(編集済み)思いがけない決定『運命の悪戯は起こるべくして起こる』

 

「じゃあ、HRはこれで終わりな。あぁ、そういや今ようやく思い出したけど……、お前達の中から放課後までに体育祭の実行委員を1人決めとけよ。なんか放課後に集まり?みたいなのが視聴覚室であるみたいだしな。

 あたしは……まあ、仕事があるから。クラス委員の西田と副委員の辻本、お前達が仕切って上手い感じでやっといてくれ。」



 HR後、朱音先生は俺達にそれだけを伝えると、もう用は済んだとばかりにスタスタと教室の出口に向かって歩いて行く。



 俺は職員室での一件の後、そのまま教室に向かい、先生の到着する少し前までに黒板の清掃と教壇の整頓を終わらせておいた。


 そして先生が到着し、朝のHRを始めた訳であるが……、いつも通りにテキトウ過ぎる。



「んじゃあ、お前ら。HRを始めるぞ〜。つっても……、特に何も無いけどな?お前達に伝える事とか話しておく事とかは。

 まあ、伝えとく事としては『そろそろ体育祭が近いから、変な怪我すんなよ』って体育教師が言ってた事くらいだ。あと、数学の山下が『宿題をちゃんと出すように1-Bの生徒には言っておいて下さい。』って言ってたな。お前らちゃんと出すものは出しとけよ。

 んー、あとは……、あれ?なんか隣のクラスのデカ女があたしに何か言ってたような?まぁ、いっか……。いつか思い出すだろ。」



 と、何ともテキトウな感じで朱音先生は俺達にそんな話を伝えてくる。


 ていうか何も無いと言いながら、ちゃんと他の教師から何か伝えられてるのかよ……。


 相変わらず、朱音先生はテキトウ過ぎる。



 俺は半分呆れながら朱音先生を見て、HRの行方を見守っているとーーバン!



「望月先生……。いつも言ってますが、もっとしっかりして下さい!分からなくても『まぁ、いっか』じゃないですよ!本当に!」


「ん?辻本……?あたしの聞き間違えか?あたしの事は『朱音ちゃん』だろ?いつも言ってるじゃないか?うん?

 それにあたしがだから、お前達がしっかりするし……、まあ、反面教師としてはいいじゃねーか。実際の教師だけに……。」



 朱音先生を嗜めるクラス副委員長の辻本 叶つじもと かなえに対して、先生は相変わらずといった様子で冗談混じりにそのように切り返していた。


 生徒に対してこのような態度を貫き続ける先生も先生なのだが……、こちらの辻本も辻本で少々お堅い所がある。


 真面目でキッチリしている事に定評のある辻本は、中学の時からのクラス副委員長でクラスの良心的な存在だ。


 このクラスは頭の悪い事で有名なクラスなのだが、辻本やその他数名の生徒はその枠には当てはまらない。



 そもそも辻本は上のクラスであるAクラスの方に、元々所属していた生徒だったのだ。


 しかし中学1年生の時からのAクラスの雰囲気、そして女子生徒の比率が高い事から起こるイジメ問題にうんざりした辻本は、中学2年生の際、本人からの希望によってBクラスの方に転籍してきた。


 なので辻本自身、頭が悪い事を理由にBクラスに所属している訳ではないので、このようにBクラスでは『朱音先生がテキトウな事を言って、それを真面目な辻本が正す。』という構図が日常的な光景となっているのだ。


 だからある意味この構図ように、朱音先生のテキトウな言動が原因で、図らずしてBクラスの注意力向上に一役買っているという『反面教師として上手く成立している状況』なのが……、何とも皮肉な話だ。


 しかし辻本の言う通り、先生の「まぁ、いっか。」で痛い目見るのはいつも俺達自身である訳なので……。



「何とか思い出して下さいよ!朱音先生!」


「朱音ちゃん!何とかその小さい頭を振り絞って!頑張って思い出して!」」


「また、校長から俺達だけ名指しで怒られるのは色々とヤバイっす……。」



 などと、Bクラス一同で朱音先生に何とか忘れてしまった『隣のAクラスの先生が言っていた重要な話』を思い出すように説得する。


 なぜ生徒の方が先生を必死で説得しているのかは分からないが、まぁそれが朱音先生なのでしょうがない……。


 他の先生がこの場でいれば、確実に怒られて最悪教師をクビになる程なのだが……、職員室での先生は決められた仕事をこなすが少しだらしない所がある程度の認識だ。


 だから、これに関してはもう……色々と諦める他ない。



 すると流石の先生も、クラス一同からそのように言われたのは気まずかったのか、俺達から目を逸らしながらゴニョゴニョと口を濁しつつ言い訳をし始める。



「そ、その……、なんだったかなぁ……?

 確か『体育祭がもうすぐですから、ーーを選んで貰って、望月先生のクラスの方でもーー』みたいな事を言ってたような?でも肝心の所が思い出せな……『キーンコーン・カーンコーン』……あっ、もうHR終わりだ。」



 と、ちょうどタイミングよく鳴ったチャイムに、我が意を得たりと先生は反応して、冒頭に述べた言葉を俺達に告げると、逃げるようにして先生は教室を後にした。


 体育祭の実行委員を決めるという、とても重要な事項を俺達に丸投げするといった、いらないオマケ付きで……。



 そして出て行った先生を見送った、問題を丸投げされた俺達はというと……。



「「「「「じゃあ、俺(私)達で決めよう(ましょう)か……。」」」」」



 クラス一同はそんな言葉を溜息混じりに言うと、クラス委員を中心に体育祭実行委員を選定するのだった……。


 もちろん、HR後の短時間では決まらず、放課後までに時間を見つけて話し合う事になったのだが、一体どうなる事やら……。




 ・

 ・・

 ・・・

 ・・

 ・




 ーーー昼休み終わり・10分前ーーー


「なん……だと……?」



 昼休みの終わり。三葉先輩、和葉ちゃんとの昼休みの楽しい食事時間を終えた俺は、眼前の黒板に表記されている『体育祭実行委員:相川 相太』との、俺にとって理解不能である文字列に呆然としてしまっていた……。


 そして呆然と黒板を眺める俺に、2人の男女、和樹と辻本が近づいて来て謝罪する。



「悪い……、相太。俺と辻本、他数人は止めたんだけど……、多数決的にどうしようもなかった。ホントすまない。」


「ごめんなさい。相川くん。私も『本人が帰ってこないまま決めるのは……。』って言ったのだけど、西田くん達は『どうせ多数決的に決まる!』って言って止まらなくて……。」



 和樹は俺の肩に手を置き、辻本はぺこりと頭を下げて、それらの謝罪の言葉を述べる。


 これは一体どういう事なんだ?と、俺が説明を求めると、和樹が端的に教えてくれる。



「なんか西田の奴が昼休み、ちょうどお前が大岡姉妹と出て行ったタイミングで、『体育祭の実行委員を決めちゃおう。』って言い出したんだよ。その話し合いの中で、『相川がいいんじゃないか?アイツ部活とか入ってないし、色々と顔が効く奴だし。』とか誰かが言い出して……。

 それで最終的には多数決になって、1番指名された相太に決まった訳なんだ。」



 和樹は自身が悪い訳ではないのに、とても申し訳なさそうな顔で再び謝罪してくる。


 そして、隣に立つ辻本も和樹の説明に頷き、「ごめんなさい」と言って、とても申し訳なさそうな表情である。



 俺は数秒間呆然としてしまっていたが、2人の言葉を聞いてハッと我に返った。



「あ、ああ……。2人が悪い訳じゃないから大丈夫。逆に声を上げてくれただけでも、感謝だし、謝って貰おうなんて思ってないよ。」



 俺は2人にそう述べ、顔を上げるよう促す。


 もちろんこれは俺の本心であり、2人に感謝しているのは本当だ。


 俺の代わりに声を上げてくれた。その事実だけでも、俺にはとても嬉しく感じられた。



 だがその話で1番の謎なのは、なぜ西田が昼休みにそんな話し合いを突然行ったのか?


 それが俺の中では1番の疑問であった。



 そうして、俺は次の授業終わりの小休憩。西田にその事について尋ねた所ーー



「悪い!相川!なんか生徒会の人から、昼休みまでに決めて欲しいって言われて……、続けて『生徒会としては、生徒会の手伝いとして馴染みのある相川くんはどうですか?』とも言われた結果、お前を指名する事になっちゃったんだ……。」



 と、俺に平謝りしつつ、西田は続けて。



「正直、お前が大岡美人姉妹と仲が良いのは俺たち男子一同、スゲー羨ましいとは思うけど……、でも!それへの当て付けでお前を指名した訳じゃないんだ!

 お前ならコミュ力もあるし、実行委員として申し分ないと思ったからみんな選んだんだ!けどお前がいなくて、異論も反論も唱える事も出来ない状況で全部決めちまった事は……本当に申し訳ない!」



 西田はそう言って深々と頭を下げる。


 その言葉からは、俺への申し訳なさと俺への期待の気持ちが感じられる。



 実際に、辻本や和樹が最終的には強引にでもこの話を止めようとしなかったのは、コイツの言った通り、クラスメイトから多くの推薦が俺にあったからなのだろう。


 生徒会とも……、まあ、仲良くしていたのは事実だし、俺の事を信頼してその名を上げたと言うのであれば、ある意味これは名誉な事なのかもしれない。



 俺はそう考える事で自身を納得させ、とりあえず西田の顔を上げさせる。


 そして俺は「最初は驚いたけど、そういう理由なら分かった。」と、西田に伝える。



「まあ、俺には時間があって、生徒会ともそれなりの仲があるのは事実だから……、この話、ちゃんと俺自身が納得した形で受ける事にする。確かに俺の居ない場所で色々と決まったのはちょっとアレだけど……。クラスのみんなが俺を推薦してくれるなら、何とか実行委員を頑張ってみるよ。」



 と、最後には西田を含め、俺を指名した生徒達をフォローする形で、体育祭実行委員の仕事を請け負う事にした。


 クラスの人達に悪気がなかった事は、西田との会話でも理解しているので、自然とみんなをフォローする言葉が口をついて出た。



 俺に期待して指名してくれた人がいる。


 その事実だけでも、頑張ってみる価値はあるんじゃないかと思う。


 例えそれが体育祭の一委員の仕事であっても、俺はその期待に応えていきたい。



 そうして俺は、クラスの人達から多くの推薦を得た事により、正式に体育祭実行委員になる事が決まった。


 その日の放課後から、早速メンバーに招集が掛かったという事で、授業が終わり次第、俺は視聴覚教室に向かったのだった……。



 ーーあっ!ちなみに放課後、先輩を迎えに行く約束は、急用が入ったから行けないってLINEで伝えておいた。


 すると、先輩からすぐ『分かりました。また後で会いましょう。』って文が送られてきたけど……、『また後で』ってなんだ……?

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