(編集済み)それぞれの思惑と合同開催『その決定の行き着く先は』

 

「単刀直入に……。相太くん、アタシと付き合って貰えないかな?」


「……はい?付き合って……?えっ……?」



 ーーこれは一体何の冗談なんだろうか?


 俺はそう思わざるを得ないようなこの状況に心底驚き、それ以上何も言えずにいて思わずピシリと固まってしまっていた。



 ーー猫井会長が付き合う?……誰と?もしかして俺となのか……?


 ていうかなんでだ?なぜ、今それを……?



 俺は本当に訳がわからず混乱してしまったが、何とか焦る気持ちを飲み込んで猫井会長が言った言葉に対する反応を返す。



「え、えーっと……。付き合うっていうのはその……。まさか……男と女の親密な関係。交際関係という意味で言っています?」」


「うん。そうだね。アタシと男女交際の意味で付き合って貰えないかなって……。相太くん的には……、どうかな?」



 そう言って猫井会長は初対面で俺に見せていたニコニコとした笑顔で、そのようなお願いというか……、あまりにも衝撃的過ぎる告白を俺に告げてくる。



 何かの言い間違いなのではないか?とそんな残り僅かの可能性にかけて、猫井会長のその言葉、その真意について尋ねてみた訳であるが……、まさにそのままの意味らしい。


 どうやらホントにでの『付き合って』との発言だったらしい。



「(え……?マジで俺に告白してるのか?イヤイヤイヤ、まずそんな訳ないだろ……。

 普通に考えてタイミングがおかしいし、そもそもこの人と会ったのは今日が初めてのはずだ。それは間違いない……と思う。

 さっき、俺をここに呼んだ理由に含まれるお願いって言ってたし、恐らくこの告白も何か理由があっての事なんだろう……。)」



 まあ最初はその言葉自体に驚いてしまい、色々と取り乱してしまったが、何も言葉通りに猫井会長の告白を受け取る必要はない。


 どうせ、この告白には何らかのオチ、十中八九何か別の意味がそこには含まれているに違いないのだから……。



「あの……。一体何が目的なんですか?猫井会長。流石にこのタイミングで言われても反応に困るだけだし、まともに受け取る方が無理なんですが……。」


「えー。酷いなぁ相太くん。アタシの人生初めての告白を疑ってかかるなんて。アタシだってちょっとは傷つくかもしれないよ?

 ふふ……。まあ、そうだよね。相太くんも疑問だと思うし、少しだけ説明をするね。今さっき告白した……、相太くんにアタシと付き合って貰いたい訳について。」


「はい。お願いします。猫井会長。」



 やはり、猫井会長は何か理由があって俺に告白していたようで、その理由についてもちゃんと説明してくれるようだ。


 他の人達に目を向けると、皆真剣な眼差しで猫井会長の説明をジッと待っている。



「じゃあこれから説明する訳だけど、これを話すにあたって、あらかじめ注意して貰いたい事があるんだよね。その説明というか、こちらからの提案だね。それについて、もしそれに合意しようとしまいと……、そのどちらにせよ、提案の内容についてだけは外部に口外しないで貰いたいんだ。

 これは教職員や生徒には勿論の事なんだけど、そちらの生徒会役員。あと……、なんかにも言わないで貰いたいんだよ。

 それが約束出来るのであれば、今からアタシの話す提案を聞いて貰いたいかな?」



 流石に2回目という事もあって、猫井会長の醸し出すどことなく冷たく感じる雰囲気。それに対して、俺を含め、三葉先輩と高木委員長の2人とも呑まれる事はなかった。


 まあそれとは別にして、こちらもシャキッと少しだけ緊張した空気になったのは間違いないのだが……、そんな中、高木委員長だけは少し不安気な表情を浮かべて声を上げる。



「ですが……、そのような体育祭の開催に携わる大事な内容について、私達だけが伺うような事をしても大丈夫なのでしょうか?

 同意するかどうかは別としても、その提案をこちらで話す事が出来ないなんて……。」



 と、そんな戸惑いの声を漏らし、俺と三葉先輩に「どうしましょうか?」と尋ねる。


 その瞳からは高木委員長の不安と葛藤。そのどちらをも容易に伺う事が出来た。



 勿論俺もそれを聞いて「それは……、どうなんだ?」と一瞬考えてしまったが、流石の猫井会長なだけあり、そこら辺も抜け目がないようで更なる提案をこちらに続ける。



「ああ。勿論それとは別に表で話しても大丈夫な、しっかりとした提案の方のも用意しているよ?

 これは合同開催の話が出た段階でこっちでは言われてた事だし、恐らくそちらでも注意喚起はあると思うけど……、要は『男の子は女の子が怖がるような事は止めてね?』って事。体育祭実行委員が率先して、注意喚起を呼び掛けて欲しいって事を提案したんだよ。

 あとは、体育祭の開催場所。それをこちらで指定させて貰って、男子が絶対に入れないスペースを作って貰うって事かな。中には男性恐怖症の生徒も少ない数だけどいるしね。

 ーーっね?これなら裏の提案を話さなくても、しっかりそっちでも提案についての報告が出来るでしょ?じゃあ、こういった感じなんだけど……、どうかな?高木体育祭実行委員長?それに相太くんと三葉さん?」



 完全にこちらの不安要素を想定済みで、ちゃんとこちら側でも報告できるような提案もしっかりと用意していたようである。


 確かにこれは『第一女学院』側でも話し合われていたようで、巴さんも未来さんも声には出さず、うんうんと首を縦に振っている。



「(これは完全にあっちが主導権を握ってるって感じか……。恐らくこの約束にしても、Yes以外の選択肢は存在しないって感じだし。何よりここまで会長の読み通りとなると、こちらじゃ言われるがままになりそうだ。

 しかもだ。ここで俺たちが下手にNoなんて言うと「じゃあ、合同開催止めよっか?」なんて、この人なら本気で言いそうだし……。

 実際にそう言えば、それが出来てしまう立場の人だというのも事実だからな。)」



 頭の痛くなるような話だが、もしかすると、ここまで全ての流れが猫井会長の予想の範囲内なのではないだろうか?


 何が目的なのかよく分からないが、猫井会長は俺に告白?のような不思議な提案を裏でして、実際にそれを実現しようとしている。


 それもこちらがどのようにそれに反応し、どう切り返してくるか?という、こちらの反応を予想して、それに対応する対応を事前に用意した状態で……だ。



 恐らくこの後、会長の約束にこちらが同意し、その後の提案もこちら側は受けなければならないような……、そんな状況になる事が予想されるが、こちらにはそれを拒否する事もその用意もない。


 しかし、それとは別に俺にはこの話を断れない理由が二つある。


 1つは合同開催という、初の二校共同開催の一大イベントを台無しには出来ないという理由で、そしてもう1つは俺がーー



「はい。猫井会長の提案を他言しない事を約束します。

 たしかに、その話をこちら側で話せないというのは気が引けますが、それがそちらのであるという場合であれば話が別です。

 内容にもよりますが、とりあえず俺は話を聞いて判断したいと思います。俺としてもこの体育祭をちゃんと成功させたいですしね。」



 俺はあくまでこの発言が俺一人の意見であることを強調しつつ、猫井会長からの提案を他では話さない事を約束する。


 勿論、先輩方にも話を聞いた方がいい事はちゃんと分かっているのだが……、2人に俺の願望を押し付けてはならないだろう。



 そのため俺は、このように率先して自身の意見を先に述べた訳であるが、それに高木さんがすぐ反応をして口を開く。



「当の本人である相川くんがそう言っているのであれば、私も同意したいとは思うのですが、あの……、三葉さんはどのようにお考えですか?私としては相川くんが関係している分、慎重に検討しなければならないとは思いますが……、ここまでのお話を聞きましてどうお考えですか?あの……、三葉さん?」



 やはり高木委員長は不安の色が濃いらしく、猫井会長の提案に同意しあぐねて、三葉先輩に意見を聞こうとしていたのだが……。


 どうしたのだろう?三葉先輩はピシリと固まったままで、全く反応を示さない。



 俺はそんな先輩の様子が気になり、トントンと肩に軽く触れ、「どうしました?先輩?三葉先輩?」と、軽く揺さぶりながら尋ねてみると、先輩は俯きながら何かを呟く。



「ーーめです。……そんなの。」


「はい?ど、どうしましたか?先輩?ちょっと聞き取りづらくて…何と言ったのか……。

 それに何だか顔が少し怖いですよ?よ、よくわかりませんが……、とにかく少し落ち着いてください!」


「こ、怖くないです!少し考え事していただけで……。と、とにかく!だめ!だめなのです!そんなの……、相太くんがお付き合いするなんて、私は絶対に認めませんよ!」



 俺が肩を叩いた事で我に帰った先輩は、少しだけ眉を寄せて怖い顔になったかと思うと、「だめだめ!だめなのです!」と言い、まるで駄々っ子のような、そんなイヤイヤを突然繰り返している。


 流石に三葉先輩のその反応には周りの面々も戸惑いを隠せないのか、俺以外の高木委員長は勿論、猫井会長や巴さん、未来さんまでもがその様子にはポカンとした様子だ。



 俺はだめだめと先輩は言っているが、そんなに裏の提案はダメなものだろうか?と思い、「そこまでダメな提案でしょうか?」と直接先輩に尋ねてみた所……。



「はい。それはだめです。相太くんと猫井さんがお付き合いするなんて……絶対に!

 勿論、私が嫌だから……、それもあるにはあるんですけど……。でも、やっぱり私はだめだと思います!はい!」



 何だかよく分からない、猫井会長と俺がお付き合い(仮)をするのが嫌だという理由で、先輩はだめだめと言っているみたいだ。


 その理由が何か嫌だからというのは、何だかふわっとした理由で少しだけ可愛らしく思えるのだが……、今は時と場所が悪い。



「(う、うーん……。今この状況でそう言われても……。ここは何とか先輩も説得してこの提案に賛同してもらわなければ……。)」



 そう考えた俺は「ひとまず提案だけは聞いて、そこからみんなで考えてみませんか?」と、先輩に聞いてみようとした……、まさにそのタイミングで、それまでずっと黙っていた猫井会長がそっと口を開いた。



「へぇ?アタシと相太くんがお付き合いするのはだめなんだ?確か第1高校で特に美人で有名って言う大岡三葉さん……だっけ?

 ここに一緒に来たという事も正直驚いたけど……、それ以上に面白い事を言うんだね?ね?まあ、この際提案の事は一旦置いておくとして……。もし、アタシと相太くんが付き合わないなら体育祭の合同開催を行わないって、アタシが言ったとしたら……、大岡さん、いや……三葉さんはどうするのかな?

 もしそうなると……、三葉さんのせいで一緒に出来ないって事になるんだけど?」



 猫井会長は獲物を見つけた猫のような鋭い目で三葉先輩の方を見て、その発言について厳しい言葉を使い詰問する。


 言っている話自体はめちゃくちゃな内容なのだが、提案の内容を先輩1人が拒否しているというのは事実であり、それを理由に開催自体を断られてしまう可能性は大いにある。


 なぜ俺と付き合うというのが合同開催の条件となっているのかは、まだ話を聞いていないため不明なのだが……、まあ、あっちはあっちなりの理由が何かあるのだろう。



 そんな物思いにふけっているのも束の間、意外な事に先輩も負けずと言い返している。



「そ、それは確かに困りますが……。で、でも!相太くんとのお付き合いが必要な合同開催なんて、絶対におかしいと思います!

 それに!猫井さんはさっき『この内容に合意しようとしまいと……、提案のその内容については他言しないで欲しい。』って言いましたよね?それって猫井会長と相太くんがお付き合いをする事が今回体育祭を合同で開催するという事ですよね?

 ……だって、もしそれが絶対条件であると言うなら『提案に合意しようとしまいと』なんて言い方普通はしませんから。

 ですから!私は猫井会長からの裏の提案を他言しないという事、それにつきましては……、私もそれをここで約束する事が出来ます。しかし、『猫井さんと相太くんがお付き合いする事』が絶対条件でないのであれば、その他の代案、それに代わる条件などを両陣営で考えてはいかがでしょうか?と、私は猫井さんに提案したいと思います!」



 俺を含め、猫井会長以外の全員を驚かすような、そんな意表を突くような発言を先輩は猫井会長に言い返している。


 正直ここまでしっかり先輩が反論し、あまつさえ先輩の方から逆に猫井会長に提案するとは思っていなかったので、俺は思わず先輩の事を二度見してしまう。



「み、三葉先輩……?」


「大丈夫です相太くん。ここは私にお任せください。ちゃんと猫井さんとのお付き合いは私から断っておきますから……。少しだけ、そう……少しだけ待っていて下さいね?」



 思わず呟いた俺に、先輩はそう言って捲し立てると、最早俺の保護者のような口調で猫井会長との交際を断ると豪語している。


 あくまで俺の事を考えての行動なので、それを注意したり、窘めたりするつもりなんて事は別にしないのだが……、それ以上に不安なのは、先輩の話を聞いても表情1つ変えない猫井会長の方が正直気になるのだ。


 当初、三葉先輩の言葉を聞いた猫井会長は直ぐには何の反応も示さなかったが、先輩が俺に『猫井さんとのお付き合いは私から断っておきますから』と言った辺りで、なぜかニヤっと口角を上げ、どこか含みのある笑みを浮かべた……ような気がした?こちらからはハッキリと見えなかったのだが……。



 すると、改めて三葉先輩の方を向き直った猫井会長は、初めに見たような……、軽く笑みを浮かべた余裕ある表情に戻っており、その表情とは裏腹に「いやぁ……、これは困ったね。」と、そのように呟いている。



「まあ、一旦落ち着いてね?三葉さん。それで話を戻させて貰うと、三葉さんの言いたい事は大体分かったよ。

 要は相太くんとアタシが付き合うっていう事、その事が三葉さんは納得出来ないんだよね?それでアタシ達と一緒に代案を考えないか?と提案をしている……、そうだよね?」


「はい。私は『猫井さんと相太くんがお付き合いする』という事が納得出来ないので、代案を考えて頂けないかと思っています。」


「だよね!じゃあ、今からアタシが提案する代案の方ならどうかな?あっ……、勿論この提案の方も他言はしないでね?そちらの体育祭実行委員長さんもそこは大丈夫かな?あっ、大丈夫ね。それは良かったよ。

 ……それでアタシが代案として、三葉さんと相太くんに提案したいのは、二人がアタシに代わってーー」



 猫井会長は俺を含めた、こちら側の人間だけでなく、第1女学院側の副会長二人と犬神さんをも驚かすような……、そんな驚きの代案を俺達に話してくれるのだった。




 ・

 ・・

 ・・・

 ・・

 ・




「私達は本当にこれで良かったのでしょうか?結果的には、両校合同での体育祭の開催を『第1女学院』の生徒会の方々にも合意してもらい、反対の方々の説得もして頂ける運びにはなりましたけど……。ここまで三葉さんと相川くんへ頼り切りというのは……、本当にそれで良いのでしょうか……?」



 今は第1女学院からの帰り道。それぞれ今日の出来事をボンヤリと思い出しながら、ちょうど信号待っていたタイミングで、三葉先輩の隣を歩いていた高木委員長が呟いた。



 俺はその呟きに何も言えず、ぐっと押し黙ってしまったが……、こればかりは俺も少しだけ今後の展開について心配してしまう。



「(今回の話し合い……。何もかもが、猫井会長の手のひらの上といった感じだったけど……、高木委員長の言う通り、本当にこれで良かったんだろうか?)」



 今回の合同開催にあたって、猫井会長から提案された裏の条件。その条件を最終的には合意した事で今回の決定に至った訳であるのだが……、ホントにこれで良かったのだろうか?


 俺は「本当に良かったんでしょうか?」とは声に出さず、確認の意味を込めて三葉先輩の方に目を向けて、その様子を伺ってみた。



「あの……三葉先輩……?」


「……これは夢なのでしょうか?……私が仮にとは言え……お付き合い?それもこんないきなり?……や、やっぱりこれは夢?」



 俺の言葉も全く耳に入っていない様子でぽそぽそと何かを呟き、フニャッとした笑みを浮かべる三葉先輩がそこにいた。


 側から見ればかなり危ない人のようにも見えるが、先輩がかなりの美人で変な人に見えないという事とその隣に俺と高木委員長が普通に並んでいる事もあって、あまり変な注目は集めていないというのが唯一の救いだ。


 普段しっかりしている先輩からは到底考えられないような……、そんな緩みっぷりだ。



 そして俺と高木委員長は、そんな風にぽやぽやな先輩を見ていると、何だか深く考えて憂慮しているのがバカらしくなってくる。



「あー。まあ……、何とかなるでしょう。今回の体育祭。俺は勿論の事、三葉先輩もこう言ってますから。を全然負担だとは考えていません。だから……、大丈夫です!

 高木委員長には最高の体育祭だったとみんなから言って貰える事を考えて、これからも頑張ってもらいたいです!だって……、体育祭はまだまだこれからなんですからね!」


「はい!そうですね!色々心配していた私がちょっと考え過ぎだったみたいです。いくら仮とは言え「無理やりお付き合いをさせるなんて……。」と、思っていたのですが……。どうやらそれは私の勘違いだったみたいです。

 だと言うのであれば……、まあ、こんな事でもアリなのかな?って、そう思っちゃいますね♪」



 結局最後は二人笑顔になり、この後の体育祭に向けて心意気を新しくして、その一歩を踏み出すのだった。



 こうして、俺を巻き込んだ異例の体育祭合同開催は両校の妥協の元に成立し、それぞれの思惑を包み隠したまま、その開催に向けて進み出すのであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る