助言者ロボットくんと相談者ユキちゃん
4月23日 日曜日
僕はバイト先の喫茶店で、バイトの最中である。
席に座り、目の前には林木さん。
気まづそうな面持ちで、キョロキョロしている。
それも、そのはずか。
今日は相談をのるという話で来てもらっているのだが――
4人席のはずの空席は全て埋まっていた。
「お待たせしました。こちらアルカンシエル一番人気のカレーでございます。一君にはコーヒーです」
「ありがとうございます、マスター。バイト中にこんなお願いしてしまい」
「いいんだよ一君。これも男として歴とした仕事だからね!」
「あっ、ありがとうございます。ところで、横の2人はなぜ座ってるのですか?」
僕とマスターが話していると、今まで黙っていた2人の部外者が話に介入してきた。
「ひかる君酷いなー、ボクは姉みたいなものでしょ?」
「いや、本当に姉はいるから」
「うわっ、酷いなー! 楓ちゃんからも何か言ってよ!」
「晄、ひどい」
「いや、くるみと楓はバイト中だろ」
「晄も」
「僕はマスターから許可をとってるから問題ない」
「じゃーボクもマスターに許可をとれば問題ないよね!」
「私も」
「問題大ありだ!」
僕はバイト仲間である一ノ条くるみと脇崎楓に、普段以上の声で一喝した。
「一君は今日、大事な話があるみたいだからここはバイトに戻ろうかエルたち?」
「マスターがそういうなら仕方ないね!」
「晄」
くるみの方は潔く引いてくれたが、楓は無表情で何かを語りかけているように見える。
まー、無視しよう。
3人が席から離れたところで、ようやく林木さんが口を開いた。
「あっ、ロボット先輩。いただきます!」
林木さんはカレーを食べ始めた。
どうやら、あの2人のせいで食べられなかったのだろう。
林木さんは、至福の時を過ごす童話の少女のような笑顔でスプーンを運んでいる。
やはり、林木さんの食べている姿は見ていて幸せを感じる。
僕は林木さんが食べ終わる10数分をチラチラと眺めながら、待っていた。
林木さんがにこっと笑い、満足げな表情をしている。
「ロボット先輩、とっても美味しかったですよ! 私、こんな美味しいカレーは初めてです!」
「マスターのカレーは僕も人生の中で一番美味しいと思っていますよ」
「ですよね! あっ、そういえば、先程隣に座っていたお2人はバイトの人ですか?」
「そうですね、迷惑なバイトたちですいません」
「そんなことないですよ! お2人ともとても可愛らしい人ですね。モデルさんみたいです」
「えっ、そうですか?」
「私はそう思いますよ! それに、ロボット先輩と、仲良さそうですよね」
「それは、昔からの腐れ縁的なものですよ」
「そうなんですねー」
何だろう、この怪しい人間を見るような眼は。
僕は何もしていないよな‥‥‥してないよな?
って、そろそろ本題に入らないとではないか。
「林木さん、その、相談って何ですか?」
「あっ、えっとですね」
林木さんに問いかけると、思うように言葉が出てこない様子だ。
少しの時間を空け、林木さんは真剣な表情で口を開いた。
「明日、私、告白されるんです」
「なるほど、告白ですか‥‥‥えっ、告白!?」
僕は思わず大声で聞き返してしまった。
告白って、あの告白だよな?
ということは、男子から告白されるのか?
林木さんは、超が複数個つくくらいの可愛さだから当然だろう。
しかし、林木さんの様子からは嬉しさが微塵も感じなかった。
怯えているような、何かに恐怖してるように見える。
「その告白の相手の男性の方がとても怖くて、私‥‥‥」
すると、林木さんの瞳は潤んできた。
今にも、泣き出しそうである。
「アッコちゃんに相談したら悪いと思って、ずっとどうして良いかわからなかったんです。でも、ロボット先輩が相談にのってくれると言ってもらえて私、すごく嬉しかったんです」
「え、あっ、はい」
困っている女性にどう声をかけるのが正解かわからず、上手く言葉が出てこなかった。
それにしても、そこまで怯えるような相手からの告白なら断るのが普通ではないのだろうか?
いや待て。
林木さんは優しいから、断れないのではないのか。
だから、僕に相談してきたのか?
それは可能性として高いが、僕に何ができるというのだ。
いや、ひとまずは詳細に状況を聞くべきか。
「その告白してくる男子生徒とは仲が良いのですか?」
「仲が良いというほど関わり合いがないです。でも、よく話しかけてきます」
「その男子生徒の告白は断ることはできないのですか?」
「そうしようと何回も繰り返したのですが、上手くいかなかったです。それで、そこから行動がエスカレートしてきて段々、怖くなってしまいました」
なるほど。
だから、怯えたような面持ちだったのか。
今までの話を整理すると、
林木さんは告白を断りたいができていない。
告白されるのは初めてではなく、複数回ある。
最後に、その男子生徒の行動から林木さんが怖がっている。
これは、性格に問題がありそうな気がするな。
推測だが、独占欲が強いタイプの感じがする。
ここまでの話で、僕に何ができるかを考えてみよう。
「僕に何ができるかわかりませんが、僭越ながら一緒に解決方法を考えたいと思います」
「あっありがとうございます!」
僕と林木さんは意見を交わし、告白を断る方法を考えた。
20分後
僕と林木さんの意見は、一旦まとまりをみせた。
「えっと、告白を断る方法は『今は恋愛に興味がない』か、『恋愛対象ではない』で良いんですか」
「そうですね、林木さんの話を聞く限り男性を諦めさせる方法で適しているのはこの2つと考えます。念のためプランAとプランBにわけてリスクヘッジしましょう」
「り、りすくへーじ、ですか?」
「いや、服部ではないですよ。まー、それは置いといて、もしプランAの『今は恋愛に興味がない』と言って男子生徒が引かないようでしたら、プランBの『恋愛対象ではない』を使うのです。告白が失敗するリスクを予測して、何個か対策を準備します」
「なるほどです」
という僕は恋愛など全く知らない。
しかし、日々読んでいる本の知識でそれなりに対応できている気がする。
林木さんは頑張って理解しようとしているようだが、大丈夫だろうか?
今回、僕はプランCを考えていた。
『他に好きな人、気になる人がいる』
この言葉は相手を諦めさせるのに最も効力を発揮する。
だが、林木さんは嘘をつくのが苦手である。
たぶん、言えばすぐバレてしまう。
一瞬で嘘になってしまう可能性があるため、今回はこのプランCは使わないだろう。
「ロボット先輩、ありがとうございました! あの、明日は見ててもらってもいいですか?」
「わかりました。たぶん、僕にできることはないと思いますが」
「近くにいてもらえるだけで良いんです!」
「そ、そうですか」
「じゃ、また明日お願いします。ロボット先輩」
「あっ、はい。またです」
僕は心の不安が薄まった顔の林木さんを送り出した。
明日の告白を前に、なぜか僕の心を騒めいていた。
僕も不安になってしまっている。
それにしても、最近は林木さんと普通に会話できている。
これはかなりの進歩だ。
去年からは考えられないな。
これも、林木さんのおかげだ。
この感謝をどこかで伝えるべきだよな?
僕は思案しながら、バイトへと戻ることにした。
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