第8話 障がい者の活動

 俺は、現在、就労支援事業所という障がい者が働くところに勤務している。今は、ホテル清掃とパソコン業務をしている。勤務時間は九時から十五時まで。事業所で働いているメンバーはスタッフを除いて三十名くらいいる。もっと規模の大きな事業所も地元にはあるけれど、あまり人の多いところは苦手なので、今のところくらいがちょうどいい。たまに、具合いが悪いときや行きたくないときは休みをもらっている。一般就労していたときよりだいぶ緩い環境。病気のある俺にはハードな仕事ができない。それでも、事業所の規定で八日までは休まないといけないので月、二十二から二十三日まで働ける。それだけ働いても時給は最低賃金より低いので、事業所の給料だけではいくら実家暮らしでも障害年金ももらわないと生活はきつい。ちなみに、障害年金というのは精神・身体・知的障害の人たちがみんなではないけれどもらえる年金のこと。


 この前会った、貝沢梨絵とは同級生の二十八歳。彼女は書店にパート勤務している。そういう本が好きなところは共通していて気が合う。梨絵は俺が障がい者だということは承知している。その上で関りを持ってくれるのだから嬉しい。

 

 俺にとってまるで天使のような存在の梨絵。憧れている。相手はどう思っているだろう。気になる。ちなみに俺はこんなだから未婚。梨絵は二十歳の時、十歳上の男性と一緒になったけれど二年くらいで別れたらしい。その辺はくわしく訊けない。プライバシーを侵害したらまずいと思って。


 今日はデイケアに行く日。火曜日。スタッフの沢田珠理奈は来ているだろうか。スタッフだから特別な感情はないけれど、明るくて元気なのが魅力的。少し分けてもらいたいぐらい。沢田さんは、いつも老人のメンバーと一緒に活動している。ちなみに、彼女は二十九歳。子どもはいるけど去年離婚したらしい。


 まず、シャワーを浴びよう。今は八月で真夏。だから、寝ている間に汗をかくくらい気温が上がる。なので、このまま行くわけにはいかない。汗臭いと言われてしまう。面倒だけれど浴びよう。


 今は午前九時過ぎ。赤いTシャツにグレーのハーフパンツをはいて、バッグに財布とスマートフォンと小説一冊を持って、自転車で出発した。今日も太陽の光が眩しく暑い。少し面倒だけれど、沢田さんにも会いたいしメンバーの原田さんがいれば久しぶりにお喋りしたい。そう思いながら自転車をこいだ。


 不意に口の中が乾いてきた。どうしたのだろう? 珍しい。事業所の工賃とと障害年金だけの収入。親には言えないが、正直キツい。でも、これが現実。お金が欲しいならもっと給料のいいところで働かないといけない。


 そんな中でも色々な出逢いはあるだろう。出逢った人達に僕の書いた小説を読んでもらいたい。そして、意見やアドバイスをもらいたい。「小説家」になるために。でも、もっとメンタルを強くしないと中には誹謗中傷を言う人もいるかもしれない。それらに負けない為に。


 とりあえず、デイケアに着いた。今日のプログラムは午前中は読書、午後はフリータイムとなっている。


 果たして今回スタッフはどんな内容の資料を持ってきてくれるのだろう。


 10時になり、プログラムが始まった。今回のテーマは、「人間関係の大切さ」というもの。


「この資料を読んでくれる人、手を挙げて。この長さなら、2人でいればいいかな」


 俺は勇気を振り絞って、手を挙げた。

「あっ! 内山君。あと、1人。誰かいない?」

周りは静まり返った。誰も読みたくないのかな。僕は貝沢梨絵のほうを見た。そして目で合図をした。読もう、という合図。梨絵は俺のことを手で払いのけるように笑顔でシッシッとやった。


 デイケアの主任の五十嵐舞子いがらしまいこさんは梨絵の方を見て、

「貝沢さん、読んでくれる?」

 梨絵はこちらを見て、睨んでいる。俺は笑ってしまった。

「じゃあ、内山君と貝沢さん読んでね」

 そう言われて僕らは読むことになった。


 

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