第77話 第4章 絶体絶命 (七月七日)5
「さすがにお詳しいですね。防犯カメラの映像を拡大して御覧になったことがあるのでしょうか?ホストクラブ・アモーレでも、1年ほど前の七月十七日に乱闘騒ぎがございましたね?その際に拡大して御覧になられましたか?」
慶次郎は、レーザーポインターをいったんOFFにして微笑んで答えた。明山は、憮然とした表情で黙っている。
「ご指摘の通りです。通常の防犯カメラで撮った映像は拡大しても、それほど鮮明には見えません。ましてやこれだけの距離があれば難しいでしょう。しかし、画質を向上させてくれるソフトがあるのはご存じですね?ノイズを取り除き、エッジを効かせ、画質を向上させてくれるソフト―――今回はアメリカのCIAも使っているソフトを使用しました」
慶次郎はにっこりと笑って、再びレーザーポインターの電源を入れた。
「そこでこの爪です。通常は、この爪は宝石の大きさに合わせて大きさを決めます。宝石がしっかりと固定されることを前提に、時代によってデザインが変わりますが、大きく美しい宝石の場合は宝石の美しさを最大限に引き出すように爪はできるだけ目立たないように小さく作るのが通常です。反対に小さな宝石を大きく豪華に見せたいときは、かつては爪を大きく作ることが流行った時代もあります。このように」
慶次郎は画面を切り替えた。襖には、ダイヤモンドの指輪が大写しになった。小ぶりな石の周りに爪が六つ見えるが、それぞれが石の直径ほども外に張り出しており、小さな石の指輪を大きく見せる技術だということが納得できた。
慶次郎は、続けて異なるダイヤモンドの指輪を大写しにした。こちらは大ぶりのダイヤモンドである。それを見て、室内にざわめきが広がった。石を真上から写した写真は、爪がほとんど見えないのである。よく見ると四本の爪が、石のぎりぎりの端のところにかろうじて見える。
「爪の本数やサイズは、その指輪の印象を大きく左右します」
画面は再び、豆初乃が指輪を渡されたシーンのアップに切り替わった。
「ご覧ください。ここで常世田奈理子さんから豆初乃さんの手に預けられた指輪は、爪が6本、色は鮮やかな緑色、横から見ると光が上から差し込んでいます。そして、十二時の位置の爪の上に小さな傷がございます」
「長々と……宝石の講義をどうも。勉強になるわ……。それがなんのためになるの?いい加減にしてくれない?」
奈理子が、投げやりに言う。
「そう仰有ると思いました、お嬢様。常世田様は、話をお進めになるのがお上手でございますね。社交界で培われた技術でございましょうか」
慶次郎は微笑みながら、和美に目で合図をする。和美は、明山が卓の上に放り出した指輪を持ってきた。
「こちらの『偽物』とされる指輪をよくご覧ください」
慶次郎は指輪に自分の携帯電話のカメラを向けた。とたんに襖には、慶次郎の手元の指輪が大写しになる。緑色に輝いている。
和美が、慶次郎の手元を懐中電灯で照らした。
瞬間に、宝石の色が魔法のように変化した。深くて透明感のある緑から深紅へ。
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