第5話 逃がさない
朝、小鳥のさえずりで眼が覚めた。
「あっ、康雄くん、お早う」
「。。。お早う・・・」
ここは?
あっ、そうか・・・
思い出すのに、数秒かかった。
「朝ごはん、出来てるよ」
「ありがとう」
「先に顔洗って来て」
「うん」
梨奈に案内された洗面所で、顔を洗った。
朝食は、ありふれたものだった。
そう、ありふれたもの・・・
どうやって、入手しているのかが、不思議だ。
「昼前には送って行くから、それまでは、ゆっくりしてて」
「・・・うん・・・」
にこやかには違いない。
でも、どこかに悲しげな表情があった。
朝食後、ゆっくりと考えた。
やはり、気になるのは梨奈のこと・・・
このまま、もやもやした気持ちでいいのか?
「康夫くん、そろそろ行こうか?」
「え・・・うん・・・」
梨奈に案内されて、ふもとまで下りる。
でも、その間に会話はあまりなかった。
「康夫くん」
「何?」
「ありがとう」
何がだろう?
「あそこにバス亭があるでしょ?もうじき来るから。
終点まで行って。そうすれば、帰れるから・・・」
「わかったよ。世話になったね」
「うん。これお弁当。バスの中で食べてね」
「ありがと」
やがてバスがやってきて、梨奈に見送られながら、バスに乗る。
この事は、誰にも話さないでおこう・・・
梨奈とも、もう会う事はないだろう。
だが、そのバスが転落事故を起こしてしまった。
幸い死者は出なかった。
大勢の人が、救急車で搬送された・・・
しかし、僕は自力で、帰ろうとしたが、これが失敗。
また、迷った。
途中、梨奈にもらったお弁当を食べたが、これで食糧はつきた。
今度こそ、死を覚悟した。
「もう、学習能力がないんだね」
薄れゆく意識の中で、声がした。
懐かしいような、さっきまで聞いていたような・・・
もう・・・どうでもいいや・・・
今度こそ、さよなら現世・・・
眼が覚めた。
僕は思わず飛び起きた。
「やあ、康雄くん」
「梨奈?」
「本当に、天然記念物的な方向音痴なんだね」
「悪かったな」
よく見ると、僕はかなりの、怪我をしているみたいだ。
「仕方ないから、怪我が治るまで、面倒みてあげる」
「それは、いつだ?」
「50年くらいかな」
そんな大げさな・・・
「康夫くん」
「はい」
【逃がさないわよ】
謎の少女 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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