第3話 美女への変身
しばらく泣いていると、突然辺りが騒がしくなった。何事かと二人で見合っていると、カツカツカツと特徴的な、恐怖心を煽るような音がこっちに向かってくる。心臓を鷲掴みにされたような感覚になり、ユリは胸をキュッと握りしめていた。
スパァァアアアン!!!!
「掃除どころか料理もやってないのこのグズ!!!!!!私があれほど言ったのに何一つできないなんてありえないわ本当に…まぁ、いいわ、事情が変わったからすぐに控え室に行くわよ。あんたでも役に立てそうな仕事があるからね。ほら、立って!歩きな!」
「あ、あ、きゃっ…」
「ユリ様!!」
突然前触れもなく義理の母が来ると、問答無用と言わんばかりにユリの首根っこを掴んでアリーシャから無理やり引き剥がし、引きずるように出て行った。
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引きずられて到着した先は、豪華な着物が所狭しと並ぶ衣装室だった。義理の母は衣装室にユリを思いっきり投げ込むと、中にいた衣装担当の侍女達に
「この娘を極上の女に仕立て上げなさい。男どもがこぞってかぶりつきたくなるほどの…ね?」
と、蒼の瞳をギラギラさせて、真っ赤なルージュをゆっくりとなぞるように舌なめずりをした義理の母は、まるで肥えたカエルを狙う大蛇のようだった。
侍女たちは、その義理の母の顔にガタガタと震えながらも、待たせて怒らせるのは得策ではないと悟っているのか、ユリを立たせて要領よくユリを「極上の女」に仕立て上げ始めた。
しばらくして、鏡を見たユリは、あまりの変わりように自分でも驚いていた。
「本当にこれ…私?」
普段全く化粧をしない顔は薄く白粉が塗られ、目もともぱっちりとしていて、蒼く澄んだ瞳は光の具合によっては潤んでいるように見せている。唇には桃色の紅が塗られ、瑞々しく、吸い付きやすそうだ。ボサボサの長い黒髪は、艶やかに、コシのある髪に生まれ変わり、石鹸の匂いがほのかに香っている。来ている着物は、赤地に牡丹の花が散りばめられ、絞まである見るからに一級品の着物であることがわかる。普通の女ならば、こんな豪華な着物を着せられて喜ぶのが普通だろう。実際、あまりの美しさに、ほとんどの同性の侍女たちですらユリに見とれていたにもかかわらず、ユリにとっては一体どんな仕事をさせられるのかという底知れない不安と、赤地の着物がどうして目恐怖の対象である義理の母を連想してしまうため、喜ぶどころか震えるばかりで、周囲の恍惚な視線に気づく事は無かった。
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