第9話 体調不良

 俺は今、凄く調子が悪い。消え入りたい気持ちもある。こんなんじゃ、執筆も出来ないし読書も出来ない。小説家になりたいだなんて大口叩いた俺が馬鹿みたいだ。


 貝沢梨絵にも会わす顔がない。風呂にも五日くらい入ってないし、歯磨きだって一週間はしていない。


 親にうるさく言われても、風呂なんてどうでもいいと思っていた。発病してから大分経つのに何で今になってこんな悪い状態になってしまったのだろう。


 きっと、事業所の環境が悪いせいだろう。特に人間関係が。気性の荒い利用者がいて、俺に因縁をつけてくる。なぜ、俺なのかわからないけれど。


 金を貸せ! 女紹介しろ! などと、とんだ無茶ぶりだ。断ってもしつこく言ってくる。事業所のスタッフにも相談したが、無視しなさい、で終わってしまう。一体どうしたら離れてくれるんだ。


 ちなみに高月隆たかつきたかしという名でもちろん同じ事業所で働いている。坊主頭でがたいはデカい。俺が思うに気性が非常に激しいと思う。たまに、スタッフと怒鳴り合っているし。見ている限りではパソコンの組み立てが得意な模様。身体障がい者で脳性麻痺と以前言っていた。たまにパチンコ屋で見かける。生活保護受給者だというのに。確か結婚していて、子どもがいるはず。同性愛者が嫌いだと言っていた。


 高月の情報はこれくらいかな。


 梨絵に会いたいようなそうじゃないような。


 職場を変えようかと思った時もある。それを親に話すと辞めたらだめだ! と叱責される。その他にもいろいろ言われるけど。


 何でこんな病気に罹ってしまったんだ、俺は。親族の誰を見てもこういう病気にかかっていないのに。以前、統合失調症の本を買ったことがあって見てみたら、原因不明と書いてあった。一体どうしたら体調が安定するのだろう。薬は飲んでるし、たまに運動はしているし。とりあえず今日は仕事を休んだ。


 翌日、事業所に出勤してみるとスタッフが駆け寄ってきた。

「内山さん、大丈夫なの? よく出勤して来たね。調子良くなったの?」

この女性はスタッフの前田淳子まえだじゅんこさん。この事業所の母親的存在。多分、五十代だろう。いくらおばさんとはいえ、女性。年齢は訊きにくい。でも、とても優しく気遣いも上手い。現在はパートで働いていて、利用者の支援をしたり調理師の資格を持っているのでたまに、皆の昼ご飯を作っている。とても美味しい、前田さんの作る料理は。親の作る料理も旨いけれど。


「はい。何とか」

「頑張ってるねぇ、偉い!」

「有難うございます! そう言われると嬉しいです」

前田さんは笑っていた。

「何か悩みでもあるなら聞くから言ってね!」

わかりました、と答え俺は空いている席まで移動し座った。高月はいるのかな、と気になり辺りを見渡すと奥のほうに座ってこちらを睨んでいる。わー、怖い怖い……。俺は目を逸らしてパソコンに電源を入れた。

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