本末転倒
「それ、偽物だよ」
デートのたびに彼は何度も言った。
そのたびに私はこう返す。
「別にいいよ。あなたがくれたものだし」
「怒ってる? 俺が偽物だと気づかずにあげちゃったこと」
怒ってない。
別にどうだってよかった。
偽物だなんだとみんな気にするけれど、結局本物との違いはなんだろう。見た目が似ていればそれでいいのではないか。代用できるだけ、マシではないかと。
だけど、そんな私の思いは誰にも届かなかった。
それからしばらくたって新聞の小さなコマにあるニュースが載った。
若い男性が宝石店で強盗を働いたとのこと。犯人は逮捕されたが、宝石はまだ見つかっていない。その犯人の名は私の知っている人物だった。
そしてたった今、郵送で荷物が届いた。中身を開くとそこにはキラキラとした宝石のついたネックレスだった。
思わず、ため息が出る。
本物の宝石なんて、私はほしくなかったよ。あなたさえいれば、それでよかった。これでもし本物が手に入ったとして、その輝きをいったい誰に見せればいいというのだろう。
私にとってはこんなもの、単なるガラクタに過ぎないのに。
あんな手段で手に入れた本物なんて、私はほしくなかった。
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