第7話 自信

 今、僕は自転車で図書館に向かっている。夕刻だからか交通量が多い。


図書館は住宅街から少し外れたところにあってまだ建てられたばかり。


俺は持病のことなど気にしないで、梨絵に会おうとしている。むしろ気にしたら負けじゃないか、と思っている。


午後四時頃に待ち合わせをしていて、俺はすでに到着しているけれど、梨絵はまだ姿を見せない。


とりあえず、館内で読書をして待つか。


どんなジャンルの本を読もうかな。たまには、ファンタジー小説を読もう。

このジャンルは普段、書かないし読まない。まさしく、俺は異世界に足を踏み入れようとしている。


 約十分待って梨絵が歩いてこちらに向かっているのが見えた。


向こうは俺の存在に気づいたようで、笑顔で手を振っている。こちらももちろん気づいたので手を振った。


梨絵は館内なので静かに近づいてきた。


「こんにちは、だいぶ待った?」

「いや、そうでもないよ」

そっか、と彼女は頷き、

「小説読むのと、訊きたいこともあるって言ってたけど、どっちからにする?」

俺は即座に答えた。

「小説が先で」

「了解」

また、了解、が出た。俺はこの「了解」があまり好きではない。何となく、他人行儀な感じがして。


俺はバッグの中から第三章から第五章までのを文章入力ソフトで書いて印刷したものを梨絵に渡した。


「どれどれ」

と、言いながら館内のテーブルの上に原稿を広げた。梨絵は瞳を上に向けて、前回の話は、と独り言を言っている。




 十五分後くらいしてから梨絵は読み終えた。

「うん、なかなか面白いと思うよ」

俺は一気に嬉しくなり、

「ありがとう! 梨絵! また少し自信がついたような気がする」

「なら、よかった」

と、梨絵は微笑んでいた。


「それと、あたしに訊きたいことってなに?」

うーん、と唸ったあと俺は、

「いや、やっぱりいいや」

「えっ! いいや、って気になるよー」

「ごめん、またの機会にするわ」

なんだ、と言って彼女は残念がっていた。


梨絵は俺が何を言いたかったか察しただろうか。勇気のない俺は大切なことを言い出せずに情けない姿をさらけ出してしまった。


俺は今、彼女に首ったけ。もし、彼女を悪く言う奴がいたら容赦しない。それくらいの心積もりはある。


「これからどうしよっか」

絵里はつまらなそうに言う。


せっかく図書館にきたから読書していこうかな。その旨を絵里に話すと、そうだね、と言い自分の興味のある本を

探しに二手に分かれた。


 約十分後、俺は館内の中央付近にある六人用の大きな椅子に小説の文庫本を持って座った。今日はそれほど混んでいなくてラッキーだ。梨絵は雑誌を持ってきた。互いに笑顔を浮かべながら見つめあう。目線は彼女の方が先に外した。




 一時間くらい経過した後、俺は半分くらい読み終えていた。梨絵は既に読み終わったようで、暇そうにしていた。

「あ、ごめん。暇だったしょ」

俺は慌てて読んでいた小説を伏せた。

「続き、読んだら?」

「いや今度、一人で来た時読むよ」

「あたしのことは気にしなくていいんだよ?」

俺は頭を左右に振り、否定した。

放ってなんかできないよ。すると、梨絵は笑顔を浮かべて、

「そう? じゃあ、構ってね」

彼女は本当は構って欲しかったんだ、ということに気付いた。


「何がしたい?」

と、訊くと迷っている様子で、

「うーん、海に行こう?」

「お! いいねぇ。じゃあ、行こうか」

梨絵は頷いた。久しぶりの海。この辺は遊泳禁止の所が多く、近くの海でも自転車で二十分くらいかかる。彼女は水着になるのかな。僕は少し興奮した。

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