第4話 彼の夢

 オレは、内山修治と同じ病院に通っている。名前は、原田耕平はらだこうへいという。年齢は彼より、ふたつ上の三十歳。二十二歳の時にうつ病と診断された。


 いつもオレは、ロングヘア―でオールバックにしている。気にしていることは、洗髪をあまりしていないこと。汚いイメージがあるし、まずいことも自覚している。でも、面倒なのが先にたってしまう。それが、夏なら洗髪する回数は増えるけど、それでも一日置きかな。


 今日は、二週間に一回の受診日。今は夏で、北海道とはいえ暑い。スマホの温度計を見ると、二十八℃を指していた。汗が噴き出てくる。


 調子は今は悪くない。受診の予約時間は、午後一時三十分。それまでは、デイケアに参加していよう。待つのは嫌いだから。今日はそこに、修治はいるだろうか。一番、気が合うのは彼なのだ。そこの職員とは、あまり反りが合わない。五人いる中で、二十九歳の女性は年齢が近いからか、よく喋る。五十代の男性職員二名と四十代の女性職員二名とは挨拶程度であまり会話をしない。


 その仲の良い沢田珠理奈さわだじゅりなという職員は元気が良くて綺麗。しかも、色っぽい。


 オレは徒歩で病院へ向かった。生活保護を受給しているので車は乗れない。三十分くらい歩いてようやく病院に到着した。脇の下や、背中は汗で濡れている。気持ち悪いので、トイレで用意しておいたTシャツに着替えた。


 まず、受付に行って診察券を提出してから、血圧を測った。この血圧計は、ボタンを押すだけで測定できる。その後、外来に行き血圧の数値が印字された紙を看護師に渡して、「デイケアに行きます」と言ってから向かった。


 修治と職員の沢田さんはいるだろうか。向かう途中で二人が居るのと居ないのとでは大分違う。皆のいるデイケア室に入った時、「おはようございます」と大きな声で挨拶した。皆もまばらだが、「おはようございます」と言ってくれた。


 まず、出席簿に名前を書いて、受診するか否かと一日参加か、半日参加のどちらかに丸をする。今のところ十五名が参加している。それから、空いている席に着いた。沢田さんが近づいて来て、

「おはよう! 原田さん」

と、明るい表情で声を掛けてくれた。

「おはようございます」

そう返事をした。相変わらず綺麗だな、と思った。

「今日は何するの?」

「受診待ちです」

「あ、そうなんだね。調子はどう?」

優しい眼差しと口調で言った。

「まずまずです」

沢田さんは頷きながら笑顔で「そっか」と言った。

周りを見ると、内山修治はいた。今は午前九時三十分頃なので朝の会まであと二十分くらいある。なので、俺は話し掛けた。

「修治。おはよう!」

「あ。おはようございます、原田さん」

彼はオレの後ろに座っていたので体の向きを変えた。

「体調はどうだ?」

「まあまあですよ。原田さんは?」

「オレもまずまずだな」


 持ってきたペットボトルのカフェオレをバッグから一本取り出して、テーブルの上に置いた。


 そして、朝の会が始まった。まずは、スタッフから、

「今日、日直やってくれる人、誰かいませんか?」

と、四十代の女性職員は言った。

オレはしたくなかったので黙っていた。すると、

「原田さん、久しぶりに来てくれたからやりませんか?」

そう言われた。嫌だなぁ、と思いながらも引き受けた。


 そんな感じでオレの久々のデイケアは始まった。


 午前中はみんなで読書をした。それから昼ご飯を食べ、修治とも喋ったり、職員の大沢さんとも話せて午後一時三十分なので精神科外来に向かった。診察もスムーズに進み、オレも五分程度で終わった。午後からのデイケアはフリータイム。何をするか自分で考え、行動するというプログラム。オレは疲れてデイケアの一室で寝ていた。修治がやってきた。

「原田さん」

起きてみると、俺の真向かいのソファに修治が心配そうにこちらを見ていた。

「お……。修治。どうした」

「大丈夫スか?」

「ああ。疲れただけだ。心配かけて悪い」

「いや、大丈夫ならいいけど」

少しの間沈黙になり、それから、

「修治は事業所続いてるのか?」

「ええ。行ってますよ」

彼に笑みが見えた。

「働ける奴はいいよなー。俺も働きてー。小説も書いてるんだろ?」

「そうですね。書いてますよ。俺の夢だから。小説家になるのは」

オレは低く唸った。

「仕事も自分の好きなこともしてる。病気はあるにせよスゲーよな、修治は」

彼は笑みは浮かべながら、

「いや、そんなことないッスよ」

と、言っていた。まるで、自分が何も出来ない人間ように思えてくるのは気のせいだろうか。劣等感というやつ。


悪い方に考え出すと切りがない。

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