第4話 一夜

「どういう・・・」

僕はその気持ちが、わからなかった。

「ううん、何でも・・・今の忘れて・・・」

さっきまでの笑顔になった。


「今日は、私が手料理をふるまうから、楽しみにしててね」

女の子の手料理を食べるのは、初めてだ。

なので、楽しみだ。


「じゃあ、早速用意するね」

梨奈は、台所で調理を始めた。

鼻歌交じりに作ってる。


聞き覚えのある曲だ。

確か・・・

そうそう、「手のひらを太陽に」だ・・・


「何か、手伝おうか?」

声をかけてみる。


「ううん、じっとしていて」

言っても無駄のようだ。

僕は大人しく待つことにした。


「お待たせ」

料理が出来上がった。


これは・・・鍋?


「だって、作るの簡単なんだもん」

いたずらっぽく笑う梨奈。


「さあ、食べてみて」

「うん、では早速」

僕は口にした。


「美味しい。美味しいよ。梨奈」

「本当?ありがとう。」

梨奈はニコニコと、こちらを見つめる。


でも、不思議だ。

梨奈は手を付けない。


「食べないの?」

「うん、私猫舌だから、もう少し冷めてからね」

「そう・・・」

「それに」

「それに?」

「君との会話が、一番のご馳走だから・・・」


食事中、梨奈とはいろいろな会話をした。

趣味の事、好きな食べ物のことなど、とても、楽しかった。


しかし、自分の事には一切話さなかった。


おそらく、話したくないのだろう。

ただ、どうしても訊きたかったことがある。


それだけは、知っておきたかった。


「この食材は、どこで手に入れたの?」

「この山からだよ。私は自給自足しているし、魚なら河からとれる」

簡単に答えてくれた。


「食べたら、お風呂に入ってね。沸かしておくから」

「ありがと」


まるで、旅館だな・・・


その日は、ぐっすりと眠れた。

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