪に入って、七色が混ざり合って黒く煤けたような空気に晒されるのは。

 人形はいい。少なくとも人間ではない。世間でなにをしていようが関係ない。無関係なままでいられる。なにより死なず老いない、不変の体を持っている。人類としては理想の存在ではないだろうか。

 対して人形は怪訝そうに顔をしかめる。

「なにも知らないくせに」

 低い声に瞠目し、弾けたようにそちらを向く。

 そこには無表情の人形が立っていた。なんの感情もなさそうなかおではない。人形なのにまるで人形みたい。

 彼はいったいなんなのか。心がざわめく。

「私は君が羨ましい」

「どうして? あたしなんてなにもないのよ。こんなあたしなのに」

 早口で言葉を返す。

 焦りで声が震えてブレていた。

「そうか。なら今の君は嫌いだ」

 口を動かす。容赦のない言葉が飛び出した。

 心に走る衝撃。ガラスが割れたような感覚だった。

 まさか彼にこんなことを言われるなんて。人形なのに。従順でおとなしいはずの彼なのに。

 女が張り詰めた顔で立ち尽くしていると、人形は黙って歩き進める。

「ちょっと待ってよ。どうしていきなり……?」

 遠ざかっていく背中へ呼びかける。

 彼は足を止めなかった。

「君は私を受け入れなかっただろう? じゃあ別にいいじゃないか。なにも聞かなくとも」

 ポツリと息を吐く。

 女はぼうぜんと固まった。

「よくないわ。なんでよ。いままでもなにも言わなかった癖に。どうしていきなり『嫌い』だなんて言うのよ」

 前のめりになって、叫ぶ。

 彼は足を止めて、振り返った。

「君は私に寄り添ってはくれなかった」

 無表情のまま言葉をつむぐ。淡々とした口調。ただ事実だけを羅列したような雰囲気。

 だからなんなのか。なぜ彼いきなり、そのような冷たいことを言うのか。いままで黙っていた癖に。なにも言ってくれなかったのに。

 こちらは何度も呼びかけた。ときには甘え、甘やかし、彼に想いを伝えたはずだ。与えたのだから応えてほしい。自分は彼のために尽くしている。それなのに彼はなにもしてくれない。欲しい言葉の一つも返してくれない。何度誘っても振り返ってくれなかった。自分はただ彼に好きになってほしいだけなのに。

 憤りが胸の底に溜まり、こみ上げてきた。深く息を吸い込むなり、大きく口を開く。おのれの感情が赴くままに、彼女は声を張り上げた。

「あたしだって願い下げよ。あんたなんて欲しくない!」

 それが彼女の本心だ。

 悟り人形は口を閉ざし、一文字に結ぶ。

 やがて彼は表情を緩め、代わりになにかを諦めたように、笑った。

「分かった。じゃあ、終わりにしよう」

 あっさりと、爽やかに告げる。砂漠の砂のように乾いた声が耳に届いた。そこには一切の情がない。今度こそ無になったようだった。

 女は口を閉じ、動きを止めた。

 なにか言ってくれるのではないのか。こういうとき。

 引き止めてくれるはず。彼ならば抵抗を見せるはず。自分を求めてくれるはず。本当の想いに気づいてくれるはず。

 心の底ではそんな期待をかけていた。だけど彼は無情にも別れを切り出した。

 人形は顔を背け、背を向け、また一歩を踏み出す。彼が歩き去っていく。その姿はどんどん小さくなる。剥げた山の向こうへ、町のある方へと、遠ざかっていった。

 女はまだ一歩も踏み出せない。赤いヒールは冷たい地面の上に留まり、アスファルトを削る。

 木枯らしが吹き付ける中、彼女はいつまでもそこに立ち尽くしていた。


 一人になって初めて気づいた。いけないことをした、間違ったことをやってしまったのだと。

 後悔が頭をよぎる。急に不安が足元からこみ上げてきた。

 これまでの態度。彼にかけた言葉。なにも考えずに突き放してしまったこと。彼の気持ちも考えずに自分のことばかり考えて、押し付けていたこと。

 後悔が何百と流星のごとく心をかすめていった。

 だけど、もう遅い。終わってしまった、なにもかも。もう二度と、やり直せない。

 女はトボトボと歩き出す。田舎から都会にある自宅へと向かって。

 彼女は新幹線に乗って、元の街に戻った。

 しばらくはなにも考えることができず、気がついたら日が暮れているという有様。

 今日も読書をしながら家で過ごす。活字を目に入れるのだけど文章が頭に入ってこない。ストーリー、登場人物、分からないまま終わりに近づく。

 外では強風が吹き、庭の木が揺れ、窓ガラスが音を立てた。

 心にも奇妙なざわつきが生じる。

 文字を視界に入れても別のことが浮かんでいた。彼は今ごろなにをしているのかだとか、無事でいてくれるだろうかと。もう二度と会うことはないだろうし、追憶のようなものに浸ってしまう。

 これ以上読んでも仕方がない。バタンと本を閉じて、机に戻す。

 立ち上がると、空白になった脳内に、また彼の顔が思い浮かんだ。金属のボディを持つ男が胸に焼き付いて、離れない。

 女は部屋を出て、外に身を晒した。

 散歩に出かける。気分転換にはなるだろうと思っていたけれど、退屈なだけで、楽しくはない。頬を叩く風は冷たいだけだし、鋭くて切れてしまいそうだった。

 人形といるだけで温かさを感じていたのに。彼と一緒にいればどんな寒さも平気なはずだった。

 しかし、今は一人。孤独ではなにも生まれない。楽しいことはなにもなかった。

 足を止め、天を仰ぐ。

 ああ――と口を開いた。

 これが欠けたということか。

 彼女の目が映す空はどんよりと曇っていて、今にも泣き出しそうに見えた。


 いてもたってもいられなくなって、旅に出る。彼を探すために。列車に乗って、観光地へ。これまでの旅の過程を巡るように各地を歩いた。

 周囲にアンテナを張って四方を見て回るのだが、欲しいものは見つからない。彼の姿はない。民家の陰にも道の上にも、平野にも、空にも。

 彼女は頭に金属の彼を思い浮かべた。彼の容姿は目立つ。歩けば噂になるだろう。旅の中でも物珍しげな視線を向ける者が多かった。忘れないわけがないし、隠れていられはしないだろう。

 それなのに、どうして情報が得られないのか。山奥だからか。

 情報収集を続けた。結果は変わらない。女は途方に暮れて立ち尽くす。

 風が吹き、雲が流れる。濃く暗い雲が去っても、空はまだ曇っていた。


 旅のゴールが分からないまま、都市にやってくる。ビル群の間を縫うように、進んでいた。昼間は人が多くて居心地が悪い。夜になってもまだ人の気配がして、時折騒がしい声が響く。

 女は人気を避けるように、陰を進んだ。

 暗い夜。空は暗黒の色に包まれ、静謐が広がる場所を目指す女を、月影が照らす。

 そのとき、足音が近づいてくるのに気づいた。雲が天を覆い、あたりが暗く、顔にも影がかかる。女はとっさに振り返った。

「おい、オマエ」

 同時に男が口を開く。ドスのきいた声を放った。

 女は彼の顔を見て、目を見開いた。顔から色が抜け、強張る。驚きと恐怖に突き動かされ、体が震えだした。

「探したぞ。もう逃さねぇ」

 彼は怒っていた。その眉をつり上げた鋭い目をした男の顔を、彼女は知っている。

 春に婚約を破棄を言い渡し、離れた相手だ。

「俺を裏切った罰だ」

 理由はいらない。説明の必要はない。顔を見合わせば、事情は自ずと解ってしまう。

 男が秘めているのは濃縮された殺意のみ。そして彼はナイフを振り上げる。闇の中で刃の銀色が月光のようにきらめいた。

 女は息を呑む。

 殺される。死の予感が全身を突き抜けた。避けなければ。かといってとっさに動くほどの身体能力はない。ただ、目をつぶる。現実から逃げるように、顔をそむけた。

 けれどもきっと、逃れられない。おのれの肉体が切り裂かれ、血に濡れる瞬間が、ありありと頭に浮かんだ。そのビジョンが頭にこびりついて、離れない。


 しかし、痛みは訪れなかった。肌にはビリビリとした恐れが残るのみで、なにも感じない。麻痺しているのか。否、衝撃すら。誰かに触れられたという感覚すら、全身には伝わらなかった。

 おそるおそる、まぶたを開ける。女は瞠目した。

「なんだ、お前は?」

 男は唇を震わす。声は低く、ブレていた。

 その目の前に立ちふさがるようにして現れた影。人のシルエットをしたそれは機械のような銀色をしている。人形。無機質な存在のはずなのに、彼からは人の温度を感じる。

 冷静に前だけを見据える人形に、男は戸惑いを隠せない。

「なんなんだよ、お前はッ!」

 言い知れぬ恐れをそのまま表に出す。わけが分からぬまま、男は喚いた。

 先ほどまでの優勢はどこへやら。男は目を泳がし、汗をかき、情けないことに体を震わしていた。

「立ち去ってもらおう。その人に手を出せばどうなるか」

 彼の声は低く、鋭い言葉には有無を言わさぬ響きがあった。

 男はますます怯え、焦り出した。

「分かった。分かったから」

 懇願するように訴えかける。

 彼に人形の正体は分からない。ただ、彼の芯を貫いたのは、殺されるのではないかという、感覚。死よりも恐ろしいものを味わうのではないかという、錯覚。

 彼が抵抗をやめると人形もあっさりと、手を離す。男は解放されるや否や、地を蹴った。勢いよく、駆け出し、時折体勢を崩し、転びかけながらも、必死の形相で逃げていった。

 元婚約者のあっけなくも滑稽な姿を、女は無言で見送った。

 相手に対する感情はない。未練も哀れみも浮かばない。彼はもはや他人。自分には関係のない人間だ。

 今は助かったと安心して、気が抜けそうになっている。

 ほっと息をついたのもつかの間、近くで不穏な音がした。

 目の前で人形がぐらりと傾く。銀色の体は支えを失ったかのように、地面に倒れた。


 瞬間、稲妻のような感覚が背を駆け抜けていった。全身にぞわりと悪寒が走る。冷たい汗をかきながら、彼女は駆け寄り、彼を助け起こした。

「ねえお願い。目を覚まして!」

 大きく口を開けて、声を張り上げる。

 彼の目を見て、お願いと訴えかける。

 人形は反応をしない。目は固く閉じたまま。

 どうしよう……。心の内側に汗をかく。焦りと絶望感で頭の中が暗く、真っ白に染まる。解決策が浮かばない。魔法使いではないのだから、助けることなんて、できはしない。

 いったい自分になにができるというのだろう。もはやなにも考えられなかった。

 パニックにすら陥りそうになる中、視界を白がかすめた。柔らかくて儚いものが手のひらに落ちて、じわりと溶けて、水になる。天を仰ぐと、雪が降っていた。降り積もる雪は心にまでたどり着き、冷たいような気配がした。

 アスファルトは雪に覆われ、砂糖をかけられたケーキかクッキーのようになっている。女は地面の上でじっとしている。コートにも白いものがかかり、このまま冷えて、雪に埋もれてしまうのではないかと思った。

 身と一緒に、心が震えた。

 失ってしまう。彼を。

 まだなにも得ていないのに。彼の心を得ていないのに。また虚無に落ちてしまうのか。嫌だ。そんな未来は認められない。もうなにも失いたくはない。彼がほしい。彼以外はいらなかった。


 心を覆っていた殻が剥がれて、本当の自分が顕になる。それは宝石のような輝きを放ち、彼女の内側で存在感を放った。

 ああ、そういうことか。

 口を動かす。小さなつぶやきは雪の中に消えた。

 彼女は気づく。心の奥底に眠っていた、本当の想いに。その熱い感情に。

 だけど、もう遅い。人形は活動限界を迎えている。

 大切な想いを抱え込んだまま、終わりへと向かう。

 頭には数々の後悔が降り積もる。

 もっと話せばよかった。彼の想いに気づけばよかった。なにもかも手遅れになる前に。

 切ない感情が胸にこみ上げてくる。

 女は唇を震わせた。閉じかけた目の端から涙があふれ、頬を伝う。透明な雫が宙に落ちた。クリスタルのようなキラキラと輝きながら、人形に空いた孔へと吸い込まれる。涙は彼の体に染み渡った。


 人形が目を開ける。電源の入った機械のようだった。

 だけど、そこにいるのは、彼女のビジョンに映った彼は、人形ではなかった。

 霞む視界の中に確かに人間の姿をした彼が、そこにいる。

 なんでもいい。理由も方法もなにも分からなくてもいい。彼がそこにいるのなら、なにも望まなかった。

 そして青年の目に映る彼女は、泣いていた。張り詰めたものはなく、ただ無垢な顔をして、目から雫が溢れるままになっている。

 女は口を開いた。なにか言葉を繰り出そうとしたが、なにも浮かばない。心にはただ透明な想いだけが、海のように広がっている。

 人形も口を閉ざしたままだった。淡い静寂が落ちる。時ごと白く閉ざされたかのようだった。

 永遠のごとき時が流れる中、ついに人形は沈黙を破る。

「心を奪われたんだ」

 白い息を吐きながら彼は語り出す。

「心のない奴だったから。人の思いやる心がなかったから。俺は身勝手だったよ。感謝の気持ちも持たなかった。誕生日プレゼントには礼を言わなかったし、してもらうことが当たり前になっていた。約束は平気で破る。来るって言っておきながら、自分の都合を優先して、勝手にドタキャン」

 ああ、と思い出す。

 デートへ行こうと誘ったのに、彼は自分の遊びを優先して、家に引きこもったのだった。

「俺には忘れられない女がいる。俺の身勝手のために逃してしまった。それを今でも追いかけてる」

 彼女の顔も名前も忘れているのに。

「罰を受けたんだ」

 ポツリとつぶやき、下を向く。

 そして彼は顔を上げた。

「君を探してたんだよ」

 口に出したのは正直な想いだった。

「ずっと君に、そばにいてほしかった」

 声に生気が宿る。彼は確かにここにいると実感が湧いて、歓喜の気持ちが湧き上がる。

 今なら伝えてもいいかもしれない。本当の気持ちを。

「ええ、あたしもよ」

 言葉は自然と出た。

 目を細めて笑いかけた。


 雪は次第に弱まり、消えた。空は藍色に染まり、空気は冷たいまでに清らかだった。

 夜が明ける。太陽が昇る。純白の輝きに照らされて二人はただ、抱き合った。



□婚約破棄。

☆機械を発見。


□機械と旅に出る。彼が元カレに見えて仕方がない。アプローチをするも、相手にしてくれない。

☆振られる。離れて行く。


□婚約破棄と言い渡した男に襲われる。

☆機械が現れ助ける


□瀕死の機械に涙。元の姿に戻る。

☆愛の成立で呪いが解けた。返せなかったアクセサリーを渡して、受け取る。

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