(編集済み)未来さんはどんな子?/アタシが本当に見たいのは『違和感と本音の狭間/止まらない時計の針』

 

「まあ……、こっちの報告としては、これで以上だね。今伝えた通り、やはり一部の生徒からの反発は引き続きあるものの、……それもまあ、アタシと他の上級生達数人で何とかするって感じかな?引き続き、相太くん達にはをしてもらうつもりだけど、今の所は大丈夫そうかな?

 例えばだけど、どこかからの反発……。そうだね。からの過剰な反応なんかは、もしかするとあったりするのかな?」


「えっ?過剰な…反応?よ、よく分かりませんけど……、恐らく、そんな過激な人達はいなかったと思います。それ以外で言うなら、まあ……、先輩と一緒にいられるという役得ですから、あんまり気にならないですかね?

 あのこれって……、猫井会長の言っている大丈夫の内にはいりますかね?実際、実害なんかはこっちに来ていないので。」



 現在、体育祭に向けた話し合い、それも各校それぞれの生徒達の反応について、両校を代表して俺達は話し合っているのだが、どうやら、猫井会長からは一部の過激な人間についての心配されているようだ。


 しかし実際の所、これと言った実害はまだ確認されていないので……、俺の言葉もあながち間違いではないと思う。



 すると、それを聞いた猫井会長、ひいては三葉先輩を除いた皆が苦笑気味でこちらを見ており、声に出してはいないが、皆の『そうじゃないでしょ……。』の心の声が、今にも聞こえてきそうな様子である。


 そして案の定、猫井会長は「そうじゃないんだよねぇ……。」と呟き、こほんと咳払いを一つしてから口を開く。



「あー、まあ……、相太くんが何も無いって言うならそれでいいんだよ?ただアタシの思っていた反応と違って、ちょっと拍子抜けしちゃったってだけで、意外と変化がないんだなって……、そう思っただけだからね。

 まあ、とりあえずはこれからも二人で頑張れるように、こっちからも出来るだけサポートはするつもりだよ。」



 猫井会長は元の穏やかな笑みを浮かべると、今後も俺と三葉先輩の継続的なサポートを約束してくれる。


 ……まあ、正直サポートと言っても、猫井会長を含め何かして貰いたい事などは、今の所は特に何もないのだが。



 すると、そこまで相槌ばかりであまり発言をしてなかった女の子ーー生徒会副会長である橘 未来たちばな みくさんがそっと口を開く。



「うーん?カレシくんは……、あんまり、ミク達のサポートは歓迎じゃないかんじ〜?環ちゃんと私達のサポートだからぁ、安心と安全の信頼保証なんだよ〜?

 あっ!でも〜カレシくんはミク達のお節介はイヤなかんじなのかなぁ?ミツバちゃんもそんなかんじぃ?」


「い、いや……。別にそういう訳じゃないけど……。その……、わざわざ猫井会長達の手を借りるのは申し訳ないって思って。

 だから、それがお節介だとかは別に思わないけど……、今の所は大丈夫かな?」



 俺はミクさんに、猫井会長からの申し出を微妙な気持ちで受け取っていた事を悟られてしまい、それに動揺した俺は、やんわりとその申し出を断ろうとそのように言って……。


 そして、それを口にしてしまってから、俺は自分の発言を少し後悔した。



「ーーそ、そう……?カレシくんにはミクは感じかな?

 う、うん……。そうだよね〜。やっぱりサポートなら、おね……、巴ちゃんがいるからぁ……、べ、別に大丈夫だよね〜。

 じゃあミクは……、巴ちゃんの指示を待つね〜!……うん、変な事を言ってごめんね〜。カレシくん。」


「えっ?あ、ああ……、うん!?別にミクさんの助けが何にも必要ないって訳じゃ無いけど、い、今はまだ大丈夫って感じなんだ。で、でも!ミクさんが必要ないとか……、全然そんな事じゃないんだ!

 だから……、ごめん。また、今度に。ミクさんの力が必要な時に……、俺の方からミクさんに声を掛けさせて貰うよ。」



 俺はそう言うと、少しだけその表情に陰りを見せたミクさんの事をフォローしつつ、彼女の力が必要になるタイミングでその力を借りたい事をミクさんに伝える。


 なぜ、ミクさんが急に後ろ向きになり、『ミクは必要ない』と自ら発言したのか……、その真意は正直今は分からない。


 だけどその発言をした際、一瞬だけ固まった後に見せたミクさんのその自嘲的な笑みに、言葉には出来ない……、そんな不思議な違和感をそこから感じ取ったのだった。



 そして、俺のフォロー含んだその言葉に、ミクさんは少しだけ微笑んだが、特にそれ以上は何も言う事はなかった。


 その後、俺がミクさんに話し掛けようとしたタイミングで、運悪く犬神さんがこちらに話を振ってきた為、それ以上ミクさんに話し掛ける事は出来なかった。



 ーー結局、そのままどんどんと話し合いが進んで行き、もうすぐ話し合いが終わるという頃には、ミクさん・巴さんのどちらも何事も無かったかのように落ち着きを取り戻した為、今日の話し合いは無事?終える事が出来たのであった……。




 ・

 ・・

 ・・・

 ・・

 ・




 ーーー???『生徒会室』ーーー


「……うーん。あんまり、今回のアピールには響かなかったのかな?

 あの子が初めて近しいというか……、生まれて初めての恋人を作ったって聞いたから。ちょっとちょっかいを掛けようと思ったのに、案外すぐにパッと別れちゃうんだもん。

 そんなの……、どんな男の子か気になっちゃうよね?でも肝心のあの子がそんな淡白な反応じゃあ……、ねっ?」



 『第1女学院』の生徒会の隣にある会議室。


 そこでは、ついさっきまで今年度の体育祭の実行に向けた話し合いが行われており、途中何度かの脱線や緊張が有りながらも……、何とか大方の配役、それと準備に際しての注意点などをお互いに話し合う事が出来た。


 そして、明日からは本格的に開催に向けて両校ともに動き出す事を確認し、あちらの代表生徒(とは言っても、その内の二人はただの実行委員に過ぎないのだが……。)を見送ってから、アタシ、猫井 環ねこい たまきは一人ここの会議室に居残っていたのだ。



 それで、今日はにわざわざ話を振って、あの子の事をーー麗奈がどんな反応を示して、どんな事を発言したのかを知りたくて、偽装交際に対してどのような反応があったのかをやんわり彼に尋ねてみたのだけど……、結果はたった今アタシが呟いた通り。


 アタシが思っていた反応とは違い、あんまりあの子からは、劇的な反応などは引き出せなかったみたいだ。



「(うーん、あの子の事だから……、変に自分の中で彼との関係を型にはめようとして、色々と間違った対応をしただけって、そう思ってたんだけど……。ホントに彼の事を嫌になっただけ…なのかな?)」



 アタシの知る限り、高校に上がってもあの子は、自分から他人を寄せ付けたり、変に人には近づいたりはしない性格で、基本的に他人の事をほとんど信用したりしない。


 そんなあの子が信用、それどころかもっと深い関係になるまで心を許したというのは、ハッキリ言って異常な事だし、余程あの子はその彼に心酔と言っていい程に依存しているのかと……、アタシはそう思っていたのだ。


 そして、そんな彼と別れてすぐに、まだ感情の整理もつかないようなこのタイミングでの、突然の『相太くんと三葉さん』の偽装恋人関係のセッティング。


 流石のそれには、一度でも心を許したあの子からして、何かしらの面白い反応を引き出せるだろうと……、そのようにアタシは考えていたのに、結果はこれだ。



 これと言った過剰な反応は見せていないどころか、そもそも、彼の前に現れた事さえ少なく、一緒にあの子と昼ごはんを食べたという話も聞いたが、それもあの子が自分から直接彼を誘った訳ではないみたいだ。



「……なんだ。やっぱり全然変わってないじゃないか。麗奈は結局、自分が……、自分の事が一番可愛いだけ。自分の気持ちも彼の気遣いも全部全部、それを受け取るだけで何も返さない、ただ与えられているだけ……。

 ーーそんな紛い物、周りの環境から与えられただけのそんなに、一体何の意味があるんだい?」



 そう呟く言葉は、それこそ言っても仕方のない、意味のないもので、アタシはため息一つ吐いて、気持ちをスッと切り替える。


 とりあえず、今の所はあの子からこれと言った何かしらの反応が無かったとしても、この体育祭が終わる頃までには何か……、もしかすると面白い事が起きるかもしれない。


 そうすれば少しは……、いつも逃げてばかりのホントはあの子でも、何かしらの行動を起こすのかもしれない。



「まっ♪それもこれも……、全部あの子次第だからね?なるようにしかならないし、それでもダメなら……、まっ!でもまた考えるだけかな?

 ふふふ……、次はあの子にどんなアプローチを仕掛けようか?」



 まあ、何はともあれ今は目の前の体育祭の準備や彼らの応援の方が優先だ。これまでの経緯はともかく、彼らをアタシの都合で面倒に巻き込んでしまったという事には変わりがないのだから……。


 それに……、あの子に揺さぶりを掛けるのは、きっともう少し後からであっても遅過ぎる事にはならないだろう。



 ーーそうして、その後、最終下校時刻を告げる鐘の音が鳴り響き、アタシは校内に残る最後の生徒として足早に校門を出る。


 そして、くるりと振り返って見上げた校舎の中央には、一際大きく目立っている1つの巨大な時計のモニュメントがーー



「(ねぇ…麗奈。一度でも進み出した時間は、キミが立ち止まったとしても……、決して止まってくれないんだよ?

 それでもキミは……、そのまま一人、そこでを待ち続けるのかな?)」



 ーー完全下校時間を告げるチャイムの音と共に、その大きな針をゆっくりとではあるが一歩、また一歩と進ませ続ける。


 当たり前に過ぎて行くこの時間をこちらに知らせるように、そしていつか訪れる終わりをそっと伝えるようにして……。

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