インスタント・ラブ(続)

龍大悠月

第2話

いつもと何も変わらぬ昼休み、俺は自分の何処にもぶつけれぬ怒りをせめてもと買ってきたパンにぶつけていた。

「なぁ亮、そのフランスパンが可哀想だから少し落ち着けよ、同情になるかもしれないがさ、味噌汁でも飲めよ」

そう言って彼は俺の目の前に水筒に入れてあった味噌汁をコトンと、差し出してきた。

俺はそれを掴むとグイッと一気に飲み込む、ジワァと、少しの温かみが俺の心を正常な状態に戻していく。

「ありがとな光、お陰で落ち着いたよ」

すると彼はにへらと笑い、そしてその顔を気まずそうな顔に変えるとチラリと目線を送ってきた。

そうだ、彼とは昨日の事を話さないといけないという約束をしていた

「あぁ、わかってる。昨日の事を話さないとな」

その返事を待っていたのか、彼は体を前に出し話の続きを要求してくる

「それでおそらく何があったか想像はつくし、酷かもしれないけれど話して貰えるか?昨日一体何があったんだ?」

俺は一度深呼吸をして、光一に昨日の出来事を話した。



「そうか、それは災難だったな。しかし、その元カノか?そいつもその自動販売機を使っているなんてな、そこの所はお悔やみ申し上げるよ」

彼のなんとも暖かい言葉が返って俺の心を痛めた、俺は光に迷惑をかけてしまったのだろうか?


そこで授業開始10分前のベルが鳴り響く、

俺は残りの学校の時間をその疑問で使い果たした、答えは出ないまま…


帰り道、俺はいつもの帰り道を通らず、あえて別の道を進んでいた。

理由は至って明確だ、同じ悲劇を繰り返さない為、ただそれだけだった。

改めて考えてみると、失恋した後なのにもかかわらず未だに彼女を欲していたという強欲さがこの結果を招いてしまったのではないか。そうだ、そうに違いない。

俺は自分の情けなさと虚しさで目頭が熱くなり少しの間その場で立ち止まった、表しづらい気持ちが涙となって頬を伝った。


それから数分、俺は溢れかえった水を調整するように、微かな嗚咽と共に吐き出した。

そして少し落ち着き、今自分が帰り道だという状況に今気づいた。


慌てて目を開けるとそこにはいつも帰る時に見かける公園の近くで、立ち止まっていた。

しかしの心の静寂


「…………………っ!!」

その異変に気づくのにそこまで時間はかからなかった。

俺は今日、帰り道とは違う方向で帰ってきたのだ

だから、決してこの道を通ることはありえない。

ありえないはずなのだ。

しかし、頬をどれだけ引っ張っても痛みが走るし、再び目を閉じても見える景色が変わるわけもない。

つまりこれは現実という事だ。

そして記憶が正しければ、この公園を超え、家の近くのスーパーを超え、一見何もない道路まで行くとあれがあるはずだ。


そこからの行動に俺は何の迷いも無かった。

ただ、何かに吸い寄せられているかのように俺はただ事実を確かめるために走り続けた。


スーパーの近くまで来たところで俺は立ち止まった。いや、立ち止まらざるを得なかった。

なぜならそこにはあるはずのない自動販売機が置かれていたからだ。

念のためと思い、確認するがやはりそこにはインスタントラブと薄汚い字で記されていた。

「何でこんな所にこの自動販売機があるんだよ…」

俺はそれを考える前に先に前あった自動販売機の場所へと足を進めた、しかし、そこにはただ何もない道路が続いているだけで自動販売機なんてものは置かれていなかった。

俺は何故か怖くなり、すぐさま先程の自動販売機に戻ってきた。


「……もう同じ悲劇を繰り返さないと言ってたのにな」

やはり人間というのは単純なものだ。

人はある行動のするとき、それを行うか、行わないかの選択を迫られる。

行うを選べば、勿論その先の結果を知ることが出来る。良いことも悪いこともだ、「あの時やめていれば」何て、人はよく嘆くものだ。しかし、行わなければ、それはそれで「あの時やっとけば良かった」何て、矛盾を繰り出してしまう。

結局なるようにしかならないのだ。運命とはそういうものだ。


これもそういう運命なのだろうか?

そんな事を頭によぎらせながら俺は自動販売機に近づいた。そして気づいた、


仮想的 1000円

非現実 2000円

本物 5000円

白夢 8000円


一つ、種類が増えているのだ。しかし、ボタンは三つしか無い、

「どこにそんなボタンがあるんだ?」

そう思い、自動販売機の隅々まで確認した、だが、特に変わった事は無く、普段と何一つ違わないthe自動販売機だった。


その後も、試行錯誤と否定を繰り返していると、すっかり夕方になってしまっていた。

俺は諦めてもう帰ろうとした時、また一つの可能性が浮上してきた。

「もしかしてこの三つのボタンを同時に押すのか?」

そんなくだらない事があるはず無いだろうと、普段は嘲笑うが、こんな不思議な体験をした後だ、全ての非現実が現実となっても今更驚きはなかった。


俺は三ヶ月のお小遣いを全て払い三つのボタンを同時に押した。

ガコン!と言った音と共に取り出し口に何かが落ちてくる。

それは白く塗りつぶされた飲み物のような缶だった。

8000円かけて、これだけという損害感を感じながら缶のプルタブに指をかける。プシュッと炭酸のようなものを口に煽ると、甘い香りが鼻腔をくすぐる。

俺はそのまま家に帰った


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