011 悩めた末に

 メアリーが行方不明になって一ヶ月以上が経った。


 その間アレクサンダーは悩める日々を送っている。

 婚約者をひとりにしてしまったこと。新たな魔王に拉致られてしまったこと。そしてなぜか、それが周囲の人々に知れ渡っていた。

 後ろ指をさされ、哀れみに近い目を向けられる毎日を過ごしている。


 愛しき想い人・カーラとの関係は露呈していないが、バレるのも時間の問題だった。

 なんせ侍従たちの間で噂になっている。

 父・アルバートの耳に届くまでそう長くはない、それまでに解決する必要があった。


 あの日メアリーがいなくなったことに関し、アレクサンダー自身は悪くないと思っている。

 自己責任であり、メアリーの自業自得だと。

 それと同時に、悲劇のお姫様に成り上がったメアリーを恨めしく思う部分も確かに存在する。


 メアリーが死んだことになれば、アレクサンダーも幾分か楽になれた。しかしアーデルハイトの能力で、生存していることがわかっている。

 おまけに悠々自適な生活を送っているときた。

 それに関して、メアリーの両親は心の底から安堵している。と同時に、不可解な疑問が生まれた。


 ──何故、メアリーは攫われたのか……?


 アーデルハイト曰く、拷問された形跡も魔王の嫁になった感じもしない。ただ訪れる毎日を過ごし、変わらない日常を過ごしているようだった。

 メアリーの動向を視るにも制限がある。そのため、一日中監視することは出来なかった。


 が。わずかに視つめられる間、メアリーは平穏無事に過ごしている。


 それを聞かされたとき、アレクサンダーははらわたが煮えくりかえるのを感じた。

 今まで感じたことのない憤りは、使用人を怯えさせる程に顔に出ていたらしい。


「メアリー嬢が無事なのは安心したが、なぜ魔王なんかに攫われたのか……? それが不思議でならない」


 アダルバートが顎髭をさすりながら呟いた。


「理由なんてなかったのかもしれませんよ」

「どういうことだ?」


 息子の台詞にアダルバートが訝しんだ表情を浮かべる。


「お父様、宿泊されている夫妻とアーデルハイトをお呼びいただけますかね。大事な話がございます」

「それはなんだ?」

「できれば今でなく、皆が揃ってからお話ししたい所存です」


 アレクサンダーはそう告げると、そそくさと部屋を後にした。

 どんな話なのか、アダルバートにはまったく見当もつかない。しかし悪い予感がしているのは確かだった。

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