第67話 第3章「後戻りできない事態」(七月七日)2
「こんばんは~遅なりまして……」
寿々佳お姉さんが廊下で挨拶し、襖を開けた。豆初乃も廊下で手をついて、寿々佳お姉さんに続いて挨拶をしようと待っていた。しかし、寿々佳お姉さんが動かないので、豆初乃は顔を上げた。豆初乃も思わず息を呑んだ。
座敷の中にいるのは、どう見てもホストの集団だった。それも六月尽の女紅場学園の校門の前にいたホストの集団だった。あのニヤニヤ笑っていたリーダー格の男が、上座にあぐらをかいて座っている。今日も上から下まで、てらてら光る黒ずくめである。
(どういうこと?一見お断りだから身元の分かっている人しか、お座敷はかからないはず。こんな嫌がらせと分かっているお客がなぜ―――)
廊下で手をついたまま呆然とする豆初乃の手が掴まれた。
「っ……!」
声にならない声を豆初乃が上げて、手の主を見ると、金髪の元田真輔が上から見下ろしていた。ニヤニヤ笑っている。
「こうでもしないと会えないからなあ、売れっ妓の豆初乃さんよお」
豆初乃はとっさに寿々佳お姉さんに目をやると、真っ青な顔で、座ったまま失神しそうだった。
豆初乃は、意を決して、舞踊で鍛えた腕力で自分を掴んだ腕を振り払った。
(落ち着け。落ち着け。三年前とは違ぅやんやから。ついにその時が来た、ってだけや)
豆初乃は、ドクドクする心臓の音が大きすぎて、耳がわんわん鳴っているような気がした。
腕を振り払らわれた元田は、不意を突かれて後ろにひっくり返った。大股を開いて尻餅をついている。
豆初乃は座敷ににじり入り、手をついたままの姿勢で顔だけを上げて言った。
「無体なことはおやめください!うちらは芸を売りにしてるんどす。楽しいお座敷にさしてもらうために努めさせていただきます」
間抜けな態勢で、盛装の舞妓にキッと睨まれて、元田は恥ずかしさで真っ赤になった。
「ふっ、ふざけんなよ!芸を売るなんてカッコいいこと言ってるけど、売ってるのは女だろうが!」
元田は、立ち上がって顔を真っ赤にして、手をつく豆初乃を仁王立ちで見下ろした。
「元田、やめろ」
上座に座っている黒ずくめのリーダーがたしなめた。
「だけど、明山さん。本当のことでしょ!言ってやりますよ」
明山と呼ばれた男のたしなめも聞かずに、金髪少年はいきり立った。
「女を売ってるくせによお!お前の母ちゃんと一緒だよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます