第38話(第2章)「事件」(五月九日・夕刻)(2)
「はあ……。お母さんの言うことは身も蓋もあらへんなあ」
勝文は、理帆の豆初乃と紅乃への態度を解説されて、ため息をついていた。
「理帆は、そろそろ出入り禁止にしなあかんな。『舞妓になる、舞妓になる』って、小さい頃から言うてたけど決断するわけちゃうし。あの堪え性の無さでは修業が務めあげられへんしな。理帆の親も、舞妓にさせたいわけちゃうし。自分らが舞妓にもなりたくないし、この商売を継ぎたくもなかったんやから」
照子は、自分の娘二人が雪駒家を継ぐつもりのないことを早くに了解して、舞妓にも芸妓にもさせなかった。無理強いするものじゃない、というのが照子と勝文の一致した意見だったのだ。二人の娘は、小学校教師と専業主婦になってそれぞれ家庭を持っていた。
「舞妓にはならへんで置屋だけを継ぐ人もあらはるけど、理帆は、あんな態度では雪駒家も継がへんやろし。舞妓にもならへん、雪駒家を継ぐわけでもないんやったら、ここに出入りさせる意味は無いしな。舞妓ちゃんたちにとっても、同じ家の中に同年配の子が肌を露出してわがまま放題なのは、いい気分ちゃうしな。決めた、理帆は今後一切出入り禁止や」
勝文は、お母さんの話を聞きながらお茶を啜った。
「理帆には、こっちから会いに行ったらええねんしな。さ、お母さん、夕食の準備しよか」
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