見えないバトン

「部長」

「なんだい、副部長」

「これは、なんですか」

 副部長は、頭よりも少し高い位置にあるものを指差した。

「暦だよ」

「こよみ」

「カレンダー」

「かれんだー」

 違う、そういうことを言いたいわけではない。そもそもこれは、副部長が家から持参したものだ。

 ふたつき毎にめくっていくタイプのカレンダー。今は一月の末近く――来週の火曜から試験が始まる――、その「睦月」の文字付近には、でかでかと「部長の時代」、その隣の「如月」付近には「ほてびの時代」と銘打たれていた。ほてびとは、副部長の筆名である。

「一月で引退して、二月からは副部長に部長を任せようと思って」

 三年ぶりの部長職。副部長につとまるだろうか。いや、できる。というより、副部長以外に適任が居ない。

 読者の皆様は、どこからその自信が来るのか不思議であろう。しかし、それが事実なのである。性格はともかく、文芸部の活動に二年勢で一番精力的に取り組んできたのは、副部長なのだから。

「というわけで、後は頼んだよ」

 部長から、見えないバトンが渡された気がした。


~おわり~

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