症
いつまでたっても、阿呆なことに変わりはない。恋人ができた次の日に、女である私と二人で会おうだなんて。彼女に対する配慮はないものか。抵抗なくそんなことをしてしまったら、そのうち誤解を招くんじゃないだろうか。折角の日曜日、私に会いたいと言ってくれた事は跳び上がるほど嬉しいけれど、彼女持ちである事を加味すると素直に喜べない。
良くも悪くも、彼は博愛主義だった。平和とか平穏とか、ほんわかした言葉が代名詞としてくっつくような人間なのだ。恋人ができても、仲良く友達として付き合ってきた私との時間もとってくれる。だからといって、恋人をおろそかにするわけではない。
そんな関係性が、私の中ではイメージとして出来上がっている。彼に恋人ができるのは前代未聞の非常事態なのだが、いつかこんな事が起きても可笑しくないとは思っていた。恋人の前での笑顔は、私に向けるものとは違うのだろうか。それを考えるとまた、心の奥が焦げ付くように疼いた。
出掛ける準備が整ったところで、ポケットの中の携帯が震えた。メッセージアプリを開くと、彼とのトーク画面に着信がある。
『そろそろ家出ます。昨日伝えた通り、駅前のファミレスで。』
絵文字もスタンプもない。律儀に記された句点が、あっさりした文面をより無機質に見せている。生身の彼は暖かさの塊なのに、勿体無いといつも思う。けれどこのスタイルも、周りに流されない彼だからこそのものだ。
了解と返信してアプリを閉じようとしたところで、昨日のメッセージが目に止まった。怖いもの見たさ、というやつだろうか。まだ心は焦げ付いているのに、鋭いナイフに刺されに行くようなものだ。
『彼女ができた。どうしよう。』
昨日の朝、彼からこんなメッセージがあった。どうしようってなんだ。私こそどうすれば良いんだ。フリーズしているとまた着信があって、
『ところで明日は暇?久しぶりに2人で会いたい。』
どういう脈略か、文面だけ見ればデートのようなお誘いをいただいたのである。思わず電話をかけてしまった。どうやら本当に彼女ができたらしかった。心は涙を出す気力さえなくしてしまったらしい。ふらりと美容院に行ってミディアムヘアにしたのは、また別の話である。
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