よくある話~部室にて~

遠山李衣

香は面白い

 香は面白い。本人は否定するけれど。彼女を知っているなら、百人が百人ともうなずくだろう。

 私は、そう信じている。

「香は面白い」

「うん、そうだね」

 今日も私は、部長に香の面白さを説く。彼女の面白さを知っている部長も、否定はしない。

「香より面白い人間、桜塚やっくん以外にいます?」

「でも、桜塚やっくんは、亡くなってるから、実質香は、世界一面白いってことになるね」

 部長は甘い。桜塚やっくんは冥界一面白いから、まだまだ香と勝負できるはずだ。

「桜塚やっくんへの、その厚い信頼はなんなんだ。いや、彼も面白いけどね」

 まちゃまちゃより、島田夫妻より、桜塚やっくんと香は面白い。大好きだ。


香は面白い。本人は否定するけれど。彼女を知っているなら、百人が百人ともうなずくだろう。

 私は、そう信じている。

「部長。私、香の迷言集を作ってるんですよ」

 スマホのメモ帳に書き溜めた、香の迷言たちを部長に見せる。【流しまして】【三百円のレシート】【パンがパーン!】……。他にもいろい

ろ並んでいる。入学したての頃に書いた【サーティワンとタピオカ】は、今では意味が分からないくらい謎ワードだ。

「ほう、奇遇だな。俺もお前の名言集を作っているよ」

 部長も同じように、スマホのメモ帳に書き溜めた、私の名言たちを私に見せる。【でも、そこで満足しちゃ終わりでしょう→願望を多く挙

げ「求めすぎでは?」と言われた際の返し】

 ……なるほど、解説もついていて、わかりやすい名言集だ。私も、香の迷言の中で意味を覚えているものは、メモしておこう。「サーティ

ワンとタピオカ」みたいなことにならないように。

「部長」

「なんだい、副部長」

 香は面白い。本人は否定するけれど。彼女を知っているなら、百人が百人ともうなずくだろう。

 私は、そう信じている。



そんな部長とのやり取りを忘れた頃、香からあるメッセージが届いた。

【NОN STYLEが、好きです】


――終わり――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る