第5話 想いの変化

 あれから梨絵の彼氏はどうなったのだろう。数日前に、図書館に行って俺の書いた小説をよんでもらう予定だった。彼氏が事故を起こして彼女が呼ばれてから、連絡はない。こちらからメールしてみることにした。


 [こんにちは。あれから彼氏さん、どうなったの?]


と、送った。返信は少ししてからきた。ちなみに今は午後三時三十分過ぎ。僕は就労支援事業所の仕事を終えて帰宅したあと。

[こんにちは。心配かけちゃってごめんね……。彼は元気だよ。ただ、車がスクラップになるみたいで、あたしの車を貸してあげてるの。あたしは職場までは近いから自転車でいいけど、彼は隣町だからさすがに自転車というわけにはいかないからさ]


俺はそのメールを見て梨絵はなんて優しいのだろう。彼女の優しさに溺れてみたいと思った。


今まで梨絵に対してこんな感情を抱いたことなどなかった。ただ、小説を読んでもらっている同級生に過ぎなかった。


 八年前からずっと考えていることがあって、それは、

『どうして病気になってしまったのか』

と、いうこと。医者はなってしまったからには、良い方へ向かうことを考えましょう、と言うけれど、なかなかそう簡単に前向きに考えることは難しい。


 でも、貝沢梨絵の言動で俺の気持ちは良い方へ揺らいだ。でも、彼女には彼氏がいる。叶わぬ想いだと頭ではわかっているが、気持ちは違った。


 病気の捉え方も、医者が言うように治していこう、という気持ちになりつつある。


 この次会った時にそれとなく梨絵の気持ちを探ってみよう。俺の書いた小説も時間があれば読んでもらおう。俺は嫌われてはいないはずだ。もし、そうならメールも送ってこないだろうし、小説だって読んでもらえないはずだ。 


 今日は日曜日。梨絵の書店のバイトが終わったらメールしてみよう。多分午後八時過ぎには自宅にいるだろう。




 本日のデイケアは休み。なぜかというと日曜日だから。なので、デイケアのスタッフの沢田珠理奈さんには会えない。俺よりひとつ年は上だけれど、若く見える。俺にとって姉のような存在。いつも、茶髪をうしろでしばっていて、前髪を垂らしている。色っぽい。でも、彼女は幼少のころ交通事故で両親を亡くしている。そんな辛く悲しい過去を微塵も感じさせない姿はさすがプロだなと思っている。明日、午後からデイケアに行ったら沢田さんに会えるだろう。


 沢田さんにも、というか、スタッフ全員に俺が小説家を目指していることは知っている。そのため、デイケアのプログラムにも『内山修治の小説を読む会』というのがあり、そこで俺の書いた小説の読み合わせをして、感想や意見をもらっている。今月も金曜日にやる予定だ。

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