(編集済み)予想外の展開『嫌な予感は現実に』

 

「では、これより……、今年度の体育祭実行委員会の活動を開始します。実行委員の皆さん、そして生徒会役員と教職員の先生方、皆さんよろしくお願いします。

 それとはじめに、私は体育祭実行委員長、2年D組の高木 優菜たかぎ ゆうなと言います。これから体育祭に向け準備・運営などに携わる者として、皆一丸となって頑張っていきましょう。」



 実行委員会の始まりと同時に行われた高木委員長からの冒頭の挨拶。


 先程までのワイワイと騒がしかった生徒達の声は、高木委員長の登壇とともに徐々に小さく、そして静まりかえっていき……、委員長がマイクを持って話し始める頃には誰1人として話す者などいなくなっていた。


 これだけしっかりとした挨拶をして多方面に配慮出来るからこそ、彼女が体育祭実行委員長に選ばれたのだという事が理解出来る。


 また周りの生徒も皆、高木委員長に好意的な視線を向けている事からもそれが伺える。



 そのように俺が高木委員長についてアレコレと考えを巡らせている内に、いつの間にかその説明が『他校との交流』についての項目に入ってしまっていた。



「ーーというのが、本年度の体育祭実行委員会の活動内容となっております。この冊子を読んで皆さん理解しているとは思いますが、本年度は他校と合同での体育祭開催となっております。なので他校の生徒との協力・運営によって本体育祭を盛り上げていきますので、お互い積極的な交流を心掛けて下さい。

 つきましては、本年度我が校と合同で体育祭を開催して頂く他校は、我が校と同じ第1地区の女子校である『第1女学院』です。

 共学である本校とは違い『第1女学院』は女子校ではありますが、お互い男女の壁を作らず、皆協力をして、体育祭の運営・開催に尽力して下さい。」



 高木委員長は同地区内にある女子校『第1女学院』との体育祭合同開催を俺達に伝え、その協力を皆に呼びかける。


 あまりにもサラッと、そして特に顔色を変える事なく委員長が第1女学院の名前を挙げたので、皆もそれに対してあまり反応が無かったのだが……、そんな委員長の説明の中、俺は内心とても動揺していた。



「(えぇ!?合同体育祭の相手校って、まさかの『一女いちじょ』と一緒にやるのか!?近い地区にある『ニ校』か『三校』との合同になるのかと思いきや一女と合同になるとは……。

 おそらく、高校の体育祭だから大丈夫だとは思うけど……、中等部の生徒会が関わるなんて事は……ないよね?)」



 冊子の最後には、『一女』と合同で行うにあたり、両生徒会や教員などの協力によって体育祭を運営・開催すると記載されているのだが、それが高校の生徒会のみで行われるとは一文字も書いていない。


 とはいえ高校の体育祭なので、それに中等部が関わるというのは少々考え辛い。


 しかし、今回の体育祭が過去最大規模のものとなるとの予測なので、中等部の手伝いが絶対にないとは言い切れないのだ。



 そして何故だろうか……。何故だか俺の脳裏には、俺へのイタズラが成功したかのように笑顔を向けるアイツの顔がちらつく。


 一緒になるかもしれない事が嫌という訳ではないのだが、なんだか少し気恥ずかしい。


 家以外でのアイツを見るのもそうだし、家以外での行動を見られるのも恥ずかしいのだ。



「(ま、まあ、何もあっちの中等部が今回の体育祭に関わってくる事が決まった訳じゃないし……大丈夫だよな?)」



 などと、俺がそんな謎の予感にも似た変な予測を立てて辟易としていると……。



「どうしました?相太くん。優菜ゆうなちゃんの説明で何か分からない事でもありましたか?

 今回の体育祭は、予想外にも第1女学院との合同開催という話をしていましたが……、もしかして、相太くんは第1女学院に誰か知り合いでもいるのですか?」



 三葉先輩は黙って資料を眺めていた俺の顔を覗き込み、その表情から色々と勘付いたのかそのように尋ねてくる。


 先程変に心配された時も思ったのだが、先輩はよく俺の事を見ている。


 何気ない表情の変化などにも先輩は敏感に反応し、俺に色々と声を掛けてくれる。


 それらの心配は少しだけ過保護気味な気もするのだが、それが先輩の優しい所であり、アレコレ空回りしている所なんかは微笑ましかったりなんかする。



 しかしながら、顔を見るだけでよくそこまで予測出来るものだと思いながらも、俺は素直に先輩の言葉に頷く。



「分からない事なんかは特にないんですが、一応知り合いと言うか俺の妹が『一女』にはいますね。あとその妹の友達数人が顔見知りレベルの知り合いというだけで……。

 ……と言っても、妹の雫は中学3年生なので、今回の体育祭の準備に関係ないと言えばそうなんですけどね?」



 俺は自身の考えていた可能性の話を元に先輩にそのように答える。


 何故だか変な予感がして、雫の顔が脳裏にちらつくが、まあそれに関しては先輩に伝えなくても大丈夫だろう。


 いずれにせよ、雫と一緒に行動する事はあり得ない事なのだから……。



 すると、それを聞いた先輩は何故か動揺した様子でソワソワと落ち着かない。



「い、妹さん……ですか?あの屋上のお話で聞いていたLINEを相太くんに送ってきてくれたという……あの?

 ど、どうしましょう!私、相太くんが別れて早々に近づいて来た悪い虫として思われないでしょうか!?いえ!只でさえお兄さん想いの優しい妹さんですから……絶対そのように思われてしまいます!

 もしそんな事になって、妹さんから嫌われてしまい、もう相太くんに近寄るななんて言われてしまった日には……。ま、まずいです!今更相太くんと距離を取るなんてそんな事……、私絶対に出来そうもありません!」



 先輩は俺にそう言うと、『どうしましょう!』といった様子であたふたしだす。


 そのあわあわして慌てる様子は見ていて大変可愛らしく、ずっと見ていたいようなものなのだが……、ただその場所が悪かった。



 ざわざわ……ざわざわ……。



 先輩のその声に反応してなのか、視聴覚室内にいた生徒達、それに今回は教師も含めて何かに動揺したように騒がしくなる。


 初めは小さかったそのざわめきは、いつの間にかドンドンと拡大していき、今では高木委員長が話すの一度止めてしまう程にまで大きくなってしまう。



 俺はそのざわめきが先輩の声に反応したもので、それが高木委員長の話を止めてしまったのだと思ってしまった。


 そして、流石にそれは色々とまずいと感じて、「落ち着いて下さい」と先輩に声を掛けようとしたのだがーーあれは誰だ?



「突然の来校申し訳ありません。私は『第1女学院』体育祭実行委員長の犬神 鈴華いぬがみ すずかと申します。恐れ入りますが『第1高校』の体育祭実行委員、そして生徒会の代表の方々はいらっしゃいますか?

 今年度の体育祭の開催に関して早くも問題が発生してしまって、その話し合いを今すぐにでも行う必要がありますので……。」



 入って早々にそのように切り出した女生徒、『第1女学院』の制服を纏った生徒が視聴覚室の前方に立っていたのを確認して、俺はそう先輩に声を掛ける事はなかった。


 そして俺が先輩の言葉でざわめいていたと思っていたそれは、実はその女生徒の突然の登場によるものだったらしい。



 とりあえず俺は、未だに動揺している先輩に「大丈夫です。先輩が悪い人ではない事は俺が知ってますから。」と伝えて落ち着いて貰い、今の状況を改めて確認する。



 ザワザワ……ザワザワ……。



 生徒達やそれを諌める立場にあるはずの先生まで、その女生徒の話にざわめいている。


 やはり皆一様に呟くのは、その女生徒が今し方話していた『早速起きた問題』とやらの憶測についてだった。



「(始まる前から起きた問題ってのが、何よりも不安すぎる所だよな……。普通だったら、この説明会が終わってから話し合いって形が一般的なのに、それすら待ってる時間が惜しい程の問題となると……、そもそもの合同開催についての問題とかか?)」



 これは軽い予想になるのだが、もしかすると女子校と共学の合同開催という点に問題があったのかもしれない。


 そもそも女子校同士の合同開催ならともかく、共学校と女子校での共同開催になっているのだ。それによって何かしらの不満や問題が起きたとしても、不思議ではないだろう。


 もしかすると、『第1女学院』の一部の生徒達が男子のいる共学との体育祭の合同開催について反対したのかもしれない。



 そのように、俺が『一女』の女生徒が話した問題について軽く予測を立てていた所、どうやら高木委員長との話が付いたらしい。



「視聴覚室にお集まりいただきました体育祭実行委員の皆さん。今回の体育祭運営に関わる諸問題について、『第1女学院』代表の犬神さんとこれから協議する必要がある事が確認されました。

 大変申し訳ありませんが、この協議をこれから本会場で行うため、本日の説明会はこれにて終了とさせていただきます。詳しい話はまた後日行う予定となりますので、各自の担任の教諭からの報告をお待ち下さい。

 本日は今季体育祭実行委員の説明会にご参加いただきありがとうございました。」



 高木委員長は俺達実行委員にそのように声を掛けて、突然の説明会の終了を伝える。


 生徒達からは不安そうな声があがるが、こればかりは仕方のない事だろう。



 それを確認した俺は、先輩に「じゃあ、帰りましょうか。」と声を掛けて、そのまま2人で視聴覚室をあとにしようとする。


 そして、俺と先輩が高木委員長と犬神さんの隣を通り過ぎ、そのまま視聴覚室を出ようとした……その時、二人の会話が聞こえる。



「……ではやはり、男子生徒対する不信感と言いますか、不安が一部の生徒から寄せられたという事ですか?

 それを解消出来ない事には、体育祭の共同開催が行えないと……そういう訳ですね?」


「はい……。そして問題なのが、それが我が高の生徒会メンバーからの反対表明なのです。

 会長は問題ないとの立場なのですが、副会長の両名が反対している次第でして……。それでこちらに、私が代表として話し合いをしに来たという訳なのです。

 それで、その……。突然変な事を伺うようで大変申し訳ないのですが、『1年の相川 相太くん』という方はおられますか?放課後まだ帰っていないようでしたら、彼と至急お話をしたい事がいくつかありまして。」



 と、何やら聞き捨てならない言葉を犬神さんが高木委員長に伝えていた。


 そしてそれを聞いた高木委員長も、流石にその言葉に疑問を抱いたようで……。



「1年の相川くん……ですか?どうして今その生徒が必要なのでしょうか?もしそれが私的な事情であればそのような場合では……。」



 高木委員長は至極真っ当な事を言い、少しだけ胡乱気な視線を犬神さんへと送る。


 しかしそれを聞いてもなお、犬神さんは恐らく?俺と話がしたいと続ける。



「いえ!実は、その『相川くん』が今回のお話に無関係という訳ではなくて……。その『相川くん』の協力無しには副会長両名の説得が困難となっているのです。

 ですから、校内放送で『1年の相川 相太くん』を呼び出して下さい。お願いします!」



 『一女』の体育祭実行委員長である犬神さんは、なおも高木委員長に頼み込む。


 その態度はとても冗談を言っているようではなく、至って真面目といった様子であり、俺が登場しなければ話が進まなさそうだ。



 俺はその様子に面倒事の予感をひしひしと感じながらも、出て行こうとしていた身体を両名の方に向き直して声を掛ける。



「……あの、お話とは何でしょうか?犬神体育祭実行委員長。恐らく俺がその『1年の相川』に当たる生徒だと思いますので、こちらから声を掛けさせて頂きました。」



 と、少しだけ余所行きの堅い話し方で、そのように自分から二人に話し掛ける。


 別に最後まで聞いてから声を掛けても良かったのだが、事は一刻を争う状況のようなので、こちらから声を掛けさせて貰った。



 すると、振り返った内の一人、犬神委員長は俺の顔を見るなり、こちらにバッと詰め寄って来て、至近距離から俺の顔を見上げる。



「あ、あなたが『1年の相川 相太くん』ですか!?あんまり顔は似てませんが、何処と無く雰囲気がに似ているような気がします!

 お願いします!今から私と一緒に『第1女学院』まで着いて来てくれませんか!?」



 すると、必死な顔の犬神委員長はそう言うと、バッと頭を下げて頼み込むのだった。


 それを見た俺が、慌てて犬神委員長に顔を上げて貰って、この話を慌てて了承したという事は言うまでもないだろう……。

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