第三節一款 封建領主
西舘と清水は馬に揺られ日の出財団北千葉拠点から、柏の街の役場に向かっていた。
時刻は丁度十三時。十五時から拠点で二關理事長を交えて会議を行う予定だったので、それの迎えと考えれば丁度良かった。
「流石にあの資料を光郁くん独りで読ませるのは可哀想よ」
「俺も考えが足りなかった……」
「それに光郁くんや一守くん、西舘くん、それに四藏くんに何かあったら…… 今は財団の役員達が司令塔になって積極的に動いてるから、みんな落ち着いて行動が出来てるのよ。誰かが倒れたら動揺が一気に広がって財団そのものが崩壊しちゃう」
清水の指摘は最もだと西舘は感じていた。
ゲーム時代から築かれた中央集権とピラミッド型の組織体系。常に上から行動指針が示され迷えば上に相談が出来る。連絡がつかない拠点を除いてはそれらが上手く機能している。
ピラミッドの頂点が崩れれば全てがバラバラに崩壊しかねない。
然う斯うしているうちに役場の門の近くに着いた。
門番の四人が出入口を塞いでいた。そして、探検家と思われる男女の人影が二人。
見渡せば領兵と思われる人影が多くいた。
「何かあったのかしら」
「やけに厳重だな…… とりあえず行くか」
馬を降り門番の一人に話しかけた。
「日の出財団の西舘と申します。二關様に面会を……」
「財団の方ですか。来客対応中なのでそれが終わるまで待ってもらえますかね」
「来客ですか…… 因みに来客と言うのは」
「あー、公国の使いが来てましてなー……」
門番の様子が少しおかしい様に西舘は感じた。中を頻りにチラ見しながら妙に面倒臭そうに、そして不安そうにしていた。
「あの、日の出財団の担当者の方ですか?」
門番と西舘、そして清水が門の中を覗き見ていると傍にいた探検家の一人が話しかけて来た。見た目はとても若い、西舘は中学か高校生ではないかと想像していた。
「そうです。日の出財団で元帥をしている西舘とこっちは清水大将です。あなたは?」
軽く会釈をしながら当たり障り無く挨拶をした。
「あの財団の元帥殿でしたか! すごいっすね! 俺、
「成り行きでなっちゃったから、すごいなんて事はないけどね。えっと、萩峯さんはどうしてこんな所に」
「公爵閣下の使者の護衛を引き受けまして。それで市川の街からここまで来ました」
公爵の使い。つまりゲーム内に存在していた下総公国からの使者なのだろう。と西舘は思った。
ゲーム内の国家は
武蔵連邦の国王と主従関係にある公爵が公国の長となり、その公国の下に二關の様に伯爵の地位が与えられ地方領主となる。
「公国からの使者というのは、もしわかる様な目的を教えてほしい」
「西舘さんと清水さんは財団内で偉い立場の人ですか」
「まぁ、一応元帥と言う立場だから、偉い立場と言えば偉い立場だ」
「わかりました! ちょっと中で確認して来ます!」
萩峯は門の中へ入って行ってしまった。
「あなたも昴星華団の方ですか?」
清水は独り残されたもう一人の探検家に話しかけていた。
「ぇ、えぇ…… 昴星華団の
「そうよ、お互い大変ね……」
「えぇ、まぁ。団長が落ち着いてましたし、それにみんな同じ学校の人達なので…… こんな状況下でも知人が居るって思うと安心出来ました」
「そうなの…… お互い頑張りましょ」
財団にも中高生、そして小学生もいる。親から切り離され訳もわからずこの世界に飛ばされた。そう言う子供達のメンタルケアも今後は考えていかなければならない。清水は財団の若いメンバーや自身の子供の事を思い出し考えていた。
そして、萩峯が息を切らしながら戻ってきた。
「西舘さんに清水さん、中に入って良いって事でした!」
◆
西舘と清水は案内された大広間に入った。
上座の方には、立派な身なりの恐らくは公爵の使いと思われる人間が三人と探検家が二人、そして和服を来た二關と領兵と思われる人も五人。
部屋の中央には房総半島の地図が広げられ、皆で眺めながら話していた。
みな険しい表情をしている。二關も例外無く顔面蒼白になり眉間に深いシワが入っていた。
部屋の入口で待機している二人に気がついたのか、二關はよろよろと立ち上がり二人の方へ向かった。
「ちょっと、外で話したい」二關は二人を縁側に連れ出し腰をかけ、二人にも促した。
縁側に三人並んで座ったものの二關はまっすぐ前を見つめ黙っていた。
役所の使用人がお茶とお菓子を持ってきたが、それにも反応せず前を見つめたままだった。
「大丈夫か?光郁」
静寂に耐えかね西舘が声をかけると『ビクッ』と驚いた様な反応をだった。
「あぁごめんごめん、ボーッとしてた。晶郁の様子はどんな感じ?」
「眠ったままだ…… ただ、顔色も良くなったし痛みに反応もある。医者の話だとすぐに眼を覚ますだろう。とは言っていたが…… 詳しくは拠点に戻ったら医者に聞いてくれ」
「そっか…… 良かった。拠点の状況は?」
「一応落ち着いてそれぞれ動いてる。増築やら宿舎棟の工事も始まった」
「実動部隊としては最短でどのくらいから動けそう?」
二關の発言に西舘は驚き、清水に至ってはお茶を吹き出していた。
「…… それは、公国の使者さんが来ている件と関係あるんですか?」清水は堪らず二關に質問仕返した。
「まぁ、関係はある。下総と上総、千葉県北部と中部で戦争になる…… かもしれない。今時点では燻ってる状況。仮に戦争になれば領主の立場として領内からそれなりの数を送る予定だが…… それとは別に日の出財団への出兵の希望があった。これは保留中だが」
二關は諦めた様な笑みを浮かべ、西舘と清水は唖然としていた。
探検家達がこの世界に飛ばされ、まだ二日も経っていない。未だに自分自身と目の届く範囲の事柄にしか手が回っていない状況下で、〈戦争〉と言う単語は余りにも唐突で非現実的な物であった。
「財団として、今後何かをして稼がなければならない、それは理解しています。低級の恐獣駆除とか、物の運搬とか…… そう言うものは想像していました。でも戦争は……」
清水の発言を最後に三人とも黙ってしまった。
「とりあえず、今後の国との付合いの事を考えて財団として明確に拒否をする事は出来ない状況です。もし仮に戦争になってしまったら、補給協力とか、警察業務の委託とか、そう言った協力はあるかもしれないと言う事は頭の片隅にでも…… 来客に挨拶して拠点に向かう準備しますので、少しここで待っててもらえますか」
二關は菓子を頬張り茶で流し込むと大広間へ戻っていった。
「戦争ねー……」
清水は茶を啜りながら呟いた。
「今は色々立て直してから考えればいい」
西舘もお茶を啜りながら答えた。
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