ゲタゲタ笑う
@Aseaaranion
第1話ゲタゲタ笑う
ある山奥に一人の男がいた。まるで森の化身のようなそいつは周りと一体化して影もなく、あちこちに出現し、たったの一声で森と共鳴し、動物たち呼応させ、虫たちをざわめかせ、鳥たちを放つ。恐ろしい者、という意味でそいつを村ではシヴァ神の生まれ変わりと恐れた。
シヴァ神なんぞは海の向こうの梵天とかいう釈迦の住む国の神らしいが、よっぽどそいつが怖かったんだろう。海の向こうの破壊神なんぞに例えるくらい。そいつは尋常じゃなかった。
なんでも、森に入ったものをそいつは面白半分に話しかけるみたいだが気まぐれで機嫌を損なうと丘くずみたいにされてそのへんの背の高い一本杉にぶら下がってるという話だ。
あまりに怖いんでその山に入る奴がほんとに少ない。
機嫌がいい時は山の幸やどうやって獲ったのか海の幸までくれる。山奥からマグロが一匹ぐいと手だけが差し出されるんで、たいていの奴は腰抜かして受け取って走って逃げようとする。するとそいつはゲタゲタけたたましく笑うんでさらに恐ろしくなってもう夢中で逃げ帰ってくる。そいつの姿を見たかと思えば、思わぬところからまた出てくる。かと思えば後ろで宙ぶらりんになって顔がこーんなになってぬらーんと見つめてきやがる。
本人は完全に愉快犯と思いきや結構真摯なやつらしい。
ちゃんと礼をつくして森の法を護れば、恐ろしいくらいに理の通ったものの道理というものを説くらしい。
それを破壊神に化かされたといって村人は化かされたやつを笑う。その日は雹が降る。
だからだれも笑えない。でも化かされたやつの話を聞くとなんだか無性にこらえようのないおかしさがこみあげてゲタゲタ笑ってしまう。それをやっちまうと完全、そいつの機嫌を損ねてしまうんで、そしたらその日は雹どころじゃすまない。大荒れの稲光にする嵐になる。稲光が龍神にさえ見える、雨雲からそれかカッと光ると一瞬、鬼どもがうじゃうじゃ見える。そうなると手がつけられない。作物は持っていかれて、干してたものは巻き上げられ、金銀、米や侍が奪った武器なんぞ隠してるもんなら、納屋や家ごともっていかれちまう。
もっと怖いのは大竜巻がくる日だ。これはある日のことだった。夜盗、数十人が山近くの村に皆殺しの押し込み強盗をしたときだ。
ある村人がこの男に頼んだ。
「シヴァ神様あ、おらたちの子供や孫は全部あんたのところからいただいたもんで育ちました。それをあいつら全部もっていっちまった。わしらがあんたを笑ったときみたいに、あいつらからも何もかももっていっちまってくだせえ!」
それを叫んだ瞬間。ものすごい咆哮が聞こえて、夜盗共のアジトの方へ空からとぐろを巻いた龍が下りてきた。大竜巻だ。そしてそのまま夜盗共を粉みじんに巻き上げてそのまま数千里離れた地に落としてたたきつけた。夜盗も奪ったものも、人質もそのへんにあったものも全て巻き上げて打ち壊した。
それからというもの村ではもうだれもその男を笑うもんはいなくなった。
村ではその男、デイダラボッチとかそんな名前でよんで大層恐れて敬った。そして森や山にも同じよう敬って暮らすようになった。いつのころからか男は静かになった。ただまるで影がなく森の溶け込んでただ笑っているようになった。そんな話を今は森のささやきがそよそよとさわぐだけ。それからその村がどうなったか。男がどうなったか。
そうそう、男はいつからか、山から谷を作って水を川にしてもってくるようになった。
いまでもその山にはいると、その男の姿があっちへ行ったと思えばこっちへ、こっちからと思えばどこかへ消えてしまう。ケタケタケタ、そんな笑い声がしたらおそらくあいつだろう。だけどそういえば男はいったい何者だったんだろう?
ゲタゲタ笑う @Aseaaranion
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ゲタゲタ笑うの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます