第4話 兄の心境

 カイトside

 シュタイン王国の第一王子として生まれた俺は、物心ついた時からとにかく「シュタイン王国の次期国王」として育てられた。勉学は語学、政治、経済、法律なんて当然のこと、シュタインの伝統文化に嗜むという名目で舞踊をやらされたり、護身術のために剣道・柔道まで…とにかくあらゆる知識や技能を叩き込まれてきた。

 幼い頃はあまりの辛さに弱音を吐いた事もあるが、その度に母親である現王妃に買収された先生に死ぬほど叩かれもした。だか、長い間そう行った生活を続けていったせいか、次第に叩かれることに対し無感情になり、ただ言われたことをこなし、将来シュタイン王国のための「道具」となるためだけに毎日を過ごすようになっていった。


 そんな生活を続けていても、感情が最後まで壊れなかったのは、今は亡き先代王妃のレイカさんと、その一人娘で俺のたった一人の妹であるユリのおかげかも知れない。


「ふふっ、カイト?そんな隅っこに座ってないで一緒にお菓子を食べましょう?今日はいつもよりも上手く出来たの!」

「カイトはたとえ血が繋がっていなかっとしても、私にとっては何にも代え難い息子よ。だから遠慮なんてしないでどんどん甘えてちょうだい。」

「カイトは本当に優秀ね!!私も勉強したけどどうしても理解できなくて…ユリに十分に教えてあげられないの…教えてあげるの手伝ってくれる?」

「兄様見て見て!お母様に教えてもらってくっきー?を作ってみたの!食べてみて?」

「兄様!私少し背が伸びたの!前測った時よりも3センチ伸びてたの!えへへ…」

「兄様お疲れですね…今日くらいはゆっくりしてくださいね?」


 シュタイン王国には当時二人の王妃がおり、後妻である俺の母親が実際実権を握っていた。大恋愛の末結ばれた父レイゼンとレイカさん。しかし、貴族の陰謀により以前から父を慕っていた俺の母親が父と政略結婚をし、後継である俺が生まれた。それでも父は諦めずレイカさんの元に通い詰め、俺が生まれてから10年後、ユリが生まれた。

 レイカさんはそんな自分の恋敵の息子である俺を本当の息子だと思ってくれ、母親が連日他の男と夜を過ごすとき、独りぼっちで寂しくないようにと、ユリと二人で暮らす離れに呼んでもらった。

 ユリもレイカさんによく似た綺麗な笑顔で俺を兄と慕ってくれた。

 そんな幸せな日々は、俺が17の時にあっけなく崩れ去った。


 レイカさんが火事に遭い、帰らぬ人となった。


 俺がユウナさん駆けつけた時には、燃え尽きた離れの前でペタンと座り込み、呆然としたユリが悲痛な顔をしたアリーシャに支えられていた。あの日からユリはほとんど、俺の前でさえ笑わなくなった。

 少しでも笑って欲しくて、何度も話しかけてもダメで。一日中ベッドの上で座り込んだままなことも多かった。そんなとき、突然俺の母親がユリを無理矢理自分の「道具」として働かせ始めた。まるで、幼い俺を、「道具」として感情もなく与えられた仕事を行うユリ。そんな悲痛な姿に生前のレイカさんに大事なユリを頼まれたのに何もできない自分が憎らしかった。

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