第5話 魔の手からの逃亡

 程なくして部屋に来た義理の母に連れられて行った先は、本来謁見の間として使われる場所だった。だが、その場所はもはや本来の役割を果たしておらず、いたるところにからの酒瓶やタバコの吸い殻が散らばり、裸の女の人が男の人と絡まり合っていた。そんな生々しい光景と、きつ過ぎるタバコの煙とお酒の匂いに気持ち悪くなり、即座に出ようとした、が、

「逃がさないわよ。」

 逃げようとしたことを気配で感じたのか、即座に義理の母に腕を掴まれ、部屋の中央まで引きずられてきてしまった。

 それと同時に、中にいた人の注目の的となってしまい、酔っ払ったおじ様方の目が、欲に塗れた、ぞっとするような目に変わった。

「なんだ、えらいべっぴんさんがいたもんだ。こんないい女なかなかお目にかかれねぇぞ」

「俺が先に頂いてもいいのか?」

 ニタニタと気持ち悪く笑いながら近づいてくるおじ様方に、義理の母は満面の笑みで

「ふふっ、たんと味わってくださいね?普段の皆様方の資金援助のお礼ですわ!」

 と言い放ち、高笑いしながら部屋を出ていった。

 余りの恐怖で、体がガタガタと震える。どうしよう、逃げられない…

「た、助けて…」

「おうおう、顔だけじゃなくて声も可愛いのぅ。優しくしてやるぞ?」

 必死に助けを呼んでも一向に状況は変わらない。むしろ、おじ様方が酒臭い息を吐きかけながらちかづいてくる。目をギュッと瞑り、両腕で体を守るように抱きしめたとき、目の前でユリの着物に手をかけたおじ様が横に思いっきり吹っ飛んだ。

「…てめぇ、俺の大事な妹に何してんだ」

 声がした方を見ると、そこには般若…の顔をした兄様が立っていた。兄様の手には磨き上げられた刀がある。

「俺大事な妹に何してんだと聞いてんだ!答えろ!!」

 そういうと、兄様は持っていた刀をおじ様方めがけて振り下ろし始めた。

 思わずギュッと目を瞑ると、後ろからふわっと打掛をかけられた。驚いて後ろを見ると、そこにはアリーシャが心配そうな顔をしてユリの顔を覗き込んでいた。

「ユリ様、今のうちに逃げましょう!カイト様が足止めをしてくださいます!」

「で、でも…」

「このままここにいれば一生飼い殺しにされます!そんなことは私もカイト様も、ユウナ様だって望みません。だから、カイト様がユリ様を逃がすために足止めを買って出て下さっているのです。このままカイト様の思いを無駄にするのですか!」

「うん…わかった。行く。このまま犯されるなんていや。だから…アリーシャ、助けて」

 私の返答を聞いたアリーシャは、ふわっと綺麗な笑みを浮かべて、

「承知いたしました、ユリ姫様。」

 といってひざまづいた。

ユリは、無慈悲に刀をおじ様方に向けているカイトに目を向けて、

「兄様、ありがとう。行ってきます。」

と呟いた。

 それを聞いたアリーシャは、一つ頷いてからユリの手を握り、屋敷の外へと飛び出していった。

 その様子を、カイトが笑みを浮かべて頷いていたことに、二人は気づかなかった。

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