第6話 一日の活動

 今は午後八時前。貝沢梨絵にメールする時間が近づいている。俺は今、自宅の自室で小説を書いている。将来の夢である小説家に向けて今日もがんばっている。


 自分の中で切りのいいと思ったところで手を休め、メールをしようと思っていた。


 集中して書いていたせいか、八時三十分を過ぎていた。


 あっと思ってスマートフォンを手に取り、梨絵にメールを打った。

 [今日、仕事だったよね? お疲れ様。明日は休み?]


 それから三十分くらいしてから返信があった。

 [こんばんは! 明日は休みだよ。どうかした?]


 すぐにメールを打った。

 [小説もまだ読んでもらってないから読んでもらいたいし、訊きたいこともあるんだ]


 やや、間があって、

 [訊きたいこと? 小説はよむよー]


 トイレに行っていたので、やや遅れてメールが来ているかチェックした。来ていた。

 [うん、明日四時ころ図書館で会えそう? 小説、よろしくね!]


 再度、きたメールは[了解]のみだった。簡潔し過ぎていて少し寂しかった。


 明日、俺の質問に対しての応答はあまり期待出来ないかもしれない。


 翌日になり、午前は事業所でパソコン業務をし、午後からはデイケアに行く。そして四時ころから図書館で梨絵と会う予定になっている。デイケアではスタッフの沢田珠理奈さんに会えるはず。有給休暇を取っていなければ。


 でも正直、結構予定が詰まっているから疲れそうだ。


 今まで身近にいた、貝沢梨絵の優しさにどうして気づかなかったのだろう。


 小説を読んでもらうことばかりに目がいって、彼女の魅力が隠れてしまっていたのかもしれない。それとも、彼氏がいるから鼻っから諦めていたのか。自分自身のことなのにイマイチわからない。


 まずは仕事に行くか、ああ、面倒だ。そう思いながらいつも出勤する。時刻は八時三十五分。支度も済ませたのでそろそろ家を出よう。


 

 自分の車はないので、自転車で通勤している。冬はさすがにそれでは行けないので、母に頼んで送ってもらっている。


 自宅の小屋に入っている自転車にまたいだ時、この時期ではいつもだがサドルに熱を持って尻が熱い。この中はまるで蒸し風呂のようだ。


 我慢をして自転車に乗り、片道十五分のところにある障がい者就労支援事業所はある。そこでは、パソコンのスキルを学べたり、名刺やチラシを作ったりして販売している。


 俺は文章を書くのが得意なので、文書入力などの仕事をしている。


「障がい者」といってもあなどれない。障がいの種類は三つあり、身体・精神・知的にわかれている。俺は統合失調症という心の病を抱えているので、精神障がい者に属する。そこでの給料プラス、障害年金ももらっている。いずれは、小説家になって障害年金も切って生活できるようになるのが目標。


 今日はさすがに暑く、スマートフォンのアプリで温度計を見ると29.2℃と表示されていた。なので、事業所のエアコンをつけてもらった。


 エアコンのお陰で快適に仕事はできた。一度、自宅に帰って昼食を食べる。今日は冷やし中華だった。タレをかけておいしかった。若干、食欲が暑さのせいでか低下していたのでちょうどいい。


 自宅には俺の少ない収入の中から二万円入れている。でも、それで生活全般を養ってもらえているからありがたい。ひとり暮らしなら全く足りないはずだ。


 それから、デイケアがある精神科専門病院に向かう。


 昼からは空模様が傾いたので一応傘を持って出かけた。


 デイケアには今から楽しみにしている沢田さんがいると思う。元気が良くて、綺麗で色っぽい。


 パターンとしては、午前は障がい者就労支援事業所で仕事をして、午後からデイケアにいくのが月曜日から金曜日まで毎日の予定だ。


 デイケアは案の定、沢田さんがいた。ここに来ると彼女のお陰で笑いが絶えない。そういう彼女だが、自分には非常に厳しいらしい。遅刻、欠勤は皆無という話を別なスタッフから聞いて知った。凄い女性だな、と思った。旦那さんになる人は一体どういう感じの男性なんだろう。


 今日のデイケアのプログラムは町の中をウォーキングする、という内容だった。程よく汗をかけて、その後沢田さんと雑談した。


 デイケアから十五時過ぎに帰ってきた。雨雲のような黒っぽい空模様だったけれけど、雨は降らなかった。


 この時間になると、精神的に疲れてくる。たまに、帰宅して一時間くらい寝る時もある。ミーティングをした日のデイケアはかなり疲れる。


 でも、今日は体を動かしたからか、メンタル面はさほど疲労感はない。


 これから、梨絵と図書館で待ち合わせしている。果たして彼女は俺の質問に何て答えるだろう。

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