0-2
そんなわけで、大学二年も、はや後半。
ここ二ヶ月程は、サークルはおろか、学校からも足が遠退いていた。
ほとんど自室に引き籠り、外に出る時と言えば食糧調達へ行く時くらいだ。
近頃のコンビニ弁当は、特に高くつく。誰か作ってくれる人が居たなら……。…………ちらついた愚考を、即時、振り払う。
そう言えば、今は夕飯どきだ。もう少し時間をずらして、スーパーの半額惣菜を狙うのがベストだろう。
かくして要領よく食糧を得た俺は、そそくさと黄昏時の道を歩き、
「お前、
男の、陰鬱な声にびくりとさせられた。
馴染みの無い声だが、そいつは確かに俺の名前を呼んだ。
偶然……と思いたかったが、その可能性は極めて低いだろう。
「タスク、
くそっ、フルネームで呼んできやがった。これで逃げ道は無い。俺は意を決して、その男に向き直った。
「誰だ――」
宵闇に紛れそうな男の顔が、目に入った時。俺は、絶句した。
まさか。どうしてこの人が、ここに?
「ユーマ、君」
つい、口だけが当時に戻って、彼を呼んでしまった。
ほっそりとして、整った顔立の男。
それは昔、スポーツ少年団でよく可愛がってくれた先輩。ユーマ君だった。
ちなみに、先輩に君付けなのも、彼の方から持ち掛けてきた事だった。
某男性アイドル事務所のノリだろう。
中学の没落からしばらく以来、会って無かったが、こんな所で再会するとは。
「やっぱりタスクか。久しぶりだな」
「ぇ、ぇぇ、まぁ」
不精ひげを生やし、元々肉の薄い頬がこけた姿は、やつれて見えた。彼なりの苦労があったのだろう。
「お前、この辺に住んでんの?」
しかし俺は、彼の変わった様よりも、もっと他の懸念に気を揉んでいた。
何で地元の知り合いと、こんな所で会うんだ。しかも、よりにもよって、この男に。
この男と関り合いになっていると知れれば、今のなけなしの平和すらも危うくなる。
「…………ええ、まあ。この近くのアパートに。大学、こっちなんで」
俺の返事を、何も言わず根気強く待ちやがるので、素直に喋ってしまった。
頼む、これ以上、誰も俺に構わないでくれ。
静かに暮らさせてくれ。他には何も望まないから。
俺の気も知らず、ユーマ君とやらは、懐かしそうな微笑を浮かべた。
「そっか。部活とかサークル、何かやってんの?」
ああ、彼が何を期待してそんな事を訊いて来たのか、手に取るように分かる。
「サークル、一応やってますよ」
嘘は、吐いて無い。
やめてくれ。俺はもう、アンタの知る
アンタみたいに、競技の才能にもルックスにも……生きる巧さにも恵まれた人種とは違うんだ。
アンタみたいなタイプの養分にしかなれない奴なんだよ、今の俺は。
「……そのサークル、真剣にやってんだよな?」
ああ、ほら、あの頃と変わらない台詞を吐く。
タスク、やると決めた事はとことん真剣にやるんだ!
お熱い事だ。努力すれば報われる側の奴の押し付けだ。もうやめてくれ。
そして。
そんな俺の願いがようやく通じたのだろうか。
「ま、何だかお前に会えて良かった気がするよ。また、縁があれば、駄弁ろうぜ」
どこか寂しそうな笑みを滲ませて、ユーマ君は踵を返した。
それで心底ほっとした俺は、社会通念上最低なのだろうか。
今の俺は、某やり込み系ダークファンタジーARPGに人生の大半を捧げていた。
生半可な覚悟では最初のボスさえ倒せない、プレイヤースキル至上主義のこのゲームは、俺の生に辛うじての潤いを与えてくれていた。
愛用キャラのクラスは僧侶。回復魔法で継戦能力を高め、
僧侶と言えば、その豊富な補助魔法で仲間を
だが、俺は違う。
ネットで協力プレーなど、する気は無い。俺は一人で、この世界を戦い抜いて見せるからだ。
回復魔法も補助魔法も、戦士に匹敵するタフネスも、全ては俺だけの為の財産なのだ。
この朽ち果てた古城もあらかた踏破した。取り残したアイテムももう無い。
後は、ボスを倒すだけだ。
俺は武骨な鉄鎚を掲げたmyキャラを、ボス出現ポイントへ躍り出させた。
永年の妄執に突き動かされた、甲冑騎士の成れ果てが満を持して立ち上がり、その巨大に過ぎる剣を振り上げ――、
轟音。
震動。
俺の居る部屋が、粉々に砕けて崩落。
地震、だろうか?
そんな事を間抜けに考えるしか出来ない。
建材に体のあちこちが潰されているが、感覚はとうに無かった。
これが後に言う"魔物"の襲来であり、"
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