第14話 仕事と執筆
希死念慮も父親のお陰で軽減され、気持ちが少し楽になった。このことは次の受診の時に話そう。
そろそろ事業所にも行かないと忘れられてしまう、ということはないが、少しでも仕事をして収入を得ないと。今のところは障害年金でまかなっているけれど、将来のことを考えたら訓練は必要だと思う。
いずれは障がい者雇用枠で一般就労するつもりだから。
パートではあるが、事業所の母親的存在である
彼女は主にホテル清掃をメインに勤務している。今でもそれは変わらないのでは。
確か前田さんは五十代のはず。スタッフの中では最高齢だと思う。ぽっちゃりした体型で優しそうな笑顔。いつも元気で性格もいいと思う。調理師免許を持っていて、時々、事業所で昼ご飯を作っている。
来週の月曜日から調子が良ければ出勤しようかな。今日が金曜日だから三日後。俺が所属している事業所は年末年始とゴールデンウィークが休みだ。
本来は八日間休みを取るんだけれど、俺は職員と相談して、一カ月に十五日くらい出勤するようにしている。その通りにいかない場合もあるけれど。
最近に至っては全く出勤できていない。父親は今のところ何も言わないけれど。でも、その内言われそう、仕事に行けと。ただの怠けだろと。怠けじゃないのに。そんな父親の戯言(たわごと)などまともに聞いていたら不快になるだけだ。だから、仕事やデイケアは自分の判断でどうするか決めることにしている。たまに、行かないのか? と父親に言われるけど、無理はしない。
とりあえず明日と明後日は土日だから今日は少し執筆する。やすみやすみやる、疲れやすいから無理をすると具合いが悪くなるので。
ちなみに小説のストーリーはSFで、完全オリジナル。宇宙のはるかかなたに住むいきもののはなし。
父親は、出来上がったら読んでいいか? というので、いいよ、と答えた。いままで自分から読んでいいか? という話などなかったのに、どういう心境の変化だろう。興味がわいたのかな。嬉しいといえば嬉しい。読者が一人増えたから。
あまり集中できなかったけれど、一時間くらいは書いた。文字数では二百文字くらいかな。遅筆だからあまり多くは書けない。だから、一作仕上げるのに約半年はかかる。でも、出来上がった時は達成感がある。それが、なんとも言えない。だからがんばってすこしずつ書きたいと思う。
それに伴って、読書もしたほうがいいと思う。だから、いま俺の部屋には二冊SF小説が買ってある。読み進めないと。
ネットで小説の書き方入門を買って読んだら、さまざまなジャンルの作品を読んだほうがいいと書いてあった。なるほど! と思った。 それと、毎日、一行でもいいから書いたほうがいいと載っていた。いわゆる日課にする、という意味だろう。
俺が思うに、基盤を作ってから改めて書こうと思う。とりあえず、小説の書き方入門を読み終えてから書くことにしよう。ただ、一作は完結しているので、友人の
一時間書いて疲れたから少し休もう。そう思い、布団にもぐった。
気付いたら寝ていたようだ。執筆をしたからその疲れで眠ったのだろう。つかれやすいのが玉にきず。
起きてみたら疲れはほとんどなかった。なので、もうすこし執筆することにした。一次創作のSF小説。一話千文字を目標に書いている。いまのところ三話目まで書いていて、いまは四話目を書いている。執筆は面白い! むずかしいけれど。そう思う。
さらに一時間とすこし書いた。少しつかれた程度だ。
人間のからだはおもしろい。つかれる時とそうでもない時がある。気持ちの問題だろうか。
多分、気分的なものもあるだろう。俺はそう思う。
決めているのは十話までに完成させること。文字数で言うと約一万字。この俺に書けるだろうか。でも、やれるだけやってみる。やらないで諦めるのはちがうと思ったから。
まえは、すぐに諦めていたけれど、最近は、そうでもなくなった。この心境の変化はなんだろう。自分でもわからない。でも、いい傾向にあるからそこは深く追求しなくていいかもしれない。
明日は受診日。
俺は外出するときはたいていシャワーを浴びるからいえることだ。
希死念慮もたまにあるけれど、でも、以前よりは軽減されている。天気か季節のおかげかな。
今夜は焼肉をすると父親は言っていた。でも、俺と父親だけではさみしいから会社の同僚を呼ぶことにしたらしい。しかも、父親と同い年のようだ。ていうことは、五十代くらいか。
父親は午後六時まで仕事だから、焼肉をするのはそれ以降になる。冷蔵庫には野菜はあるけれど、肉がない。買い物をしてから帰宅するのだろうか。電話して訊いてみよう。もし、買ってこないなら、代わりに買ってこようと思ったから。
何度目かの呼び出し音でつながった。
『もしもし、修治か? どうした』
「父さん、肉ないけどどうするの?」
『ああ。帰りに買っていくから大丈夫だぞ』
「わかったー」
そう言って電話を切った。
それにしても、はじめて会うひとだから、緊張する。なんだか、調子がわるくなってきた。
不安。薬を飲もう。環境の変化に弱い俺。なんだか弱いイメージが自分自身にはある。
でも、仕方ない。これが俺だ。病気だって、もっと時間が経てばよくなるだろう。だから、
医者が言うようにあせったらだめだ。そこは肝に銘じないと。
父親との通話が終わってから一時間くらい経過して、家のドアが開いた。父親が帰って来たのだろう。俺は、
「ホットプレートどこにあるの?」
と訊いた。すると、
「物置小屋に箱にはいってあるだろう」
不機嫌なのかな? と感じた。でも、気にしない態度で俺は外にある物置小屋に向かった。
その時だ。なにかが破裂する音が聞こえた。なんだろうと思い、物置小屋から出て外を見た。すると、白い自動車が道路に停まっていて、よく見るとタイヤがパンクしている。いったいだれの車だろう。あとから、父親の車がやってきた。パンクしている車のうしろに停めた。窓を開けた父親は、
「晴美! どうしたんだよ?」
「太志さん、ちょっと助けてよ! タイヤ、パンクしちゃった」
「え? マジか!」
「大マジよ!」
父親を見ているとすぐに自分の車から降りて、晴美さんという女性のもとに駆けつけた。
父親は晴美さんのタイヤを見るなり、
「あっ! パンクしてる!」
「だから、言ってるしょ!」
「なんでだ? 釘でも踏んだか?」
俺は、
「父さん」
と呼んだ。
「おお、修治。手伝え。あっ、こいつおれの息子」
晴美さんにそう伝えた。
「こんばんは」
晴美さんは、変なところを見られた、というような顔で、
「こんばんは」
と返してくれた。
あたりはだいぶ暗くなってきていた。
とりあえず、スペアタイヤに履き替え、俺は古いタイヤを家の近くへと運んだ。
「釘、刺さってるわ」
俺がそう言うと、
「やっぱりか」
父親は顔を歪めた。
「晴美、これはタイヤ買わないとだめだわ」
「えー! そうなの? いくらするんだろう」
「メーカーによって値段はちがうはずだから、車屋に行って訊いてみないと」
晴美さんの車は父親の運転で車屋に行った。
俺は荷物だけを受け取り、肉を冷蔵庫に入れた。
新しいタイヤで二人は帰ってきた。
焼肉がたのしみだ!
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